AWC 解き放たれた絆 上          泰彦


        
#2761/5495 長編
★タイトル (BWM     )  94/ 9/28  20:43  (132)
解き放たれた絆 上          泰彦
★内容
 私には手紙をもらうような心当たりはなかった。
                ・              ・
 一介の魔術師である私に組合から手紙がきたのは一週間ほどの旅から帰ってきた時だ
った。長いローブに身をつつんだ男が私に小さな紙を渡し、「魔術師組合からだ」とい
うと風のように立ち去ったのだ。
 でも、こんなことばっかりやってたら息が詰まるから、魔術師の4割以上は冒険者と
して冒険に出るの。
 私もそんな中の1人。自由に気ままに、自分の未来に不安なんか感じてなかい。でも
魔剣探索の旅から帰ってきた時に受け取った手紙が、私の未来を大きく変えることにな
るとは、当の私にすら分からなかった。

 次の日、私は朝食より前に宿を出た。
                ・              ・
 私が宿に帰ってきたのは次の日の朝食前だった。正直言って宿にはいるとき、少した
めらった。仲間に無断で1日留守にした。いったいどういう顔をして会えばいいのだろ
う?
 扉を開くと、テーブルにはすでに全員が顔をそろえていた。
 「ハーフエルフの精霊使い」レイアス
 「ラーダ神の神官」アレストラム
 「赤毛の戦士」アデュー
 「非力な盗賊」カロス
 「刃物マニアのドワーフ」フォーグル
 私が彼らと仲間になったのは特に深い理由があったわけではなく、仕事で手を組んだ
のが最初だった。それ以後特に別れる理由もなく、一緒に冒険している。
 私は軽く微笑むと、テーブルについて食事をすることにした。
 話をどう切り出そうか迷っていると、レイアスとアレストラムが私を見て笑っている
のに気が付いた。私があまり食べていないのがおかしいらしい。
 「困ったことがあるのなら、いつでも力になりますよ。」
 食事が終わる頃、レイアスが私に言った。
 「あの・・・・・・雇われてくれない??」
 切り出すのは今だ。そう私は判断した。そのときのみんなの表情をなんと表現すれば
いいのだろう。困惑? ややあってレイアスが口を開いた。
 「水臭い。仲間じゃないですか。仲間というのは助け合ってこそ成立す るものなの
ですよ。」
  「でも、あまり詳しくは話せません。」
 「あなたを信頼しましょう。」
 ”信頼”なんだかなつかしい。
 「探索したい場所があるから、護衛して欲しいの。」
 「それはどこだ。」
 アレストラムが聞いてくる。
 「来れば分かるから・・・・・。」
 「やはり危険なんだろうな、そこは。」
 「それもよく分からないの。」
 彼の質問に私はろくに答えることができなかった。にもかかわらず、彼はこう言って
くれた。
 「私は協力するのにやぶさかではないが、カロス君はどうする?」
 「まあいいんじゃない?」
 「おや?あなたが金抜きで動くなんてめずらしいですね。まあとにかく、 われわれ
も時間を無駄にする訳にはいかないから、場所が分かっている のならさっそく出発し
ようでないか。」
 「じゃあ2階へ行って準備を整えてきましょう。」
 と、レイアス。それを合図にみんなは冒険の準備を始める。そんな中、私は”信頼”
という言葉の意味を考えていた・・・・・・。
                ・              ・
 私が向かったのはスラムの中にある石造りの家だった。私の両脇にはレイアスとアレ
ストラムが緊張した顔で歩いている。その後ろにはカロスとアデューが比較的のんびり
と続き、ドワーフのフォーグルは最後尾をどたどたと歩いている。
 「ここよ。」
 私はその石造りの家を指し示した。
 「ここは人の家出はないのですか?勝手に探索してよいのですか?」
 レイアスの疑問は予想していた。「ここは私の家だから。」そう告げた
ときの彼の顔を私は一生忘れないだろう。「「何しろ彼は、一等地に一戸
建ての家を建てるのが夢なのだから「「  私は家の中にみんなを案内した
 「”移送の扉”だ。」
 カロスが呆然とつぶやく。それを聞いてアレストラムもつぶやく。
 「”移送の扉”!?あの、2点間を結んで瞬間的に移動することができ るという・
・・・・あの”移送の扉”か。」
 まずレイアスとフォーグルが前に出た。次に私とアレストラム。後ろにカロスとアデ
ュー、私達が遺跡を探索するときの基本的な隊列だ。遺跡。そう、扉をくぐった私達の
前に現れたのは石造りの迷宮だった。
 「迷宮といえば宝。宝といえば武器、刃物じゃな。」
 フォーグルはうれしそうにわたっている。彼はどんな時でも恐怖を感じないのかしら
?
 道は10mほど進むと左に曲がり、さらに10mほど進んで3つに別れていた。盗賊
のカロスが偵察する。こんなとき、彼はいつもぼやく。でも、ぼやきながらもきちんと
仕事をするのは、自分が他の時に役に立たないこ
とを気にしているからかもしれない。「「彼は私よりも力が弱いからたた
かいに向いてないし、人付き合いが悪いので、街での情報集めにも向いて
いない。そんな彼だが、罠を調べたりするのだけは他の誰にも負けない−
「「カロスが偵察から帰ってきた。道は3本とも行き止まりで、突き当り
には右側は2本、中央は3本、左側は2本のレバーがあったという。
 「でも、中央のは3本とも根元から折れていて、左側は1つだけ折れて いたぞ。ど
れもかなり昔に動かしたみたいだね。」
 「とりあえず押してみないと分からないのではないか?」
 アレストラムはそう言うとさっさと左側へ歩き始めた。カロスとレイアスが急いで後
を追う。私とフォーグル、アデューはその後ろからゆっくりついて行くことにした。
 その瞬間、私は何が起こったのか分からなかった。
 一瞬にして3人の姿が視界から消えてしまった。急いで近づいてみてようやく理解し
た。落し穴だ。アレストラムがレバーを押して罠を作動させてしまったらしい。カロス
は何とか縁にしがみついているが、レイアス達は落ちてしまったようだ。
 「大丈夫?」
 そう聞く私に、アレストラムの声が聞こえたが、ほっとしたのもつかの間だった。
 「私は大丈夫だがレイアスが危ないかもしれない。それと、奥にも道が 続いている
。」
 「ミルさん。この迷宮にはまだこんな危険な罠があるのですか?」
 アレストラムの質問。
 「何のためにここまで来たんですか?」
 レイアスの疑問。私はどちらにも沈黙をもって答えとした。「これは私の事だから」
そういう気持ちが心のどこかにあったから。2人はそのまま何も聞かなかった。”信頼
” 心のどこかで警報がなっていた。
 「なぜこんなところにこんなものが?」
 疑問を持ちつつ見上げる私をレイアスが呼んだ。ちょうどアレストラムが扉の奥へ進
もうとするところだった。私はもう一度絵を見上げると、みんなの後を追った。
                ・              ・
 扉の奥は書斎のような部屋だった。壁には再び絵がかいてある。今度は王が戦ってい
る絵だ。それを見てカロスが呆然とつぶやく。
 「これは”古の伝承者”の・・・・。」
 そう、王が国を失ってから立て直すまでの話だ。カロスが知っているとは思わなかっ
たが、詩人ならおそらく誰でも知っているだろう。
 そのとき、家具が突然震え始めた!!
 「ポルターガイスト!?」
 レイアスが叫ぶ。
 「違うわ!!これは幽霊の一種、ファントムよ。」
 「では死人成仏の呪文を。」
 「駄目よ、アレストラム。そんなもの効かないわ。」
 そう、それどころか物理的な攻撃もいっさい受け付けないのだ。
 やがて机の向こうに初老のの男性の姿が現れた。向こうが透けて見える・・・・・・からに
は幽霊なのだろう。
 「ここが目標の場所ですか?」
 「ええ、たぶん。」
 アレストラムにそう答えながら、私はその男性から目が離せなかった。どこかで会っ
たことがあるような、そんな懐かしさが私を包んでいた。
 「あなたは誰ですか?」
 アレストラムは幽霊に話しかける。
 「私は”古の伝承者”そこの女性を待っていた。」
 「それは何故ですか?」
 「彼女は私の子孫なのだ。」
 「それではあなたが彼女を呼んだのですか?」
 「私は呼んでなどいない。」
 「ミルは結局、自発的にここへ来たんですね。」
 最後にレイアスがそう言ったとき、私はすべてを話す気になった。”信頼”それが私
の気持ちを変えた。




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