AWC 一遍房智真 魔退治遊行 青頭巾1 西方 狗梓


        
#2393/5495 長編
★タイトル (ZBF     )  93/11/25   4:27  (116)
一遍房智真 魔退治遊行  青頭巾1    西方 狗梓
★内容

一遍房智真 魔退治遊行−青頭巾1−西方 狗梓:Q-Saku/Mode of Fantasy

 建治二年の或る日、館に太宰府から便りが届いた。修業時代の兄弟子からだ。
聖達が一遍に会いたがっているという。一遍も久々に師の名を聞いて、たまらな
くなった。どうしても会いたくなった。会って自分の来た道を聞いてほしかった。
一遍は超一に話し、一人で旅立った。
 九州に向かうには、まず瀬戸内海の島々を伝って安芸に出、長門を通って下関
に渡る路が安全だ。しかし超一の強い勧めで一旦、伊予長浜まで下り、佐田岬を
伝い波高き豊後水道を渡って、豊後へと向かうことにした。
 この長浜辺りは、伊予灘を西に望み、夕焼けが美しい。湖のような細波が、黄
金と濃紺に染め分けられ小刻みに揺れる様は、たとえようがない。館を出て三度
目の夕焼けを見た時、漸く長浜近くの村に辿り着いた。もう船は出ないだろう。
一遍は村で宿を借りることにした。

 日が西ざまに傾き、山へと隠れようとしている。一遍は、道を急いだ。七歳ぐ
らいの女の子が村の入り口で鞠をついている。つきはずし、鞠が一遍の足下に転
がり来る。腰を屈め、ツイと掴み上げて、手渡そうとする。女の子は円らな目を
大きく見開き、震える唇を開いたかと思うと、
「お、鬼、鬼っ」とばかり叫び、駆け去って行った。
 しばし呆然と立ちすくんだ一遍は、鞠を掴んだまま、村へと入る。往来の男女
は、あるいは我が子を抱き上げ、あるいは転げつつ逃げ散っていく。不審に思っ
て、井戸端に打ち捨てられた盥の水に己が形を覗き込んだが、いつもと少しも変
わらない。行くほどに大きな門構えの家に辿り付き、案内を請う。明らかな人の
気配はありながら、答えがない。一遍は、ふと一計を案じ声色をつかって、
「いずら。鬼にこそあるなれ。入るをムゲに拒むは、つたなし。打ち破りて入り
 けむ。祟りや為しけむ。出や、いでや」
 すると玄関に七十許りの男がコソコソと俯き出てきて、
「い、命ばかりは……」
「はて、愚僧は旅の者ですが、何を、そんなに恐れているのです」と殊更に柔ら
かい声で問えば、老爺は恐る恐る上眼遣いで一遍を見て、
「お、鬼ではなかったのですか」
「旅の僧です。日が暮れて困っております。宿をお願いしたい」
「お、おぉ、確かに鬼ではない。旅の坊様でいらっしゃいましたか。失礼いたし
 ました。さぞかし気を悪くなさったでしょう。お泊め申します。お泊め申しま
 すとも」老爺は安心したのか、途端に相好を崩し一遍を招き入れた。

「助かりました。思いがけなく御馳走まで賜りまして」一遍が深々と辞儀をする。
相伴していた老爺は慌てて辞儀を返しながら、
「いや、こちらこそ旅の坊様とも知らずに愚かなことを申しました」
「さて、そのことです。鬼とか鬼ではないとか。何かあったのですか」
「実は……」

          ●

 その村の山手深くにある寺は古来、密教を奉じて近郷に名を知られた名刹だっ
た。十年ほど前に住職が交代したが、新しい僧も極めて真面目で村の者の評判も
良かった。しかし昨春、人に呼ばれて北の国に行き、拾ったか買ったかした美し
い少年を一人連れ帰った。少年は十二、三歳、色白の顔に鮮やかな青頭巾が映え、
どこか高貴な雰囲気を漂わせていた。住職は少年を溺愛した。当初は憚りもあっ
たのだろう、人前では従者のように扱っていたが、暫くすると、あからさまに愛
人として朝に夕に戯れかかり、かき抱き、打ち重なった。

 夜も更けると少年は住職の前に立って紐を解き、ハラリと衣を落とす。白くス
ンナリとした肢体が銀の月に青く浮かび上がる。僧侶が紅い小さな腹掛け様の布
を取り出し、少年の白く小さなペニスに宛う。艶やかな脇腹に舌を這わせながら、
少年の尻の上で紐を結わえ、固定する。その侭に掌を背骨に沿って上らせると、
少年はビクッと喉を反らせ、細やかな腕を僧の頭に回す。僧が、ユックリと体を
前に倒せば、少年は仰むけに押し倒されていく。
 当時の男色作法では、向かい合う形を良しとした。所謂、屈脚位である。しか
し、この体位では稚児のペニスが行為者の腹に当たり、具合が悪い。稚児は女性
の代わりに用いられたのである。故に、ペニスを股間の中へと押さえ付ける腹掛
け様の物が必要だったのだ。
 住職は少年を仰向け脚を高く掲げさせ且つ大きく開き、魔羅をばズップリと油
で濡らした”女陰”に埋め込んだ。少年は「あっ」と小さく叫んだが、慣れた風
に魔羅を根本まで招き入れた。腰を遣う。痛みを堪えるのか固く目を閉じた侭。
鈎に曲げた指が僧の背中に食い込む。床に広がった長い黒髪を背景に、白く美し
い顔がユサユサと上下に揺れている。指は撫ぜるように緩やかに、引き掻くよう
に強く、僧の背中を這う。伸べて鈍やかに輝く首筋に、僧が狂おしく吸い付き、
薄赤く凌辱の痕を残していく。「はうっ、はあうぅ」。糸を引くが如く粘った喘
ぎが、少年の桃色の唇から漏れ、僧の耳を嬲る。「おおおおっっ」。僧は一際律
動を早めたかと思うと強張り、痙攣し、少年の上に崩れ落ちた。
 ユルユルと萎えかけた物を引き抜き、グッタリと体を伸べる僧侶。少年は横座り
に起き上がり、枕元から濡れた手拭いを取り出す。僧侶の魔羅に柔らかく巻き付
け軽くしごく。二つに折って己の股間深くに挿し込む。少しく眉を顰めて拭う。
横ざまに伸べた僧侶の腕に頬を載せ、薄やかな笑みを浮かべて、まどろみの表情
となる。
 僧侶はすっかり我を失い執着し、少年でなければ夜も明けぬ日も暮れぬ、愛欲
の虜となった。一歳の日々が過ぎた頃、如何なる病に冒されたか、物に憑かれた
か、それとも仏罰か。少年は或る朝、冷たくなっていた。村人たちは、僧侶に腸
を突き破られた、と噂し合ったが事実かもしれない。しかし僧侶は、愛する少年
が死んだとは、信じたくなかった。だから、信じなかった。弔いもせず、葬るこ
となぞ思いもよらず、愛欲の命ずるままに、陰間を貫き、戯れ、ねぶり回した。
 人間は腐敗する。暫くは生けるが如くに美しい貌を保っていたが、腐臭が強く
なり、ついで青黒く変じ、張りのない膨張が始まった。美しく白く艶やかに細や
かな少年の姿が、醜くくすんで膨れていく態を、僧侶は甘美な気持ちで見つめ続
けた。この上なく気貴い造形物が、目に見えぬ何者かによって凌辱され、ズタズ
タに破壊されていく。
 腐臭が淡く山門の外まで漂いだした頃、僧侶は少年の肢体に噛み付き、皮膚を
食い破った。ドロリとした汁が舌を流れる。粘つく腐肉を咀嚼する。腹を割いた。
湧き出たヌメる臓物を己が裸身に、な擦くり付け悶える。少年の上に撒き散らし、
肉体を押し付け腰を遣う。眼球を噛み砕き回りにあるドロリとした肉/膜を啜り
飲み込んだ。ポッカリと空いた眼窩に魔羅を突き立て突き入れ、狂おしく掻き回
した。液体とも固体ともつかぬ感触に、何度も果て絞り出した。やがて僧侶に貪
られ、少年は白骨と化した。
 僧侶は腐肉の味を覚えた。寺の墓地から次々と屍を掘り出した。姦し尽くした
後、味わった。墓地の屍を食い尽くした。近郊の寺の墓地を暴き、昼日中に腐敗
した肉体を引き摺り戻ってきた。誰も手出しはできなかった。精を放ち過ぎたせ
いか痩せ枯れ目は窪みながら炯々と輝き、膚にはギトギトと脂が浮き、歯を血と
肉汁で赤黄色く染めていた。村人は僧侶を、鬼と呼んだ。

          ●

「僧でありながら、なんと浅ましい」老爺の話を聞き一遍は驚いた。
「以前は徳の高い坊様だったのですが。それから村人たちは坊様を見たら鬼と思
 って逃げ出すようになったのです。お上人様を鬼と間違ったのは、かくいうワ
 ケでございます」
「ふぅむ、で、その御房は人を殺めて食らったことは」
「さすがに、ございません。食らうのは既に死んだ者ばかりです」
「ならば全くの鬼となったワケでもないようじゃ。愚僧に、お任せ下さい」
「しかし、お上人様にもしものことでもあったら……」
「もしもの時は、南無阿弥陀仏と唱えて往生するまでのこと。心配召されるな。
 考えがあります」
「如何なお考えが……」

(つづく)




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