#3111/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF ) 93/ 4/15 1:20 (136)
八百政の謎2 久作≠
★内容
(鬼畜探偵・伊井暇幻シリィズ)
●展開(小林純)
「チキショオッ キュウリの分際で生意気な……」
先生の部屋からブツブツ聞こえてきたから、何かなぁって思って開けたら、先
生、下半身を露出して自分のとキュウリを比べてた。
「ああっ おほんっ 小林君 入る時はノックをするよぉに」
「何だよっ 先生 昼間っから おっ勃てて」
「えぇと 別に……」
「別にじゃないよっ あぁぁ 食べられなくなっちゃったじゃない 汚いなぁ」
「なんだよ 汚いって ユウベだって……」
「あああっっ ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサァァァイイイイッッ」
「あっあっ 赤くなってやがる やぁぁいっ」
「ばかぁっ」
ナンデこんな男と暮らしてるのか自分でも情けなくなったけど、フとキュウリ
に目を遣ると、確かに立派。先生のとは比べものにするのが失礼なくらい。長さ
は四十センチ程度、反り返って直径は五センチぐらい。
ジュルジュルと音がするから顔を上げると、先生、今度は長さ一メェトルはあ
る白ネギを根っこの方から噛みながら汁を吸ってた。これほど格好悪い男とナン
デ一緒に暮らしているかと改めて思った途端、目頭が熱くなってきた。
「先生 何してるんですか」
自分でも冷た過ぎるかなって感じの声。
「はむっ? 体に良いんだよ ハァブは」
「ハァブ?」
「うん ハァブってのはな ネギとかショウガとか まぁ香草
香りの草って字が似合う場合もあってな 刺激になってイイんだよ」
「ハァブってネギとかショウガのことなんですか?」
「そうだよ だからネギ湯もハァブ・ティも一緒」
本当かドウか知らないけれど、いつもケムに巻かれちゃう。
「ふぅん じゃ せいぜいネギでもシャブって頭を良くして下さいねっ」
精一杯の皮肉を言ってやったらニコニコ顔で「うん」だってさ。バッカじゃな
いの、本当に!
「ああっ せっ先生っ 何だよっ イヤだよっ 昼間っから」
背中を見せた瞬間、先生が後から抱き付いてきた。右手にキュウリを握ってる。
「純 こいつを銜えてみな ほぉれ ほぉれ」
「へっ変態っ イヤだよっ やめてよぉっ」
「へっへっへ どっちが変態だぁ 女なのに男の子になりすまして
しかも男に愛されたいなんさぁ お前もソォトォな変態じゃねぇか
だから俺とツルんでるんだろ 変態の俺とよぉ え おいっ」
イヤラしくニタニタ笑いながら僕の両頬を掴んで口をコジ開けてきた。
「へっへっへ ほぉれほぉれ」
ギトギトと脂ぎった目、ダラシなく開けた口元。本当に今度という今度こそ別
れてやるっ……ああっんんんっ。
「先生いる? あらっ」
美貴さんが入ってきた。片手に例のキュウリを掴み、少し上気した赤い頬をし
てる。
「ゴメンなさい イイとこだった?」
「いや イイよ 続きは夜にスルから それより何だい」
続きは夜だって! お断りだよっ。でも薄暗い部屋でなら、案外イイかも。こ
のところマンネリだったし……。で、美貴さんたらキュウリをブンブン振りなが
ら、
「先生っ 大発見です」
「ん 何だ」
「このキュウリ 普通のより大きいんです」
「大きい?」
先生は一度、僕の唇に押し入り少し濡れたキュウリをツクヅク眺め、そしてペ
ロリとひと舐めして、
「ふむ サもあろう 野菜の分際で大き過ぎる」
「ふふ 先生のはシメジね」
美貴さんが悪戯っぽい目を先生の股間に向けながら軽く言った。そぉだよ、も
っと言ってやれ、って思ったけど、先生、膝をくっつけて隠しながら声を荒げて、
「うるさいっ 美貴っ シメジは菌類だ 野菜と比べる奴がいるかっ
だいたいなぁ 香り松茸 味シメジと言ってだなぁ……」
「はいはい 美味しいのね で 先生 アタシもチョッと これを
試してみたんだけど……」
「あ? 何を試したって」
「イイじゃないの そんなこと とにかく このキュウリ 大き過ぎるわよ」
二人の会話を聞いて、なんだか頭が痛くなってきた。
「あのぉ 先生 美貴さん チョッとイイですかぁ」
「何かね」
「なぁに 小林君」
「キュウリも大きいけど そのネギも大きいですよ」
「ふぅむ いつも刻んだ野菜しか見ていないから気づかなかったが
炊事係の小林君が言うなら間違いあるまい」
先生は腕組みをして考え込んだ。こうやって渋く思いに耽ってるところはチョ
ッと格好イイんだよね。でも一番好きな先生は安楽椅子に深々と腰かけてさ、モ
ジャモジャの髪に指を絡ませながら考え込んでる所。莨の煙をモウモウとさせて、
ウットリした目をしてさ。なんだかエロティックなんだ。
この時は相変わらず下半身をむき出しにしたままだったけど。
●潜入(伊井暇幻)
俺は八百政に赴いた。午後十時、もう閉店している。おまけに人通りは全くな
い。酔っぱらいぐらいはいても罰は当たらない筈だが、猫だろぉが豚だろぉが、
歩いてはいない。俺は忍び込んだ。方法? 企業機密だ。ただ何百年も前から俺
の家に伝わる技を使ったとだけ言っておこう。屋根裏から覗くと一家団欒とかを
していた。
「おぉい もぉ一本 ビィルゥゥ」
「はいはい これっきりよ 幸一 あんたは勉強でもしなっ
テレビばっかり見てると父さんみたいになるよ」
「おいっ 余計なコト言うなっ」
なぁにオヤジも怒っているワケじゃないって表情でニヤついている。少し不機
嫌な十七、八のトッぽい兄ちゃんは二階へと上っていった。コップを片手に持っ
たオヤジはジッと何かの気配を窺っているようだった。まさか、俺に気付いたん
じゃぁ? ありえない。俺の術は完璧の筈だ。が、しかし……。ユックリと目を
開いたオヤジはニタァァと嫌らしい笑いを浮かべ隣に座っている妻に囁いた。
「よい 布団しけや」
どぉやら息子がおとなしく部屋に入ったかドォかを確認していたらしい。
「もぉ ナン言よん エエ歳こいて 幸一も起きとろ」
「ええやないかぁ なぁ」
オヤジは五十に近い妻の腰を抱いて引き寄せ、体を摺り寄せた。
「もぉエエ歳して 布団は敷いとるけど 出来るん こんなに呑んで」
「おぉ 今日は出来るよぉな気ぃするんよ ほやけん のっ ヨかろが」
ニタニタ笑うオヤジと歳甲斐もなくモジモジしている妻は居間の電気を消して、
寝室といぅか布団を敷いてある部屋に移った。俺も屋根裏をイモリのように這い
歩き音も立てずに移動した。
「んちゅっ ちゅっちゅっ」
オヤジは妻のハダけた弛んだ胸に顔を押し付けている。妻は平然とした顔で寝
転んでいる。オヤジは急に慌てて手を股間に伸ばしゴソゴソしたかと思うと体を
立て妻の左右の脚をそれぞれ抱えた。おやハイカラなことをと思ったが、ナンの
ことはない。腹が邪魔で正常位でできないのだと思い当たった。
「はぅはぅはぅはぅ」
苦しげな声が頭の上から聞こえてきた。不思議に思って術を使って覗くとトッ
ぽい兄ちゃんの部屋だ。兄ちゃんはズボンをズリ下ろし何やら雑誌を睨み付けな
がら右手を激しく動かしていた。
「はぁはぁはぁはぁ」
「はふはふはふはふ」
上下から、この世で最も聞きたくない声を聞き条、仕事だから目を放すワケに
もいかず、唯一の女性とは言っても五十に近い妻を見遣ると、鮪のようにドテッ
と寝転がり静かに目を閉じウトウトしているようだ。俺は何とはなく悲しいよう
な腹立たしいような気になって目を側めた、と、その瞬間、
「ううっっ」
「おおっっ」
階下ではオヤジが汗に塗れ腹の突き出た体を横たえ妻に毛布を掛けて貰ってい
る。階上では兄ちゃんが次の恋人を探してペェジを捲っている。再び階下を見下
ろすとオヤジが間抜け面を晒して眠っている。もう妻も寝ている。
はてさてオヤジも妻を抱いた積もりはあるまい。ドウセ昼間、店に買いに来た
若奥さんの顔でも思い浮かべながら励んだに違いない。コトによったら美貴が今
夜の、お相手だったかもしれない。もしそうだとしたら、いい面の皮だ。だって、
美貴は「よしたか」っていう立派な男なんだから。自分じゃ、女と思っているみ
たいだけど。兄ちゃんも新しい恋人を見付けたようだ。俺はとりあえず事務所に
戻ることにした。小林が待っている筈だ。
つづく