#3070/5495 長編
★タイトル (ZBM ) 95/ 5/ 6 10:31 (183)
のぞいてみれば 5 観代祐司
★内容
【26】
「やだ、どうして天窓開けておいたの?見られちゃたじゃない」
「あっ、昼間ヒューズが飛んだ時に暑いから開けておいたんだ。忘れてた。あはは」
「あははじゃないじゃない」
「まあ、そうかっかせずに」
お父さん、モニターのスイッチを入れると監視モニターの画を出す。
「先生!?」
朋子が肩を押さえながら逃げていくのが見える。
「駄目だなぁ、教師がそんなことしちゃ。ねえ、ありさくん」
「見られちゃったのよ。どうするの?」
「いいじゃん。だれも信じないって。証拠が無いんだから」
「美穂ちゃんの服と持ち物高田先生が持ってるんだよ」
「あら」
「あらじゃないでしょ」
「まあ、まあ、そっちはなんとかするよ。それより行動的だよね。先生。
助手として雇えないかな」
「なんてこというの・・・無理よ。先生、どが付くぐらい真面目な人なんだから」
【27】
朋子のアパート
朝日が眩しい。鳥達の囀りが聞こえてくる。
「ぴぴぴぴぴ」と、目覚ましの音。朋子眠そうな顔で目覚ましを止める。
ベッドの上で上半身だけ起き上がる。
昨日出かけたままの服を着ている朋子。
「痛っ」
頭に手をやる。そのまま昨日のことを思い出す。
首を振って起き上がると、風呂に迎う。机の上にはウイスキーのボトルが転がって
いる。
同、バスルーム。
朋子シャワーを浴びている。顔におもいきり水をあてて。
肩を見ると赤くアザになっている。
下を見て目をつむる朋子。
やがて腰から砕けるようにしゃがみこむと、うずくまる。
同・部屋。
時計の針が時を刻んでいく。
鏡の前に座って学校へ行く服装を整えているが、進まない。
目が赤く腫れている。
バックを開け財布を取り出す。その財布のなかに1枚の名詞。
昨日の下山功一の物だ。
名詞を見ながら難しい顔をしている朋子。
そこに、電話のベル。
ためらいながらも受話器をとる。
「・・・もしもし」
「あ、高田さんのお宅ですか」
「はい」
「俺だけど・・・ごめん。」
「・・・としお」
「昨日は、ついカッとなっちゃって、・・・けど、おまえだってわるいぞ・・・
ん、じゃ、な」
「待って!・・・」
同・玄 関
ドアが開く。ドアチェーンが掛かっている少し開いた隙間から朋子が覗いている。
同・部屋
「しかし・・・まいったな。なんて言っていいのかわからないよ」
「・・・」
「でも、相手がそういう連中だったら、下手に動くとこっちの身が危ないな。
こりゃ、警察に任せるしかないよ」
「でも、水城さんはどうなっちゃうのかなあ」
「未成年だけど、もう高2だろう。善し悪しの区別はつくから、お咎め無しって
わけには行かないだろう。保護観察?へたすりゃ少年院だろうな」
「あたしもう、何が何だかわからないよ・・・どうして・・・どうしてあんなこと」
「・・・」
「明るくて、元気がよくて、誰とでも仲良くやれるし、いい子だと思っていたのに
・・・あたし、教師をやっていく自信ないよ」
「その子は、特別だよ。母親を早くに亡くして、おかしなお父さん1人に育てられ
たんだから・・・。朋子のせいじゃないよ。そんないくら担任だからって、生徒
一人一人の性格までは変えられないんじゃないか」
「でも、・・・あたしがずっと目指してきた先生って、そんなもんでしかない
のかなぁ」
「今回のことは異常なんだ。きみはいい教師だよ」
「・・・学校に来ている警察の人に全部話すわ」
「うん。証拠もあるんだ。これで解決だな」
「もうこんな時間。そろそろ出かけなきゃ」
「送っていくよ」
「うん」
「気を落とすなよ」
「うん、大丈夫」
朋子立ち上がる。観代も。
【28】
学校・会議室
私服の刑事2人、その前の席に朋子
朋子話している。刑事の1人がメモっている。
同会議室・外
刑事2人出てくる。その後から朋子。
「それじゃ、またお話を聞くことになるかも知れませんが」
「はい」
「それから、また何かありましたら。連絡してください。」
「わかりました」
「失礼します」
刑事が階段を下りていくのを見届けると大きなため息をつく朋子。
その肩を叩く手。
振り向けばありさである。
【29】
学校・屋上
ありさ、金網ごしに風景を眺めている。
それを少し離れたところで見ている朋子。
「やっぱり、昨日の先生だったんだ」
「・・・」
「って、本当は知ってたんだけど」
「・・・」
「私がミスっちゃって、先生まで巻き込んじゃってごめんね。いつもあそこに
お父さんに見せられない通知とか捨ててたから見つからないと思ったんだけど」
「・・・」
「それでね。先生にお願いがあるんだけど。黙っててもらえないかなあ。昨日
見たこと」
「・・・」
「先生が何処まで知っているか知らないけど。・・・父さんの実験ね。なんとかうまく
いきそうなの。いま問題を起こしたくないのよ」
「・・・」
「先生が黙っててくれればすべてが丸く納まるの」
「水城さん・・・あなた自分が何を言っているか分かっているの?」
「ダメ?」
「あなた、自分がやってることが、どういうことか知っているの。犯罪なのよ」
「まぁ、非合法なことは認めるけど」
「あなた一体・・・人の命をなんだと思っているの、しかもクラスメイトでしょ。
なんでそんなに涼しい顔で いられるの。人の命を奪っているのよ。あなたは」
「私じゃないよ、先生。それに美穂ちゃんは死んでないよ」
「えっ?」
「ちゃんと生きてるよ。それにバランスも考えて栄養も与えているし、体を借りて
いるだけ」
「ひ、人の体を玩具にして・・・あなたそれでも人間なの、感情とか。道徳心とか
無いの」
「無いとこはないけど・・・先生」
「・・・」
「ねえ先生。人間て、地球上でいちばんエゴイストナ生物だよね。そう思うでしょ。
生きていく為だけじゃなく、趣味や見栄の為に自分たちの住みやすいように
自然を壊したり、動物たちを殺したりしてるんだから。ただのわがままだよ。
それに、
見た目の可愛い動物だけ保護したり。自分たちで勝手に食べていい生きものと
そうでない生きものを区別しちゃうんだから。自分たちが地球上でいちばん
偉いって勘違いしてるんだよね」
「・・・」
「そうかと思うと地球に やさしいなんてコピーで地球環境を守ろうなんて、
地球はさあ、人間なんかいなくても。核戦争で人類が滅亡しても
生きていけるんだよ。そして生きものだって、その環境に適応した生物が
生まれて、生活を始めていくんだよ」
「・・・」
「人間はきっと何処まで行っても自分勝手だし。地球は人間の意志とは関係なく
存在しつづけるの・・・」
「だからって人の命をおもちゃにする権利はあなたにはないわ」
「先生、私が言いたいのはそんな事じゃないよ」
「水城さん、あなたは病気よ。人間としての正常な判断が出来なくなっている」
「正常な判断?」
「心の暖かさを忘れてしまっている」
「それに残念だけど。もう警察のかたにすべて話してしまったわ」
「えっ、・・・そう」
気を落したように見えるありさに。少しやさしく。
「わたし水城さんのこと好きだったのに。」
「・・・わたしも先生のこと好きよ・・・だから、ひとつだけ忠告しとくね」
「?・・」
先生は、今まで見てきたことや聞いたことがすべてで、正しいと教えられたことが、
良いことだと思ってるかもしれないけど、世の中、先生の知っていることだけが
全てじゃないんだよ。それだけは覚えておいて。
それを知った上で、先生は今のままでいてほしいの。
だから・・・真実を知りたいってのはわかるけど。あまり無茶な行動はしないでね。
人には知らなくていい事だってあるんだから・・・。
知らない方がその人にとって幸せな事だってあるんだから」
「・・・」
ゆっくり階段に向かうありさ。
その後ろ姿を見つめている朋子。
6につづく。