AWC 「滅亡と復活の狭間」(4−1)  井上 仁


        
#2549/5495 長編
★タイトル (VHM     )  94/ 3/23   2:55  (129)
「滅亡と復活の狭間」(4−1)  井上 仁
★内容

            「滅亡と復活の狭間」(4)

                井上 仁


       「そして終末は、彼らの視界から消えていった。」


「きゃっ、なに、なに?」
「あれを見ろっ!」
 ミィの顔を柱の方へ向けます。
「え……なに、あれ、あ、あ、あ、う、うそ!」
 バロックが、柱の中で、目を閉じて、すこしづつ、溶かされています。あの中はど
うやら液体のようです。すでに皮膚はぼろぼろになっています。血が吹き出ないのが
不思議です。
「ど、どうしたんだ、おじさん!」
 ミィがやっと立ってくれたので、ラストはバロックの元へ駆け寄ります。柱の台座
も壁とほとんど同じ色で、何やらいろんな物がくっついています。手あたり次第にラ
ストがそれらをいじってみようとした時でした。
『やめなさい』
 部屋のどこからか、いえ、部屋全体から響いてくる柔らかい、男性の声がそれを押
しとどめました。
「誰だ?」
 誰何するラストの元へ、ミィが駆け寄ってきます。
『私はここの番人。私は声が出せないので、こうして間接的に、言葉を伝えている』
「どこにいるんだ」
『おまえ達の目の前に』
「……聖なる鳥?」
 鳥は、そのほっそりとした首を縦に振ります。

 ううう…………ああ、うあ、あ……

 二人の心臓が飛び上がりました。バロックが、苦しそうな、低いうめき声を上げた
からです。
「お、おじさんをどうする気だ!」
「このままじゃおじさん、死んじゃうよ……!」
 二人の言葉に、困ったようなそぶりで、鳥は答えます。
『もし、この人をここから出すと、おまえ達の村が全滅する。それでもいいというの
なら、いますぐにでも』
 驚きが身体を走ります。納得いきません。ラストが突っかかります。
「どうしておじさんを助けると村が全滅するんだよ!」
「ら、らすと……これじゃ、もう、だめだよ、もう助からないよう……」
 両目をぎゅっと瞑って、涙声でミィがラストの袖を引っ張ります。彼が振り返ると、
ちょうどバロックのもう片方の眼球も溶けて流れ出していました。もう、動きません。
所々では、骨が露出してきました。
「う……」
 吐き気を必死にこらえます。自分は今、ミィの唯一の拠り所だから、と自分に言い
聞かせて。そのミィはラストの袖をしっかりと握って、目を閉じたまま小さく震えて
います。これほど怯えたミィを見るのは、小さい頃彼がミィを森に置き去りにしたと
き以来でした。ちょっとしたいたずらのつもりが、一週間口を聞いてもらえなかった
のは、今でもはっきり覚えています。
『落ちついたかな?では質問に答えよう。先ほど、地震があっただろう』
「あ、ああ」
『あれと同じようなことが、おまえ達の島でも起こったはずだ。
 この星「「「この海、といったほうがいいか「「「この海にはな、島はここと、お
まえ達の島の、二つしかない。それは置くとして、だ。
 昔、ずっと昔、人間は他の星に住んでいた。科学という力で、彼らは空の向こうへ
行くことすらできるようになった。そうして他の星に移り住む直前、奇妙な現象が起
こった。
 戦争で人間が死に絶えることは、なかった。そのかわり、ある世代から、無気力化
という事態が起こった』
「無気力化?」
『そう。少し難しい話になるが、聞きなさい。
 無気力世代と呼ばれる彼らは、いかなることにも関心を持たない。いままでどんな
生物も捨てたことのない、生への欲求すらも、彼らにはなかった。そんな彼らが担っ
た事業は、ことごとく消滅していった。彼ら以前の世代は、〈腐敗〉と称してこれを
非常に恐れた。
 そのころ、遺伝子工学も盛んになり、この原因が種の限界にあるとの結論が出てし
まった。科学者達は恐れた。人間はここまでが成長の限界だなどと認めたくはなかっ
た。しかし、それから自殺者の急増まで起こり、科学者はついに、ある行動に出た』
「言ってることが半分もわからん」
『我慢して聞いてくれ。
 その行動とは、とにかく何人かの人間を乗せて、人間の住める星に送り込むことだ
った。風化寸前の宇宙産業だったが、なんとかこの計画は成功した。そして、人間は
自殺した。』
「人間が、自殺……?」
 話に興味を奪われて落ちついたミィが、意味をはかりかねています。
『どのような方法かは知らないが、世界戦争を引き起こして、人間を全員、死に絶え
させたのだ。たぶん、それも成功しただろう。その後、〈地球〉と呼ばれるその星を
飛び立ったのが、私たちだ』
「わたしたち……」
 その鳥は、その時の乗員の中の一人だったそうです。今の身体は、なんとかいう物
でできていて、歳をとらないのだそうです。
『そうして、この星に着いた私たちは、唖然としたよ。陸がないんだ。しかし、その
時はもう誰も、再び宇宙に漕ぎだそうという意欲のある者はいなかった。しかたなく、
大地を操作して小さな島を一つ造って、そこに住むことにした。それがおまえ達の祖
先だ』
「一つ……って、じゃあこの島は何なんだ?」
『これはその船だ。星を渡ってきた、宇宙船だ。そしてここはその中だ』
「こ、ここが?ひえ、でーっかい船なんだなー」
 ぐるぐると周りを見回すラスト。
『ああ。……しかし、所詮は人工の島。人間のもつ生体力というものを力の源にして、
島は今までなんとか形を保ってきたにすぎない。その生体力を取り出す道具が、これ
だ』
 鳥が柱に目を向けました。もうすでに、肉は少しも残っていなくて、骨だけになっ
ています。
「じゃ、じゃあ、いままで聖なる鳥を見て帰ってこなかった人たちは、みんな……」
「そんな……そんな……おじさん……」

 言葉に出したはずみで、バロックのさっきの姿が脳裏と瞼によみがえって……!

「いやっ、いや、ずっと、こんなことが続いてたの?ずっと、ずっと昔から!やめて、
やめてよ!どうにか、やめる方法はないの?」
 錯乱状態です!
 ラストがミィの肩をゆすって、正気に戻そうとします。
『安心しろ。方法は、ある』
 少女の錯乱を打ち消すため、簡潔に、ゆっくりとそう言いました。
「ある……の……」
 これはうまい!ミィが落ちつきを取り戻しました。
『と、言うよりな。もともともう、あの島はこれ以上浮かんでいられない。限界なの
だ。所詮は人工の島だ。さっきも言ったがな』
 さて、そこで、と鳥は切り出しました。
『おまえ達はこれから、三つの内から一つの行動を選ばなければならない。
 まず一つ。
 このまま島へ戻り、最後まで村人と一緒にいるか。
 一つ。
 二人同時にこの中に入って、少しでもあの島の沈没を遅くするか。
 最後の一つ。
 宇宙へ出る気を失った村人に別れを告げ、二人で新たな新天地を探して飛び立つか。
 このうちの、ひとつだ。どれかを選ばなければならない。ゆっくりと考えることだ』


「どれか、ひとつ……」
「…………」


               4−2へ続く





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