#3097/5495 長編
★タイトル (QWH ) 95/ 6/ 8 5:16 (125)
ベストナイン(9/10)
★内容
守備につく前にまたブルースカイのベンチ前に円陣ができる。
「ソフトボール投げで後何球ぐらいいけそう?」
監督の青治が何か考えがあるのか、ちょっと奇妙な事を茜に尋ねる。
「えっと、80球ぐらいなら余裕でコントロールつけれるよ。」
守備交代の指示を青治がだした瞬間、野球経験があった若葉以外のメンバーの表情は
驚き一色だった。
その指示とは、キャッチャーに瑠璃、紅介はライトへ交代。
茜はソフトボール投げで投げると言うことだった。
青治は理由として、すべて三振に打ち取るつもりといっただけだったが、ピッチャー
の茜が納得したので他のメンバーもそんなもんだと思い守備位置へついた。
瑠璃がマスクをかぶり構えた。
茜はいわゆるソフトボール投げの一つの8の字投げの投球練習もかねて10球ほどキャ
ッチボールをした。
捕球はよさそうだが、二塁への送球が届かないという問題があった。
まぁランナーを出さなければ問題はないのである。そういうことだ。
ソフトボール投げしたときの茜は、スピードこそオーバースローに劣るが、コントロー
ルに関しては段違いだった。
それに加え、すでに3順した打線を瑠璃はしっかり観察して頭に入っている。
茜は瑠璃の構えたところへただ投げるだけでほとんどヒットは打たれないであろう。
後は変化球や球の緩急を使い分けるだけだ。
最初の打者は前の打席で三振していて、苦手なコースをしっかり瑠璃に覚えられてい
たので簡単に三振に打ち取ることができた。
球が遅いといってもジャガーズなどの草野球の投手と比べて遅いだけで、それなりの
速さはあったりする。
次のバッターは困ったことに、3打数3安打で茜の球に対しての弱点がまだ分からな
かった。
だが、先週の記憶とセオリーを頼りに、コーナーをつくピッチングで何とかサードゴ
ロに打ち取る。
9番打者の番だがここで代打が宣言された。
代打はなんと、観戦にきてたはずのジャガーズのキャプテンの娘、浅野知子だ。
彼女も茜の力投を見てソフトボール好きの血が騒ぎだし、いてもたってもいられなく
なっていたのだろう。
知子がバッターボックスに入る前に、茜に向かってニコッと笑い軽くお辞儀をした。
茜もおかえしに微笑みながらお辞儀をするが、二人とも次の瞬間、顔がマジになって
いた。
相手が知子なら打つ打たれるとかいう問題じゃなくなってくる。
ピッチャーとして負けられないという意地からか、自分の最高の球と配球を相手に見
せつけ三振をとらなければ、と茜は思っていたし、知子も思っていた。
いつ茜にエースの座を奪われるか分からない自分の立場を、知子は理解していた。
茜が投げる一球目、きわどい内角低めのストライクだ。
知子は見送る。
二球目、今度もまた同じ内角低めのコースだ。
今度は知子は思いきり振りボールはバックネットにあたる。
三球目、またもや同じ内角低めのコース。
知子は自信たっぷりに振り抜こうとする瞬間気づいた、ボールがほとんど回転してい
ないことに!
ボールはバットをよけるように曲がり、受け損なったキャッチャーの膝にあたりホー
ムベースの上で弾んだ。
茜の投げたのは回転を与えないように投げる変化球中の変化球、ナックルボールだ。
回転してないため風などの条件で変化しやすく、投げた本人さえもどこへ飛んでいく
か分からない、という魔球とも言える変化球だ。
三振した知子は、振りにげできることさえ気づかないぐらいショックを受けていた。
両チームにとって初の三者凡退に打ち取り、次は5回の表、ブルースカイの攻撃だ。
ジャガーズのピッチャーはさっき代打で出た知子が、そのままマウンドへ上がってい
る。
草野球なのに両チームのピッチャーがソフトボール投げをするという珍しい試合になっ
てきた。
ブルースカイはまたも円陣を組み知子に対しての対策を錬る。
茜いわく、
「ソフトと違って、マウンドが遠いから速球は打てないことはないと思うけど、難し
いのは変化球。
一種類なら的を絞ることも可能なんだけどね。」
と言うことだった。
バッティングセンターが打撃練習の時間のほとんどだったブルースカイのメンバーは、
変化球をまともに打てるのは茜と若葉ぐらいだった。
この場合、打てるといってもよくて三回に一回ぐらいの割合なんだが。
結果、よく見てあてて転がせばなんとかなるかもしれない、ということになったが、
相手は百戦練磨で優勝候補のチーム、今までの試合がうそみたいにシャキシャキ動く
ようになった。
高校生の女の子に負けてしまったら恥ずかしいということか。
この回、ブルースカイも三者凡退に打ち取られてしまう。
その裏の守備。
茜はすでに瑠璃のリードを信用していた。
お世辞にも運動が得意とはいえない瑠璃なりに、ボールをよく体で受け止めてくれる。
軟式で遅い球が多いとはいっても、プロテクターは無いのである。
それなりに痛いだろう。
だが、瑠璃は痛そうな顔をするどころか、ベンチで嬉しそうに茜と投球の組み立てに
ついて、とかいうようなことを談笑している。
若葉は
「痛みが辛いようだったら、変わってもらえば?」
と瑠璃に言おうとしたが、自分の役目ができて楽しんでるのを見て肩を叩き、
「頑張れよ。」
と、励ます。
瑠璃の頑張りを気づいていたのは、茜や若葉だけでない。
その他のメンバーも気づいていて、
声をかけたり、ガッツポーズをしたりとそれぞれの形で瑠璃を励ましている。
そして、自分自身の励みにもした。
この回、ランナーを出しながらも無失点でおさえる。
ゲームは8−12、4点差で7回最終回の攻防へうつっていく。
この回の先頭バッターは2番の光一。
一球目、光一はバットをバントの形に持ち直しバント!
バットの先に辛うじてあたった打球は一塁線ぎりぎりを転がり何とかフェア、セーフ
ティーバント成功である。
3番藍香は平凡なサードゴロ、併殺打はのがれたけどセカンドフォースアウトで1ア
ウト1塁ランナーは藍香である。
4番紅介は三振に倒れ2アウト一塁である。
万事休すかと思いきや、ここで5番若葉が外角の変化球をうまくミートし、ライト前
ヒットで一、三塁。
6番茜は粘りに粘って、フォアボールを選択。
後から聞いた話だがこの時茜は知子の球に手がでなかっただけということだ。
これで、2アウトながら満塁だ。
点差は8−12で4点、ここで一発がでれば同点となり、逆転勝利も夢じゃなくなる。
次は今日いいとこがない長男の刈安だ。
バッターボックスに向かう途中、ベンチにいるみんなの一生懸命な声援を背中で聞き
ながら、
『今日の試合、自分はあんまり活躍できなく、ちょっと悔しいけど、なかなか楽しい。
伸び伸びやっていた前半も、みんなで力を合わせて勝とうとした後半も面白かった。
だけど、勝てたらもっと面白いし、楽しいだろうなぁ。』
と考えていた。
その打席の一球目だった。
偶然がいくつか重なった。
まず一つ目の偶然、知子の変化球がすっぽぬけ変化しずに高めのボールゾーンへ入っ
ていった。
二つ目の偶然はバッターが刈安だったことである。
刈安は長身でストライクゾーンが上下に広いのに加え、少しぐらいの高めのボール球
なら打ってしまうのだ。
三つ目はちょうど彼は考え事をしていて、いわゆる無意識状態で変化球狙いとかにこ
だわらずバットを振り抜けたことだった。
これらの偶然が重なりバットの芯でボールを捕らえ、軽ーく空へ飛ばしていった。
いつのまにか雲がとぎれとぎれになっていて青空が顔を見せている空へ吸い込まれる
ように・・・・。
そして・・・。