AWC JETBOYS.5


        
#2604/5495 長編
★タイトル (EXM     )  94/ 5/ 2  20:36  (135)
JETBOYS.5
★内容

             「JETBOYS」
           第5話「JET!GET!」

         フリエ! フリエ! フ・リ・エ!
         フリエ! フリエ! フ・リ・エ!

 鹿島アントラーズのキックオフでこの試合は始まった。

横 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10  11

      大 渡 岩 井 モ 前 バ 前 エ 井
浜 森       上 ネ   ウ   ド 上
    竹 辺 井 誠 | 園 ベ 田 ゥ 渚
            ル   ル   |
F



  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10  11
鹿
    古 秋 賀 奥 大 本 ア サ 黒 石 長
              ル ン     谷
  川 田 谷 野 野 田 シ ト 崎 井 川
島             ン ス
              ド


  アントラーズの攻撃は、サントスを軸とした素早く正確なパス攻撃の連続であ
る。そして、アルシンドのコントロールが勝敗を左右する。
 俺はフリューゲルスの背番号5を直視している。今、ボールは上がっている秋
田の足許に在る。
 秋田が、サントスに若干プラスのパスを出した。
 誠が動いた!
 パスは、一応サントスに渡る。だが、既に誠は食いついていた。
 ワァァッ!と歓声を上げる観客達の熱気が二人に火を付けた。フェイントを駆
使して、サントスがボールを奪われまいと味方のフォローを待つ。誠も、細かい
足技を駆使して、必死に奪おうとする。
 既に、アントラーズは石井と本田がフォローに来ている。フリューゲルスも、
プレスをさらに堅固にする為、岩井と渡辺一平、バウベルが更にプレスを掛ける。
 四面楚歌のサントスは、誠に楔を打ち込まれ、苦し紛れにパスを出す。しかし
パスを出した所に居たのはモネールであった。
 モネールの速攻!
 行け! 前園!
 モネールがセンタリングのパスを出す! しかし、大きい! ボールは前園を
越えゴールラインへ転々と、・・・・・・  しなかった!
 フリエサポーターが無我夢中に叫びを上げる。ゴールラインギリギリの所に、
突如、渚が現れた!
 既に、渚へのマークなんて外れていた。懸命に大野や奥野が追い詰めるが、渚
はそれよりも早くボールを裁き、そしてフィニッシュに持ち込んだ。
 誠のしなる左足から、弾丸が発せられた。
 フリエサポーターの熱狂がピークに達する!開始早々のゲットか?
 だが耳に届いたのはため息のみであった。
 ああ、本田さえいなかったら。本田がゴールマウスの中からシュートを弾き返
したのである。
 けど渚に、悔しがってる様子はない。渚の頭の中には、次のゲットの姿が映っ
ているのかもしれない。
 フリューゲルスは怒濤の攻撃でアントラーズを苦しめる。ノンストップの筈の
インファイト(鹿島のサポーターズクラブ)はバラ色の狂気を封じ込められたま
まであった。
                  ★
 ニッポン放送が、この試合に関するインフォメーションをまくしたてる。
 ボールの支配率が異常な数値を示していた。開始25分の所で、フリューゲル
スが70%以上ボールを持っているのである。
 この試合率の差は、二つの新しい要因が如実に現れたものであった。
 どんなロングのパスでも、食らいつき諦めることを渚は知らない。渚の位置は、
前田治より少し下がり目、フォワードとしては下がっている方である。
 この渚は、エドゥーがパスを出すところ、何処にでもディフェンダーより速く
現れるのである。ゴールキーパー古川と大柄なディフェンダー大野が体を張って
水際で食い止めているお陰で点を取られないで済んでいるのだ。
 今度はゴールラインギリギリの所まで持ち込んだ前園から渚へのセンタリング
が上がった!
 しかし、前田に二人、渚に三人のディフェンダーがついていた。結局空中戦は、
アントラーズの奥野が零れ球を拾い、渚のゲットはならなかった。
 一つの表の要因が渚としたら、陰の要因は誠である。
 奥野が右から上がる秋田へと強めのパスを出し、サントスへとパスを出す。
 ここでまたスタンドが沸き上がる。誠がまたサントスをゾーンプレスの罠には
めようとしていた。
 そして、体を密着させるようにして食らいつき、奪うのである。
 そこから、前園もしくはバウベルにショートパスを出し、反攻するのだ。
 「さすが加茂さんだなぁ! 」
 隣の新米記者から漏れた言葉に俺もうなずく。テクニックに優れた者にゾーン
プレスの中核を任せる加茂監督の采配は見事に的を得たものである。誠は監督の
采配を好しとはしていないが、勝つためには点を取ることより取られないことが
大切なのであるわけだ。
 ラジオの実況が早口でまくし立てる。またフリューゲルスの怒濤の攻めが始まっ
た。
 前園が、今度はペナルティエリア寸前でボールを外側に叩いた。
 タッチラインぎりぎりの所に知らぬ間に現れるエドゥー。秋田と本田が反応し
たときには、既にボールは彼の足に有った。そのエドゥーがワントラップの間を
おいて、それをゴール目掛けて撃ち込んだのである。
 アントラーズのゴールキーパー古川が大きく跳躍し、ボールを手中にせんとし
 だが不幸だったのは、エドゥーがフリーキックの名手だったことである。その
事が本当の恐怖を忘れさせてしまっていた。
 本当の恐怖は、らんらんとした顔をして古川の目の前に現れた。
 渚は、頭でエドゥーからのセンタリングを受け取ると、それを足下に落として、
すぐさま叩き込んだのである。
 シュートコースは渚の左足から外側へ、古川の反射神経の及ばない高さと位置
へ飛び込んだのである。
 本田の体に触れたかもしれない。しかし、突貫小僧本田の気力も及びはしなかっ
たのである。
 ボールはゴールネットから落ちて、その存在を主審に示した。

           ピィィィィィッ!

 「やった! やった! やった! 」
 俺は、アントラーズ担当の記者連中に気兼ねせず、ホンネを声にして表してし
まった。
 開始28分の事であった。エドゥーのアシストを受けた渚のゴールが、フリエ
サポーターの大歓声を呼び起こしたのである。スタンドは一気にスカイブルーの
フラッグで埋め尽くされた。
 その後もフリューゲルスの猛攻は止まることを知らなかった。アントラーズの
守備陣形は現状5−3−1−1の防戦一方で、渚や前田を囲い込む事で手一杯だ。
 はるばる鹿島からやって来たインファイトも不甲斐ない自軍の姿勢に、口笛で
抗議の意思を示すしかない。口笛は、沖縄っ子の渚や誠にとっては声援他ならな
いものなのだが、それでも口笛を鳴らし続けたのは渚や誠の素早さや技術を認め
た事なんだと思う。
 前半45分で1−0はアントラーズの精一杯の抵抗だったかもしれない。
 三つ沢のロイヤルボックスには、頭を掻きむしる一人のブラジル人が居た。世
界一負けず嫌いの神様がロッカールームに降りたって喝を入れる光景が見れそう
である。カメラマンの小岩井がこのジーコの姿を撮らえていたら面白い。
 ハーフタイムに軽食をとることにした。カバンの中には、成美が作ってくれた
サンドイッチが入っている。
 圧倒的優勢に喜ぶフリエサポーター達の歌う「Victory」をBGMにし
て、一口頬張った。
 後半戦もフリューゲルスの猛攻の連続は疑いない。
 ただ、一つ気になったのはアントラーズのミッドフィルダー本田の動きである。
前半半ばから後半、誠がゾーンプレスを掛けに行ったときに、フォローに入った
本田がファール紛いのチェックをかける光景がしばしば見られた。
 不安であった。沖縄での惨事を俺は知っている。昨日の誠は良い娘だった。だ
から、自分を汚す行為に及んでほしくないのだ。
 本田との駆け引きに、本当の意味で負けない様、遠くで願うだけだ。
 審判と選手たちが再びグラウンドに現れた。後半戦の始まりである。

                            つづく




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