AWC 『気分次第で責めないで』11−2<コウ


        
#3077/3137 空中分解2
★タイトル (HBJ     )  93/ 4/ 6  17:28  (108)
『気分次第で責めないで』11−2<コウ
★内容
次の店。
「もしもし」
「はい、アルペン立川店です」
聞き覚えのある声だ。
「NISIZAWAデモンストレーターNo3カーボンとルックFスポーツのセッ
トの事で、教えてもらいたいんですけれどもね」
「あれ」
「ん?」
「おたく、今、電話しませんでしたか?」
しまった。同じ店に電話をしてしまった。受話器をおく。

なかなか、上手く行かない。どうして、電話では価格を教えてくれないのか、解ら
ない。この情報化社会に。俺は、更にタバコをふかして考えた。いい事を思い付い
た。俺は天才だ。
「もしもし」
「はい、アルペン東大和店です」
弱弱しい男の声だ。
「あの、価格の問い合わせなんですけれどもね」
「それは、電話では、お教え出来ない事になっているんですが」
「どうしてだ」
「どうしても言われましても」
「お前、名前は、なんて言うんだ」
「いやあ、私の名前を申し上げても」
そうくると思っていた。
「名前も言えないのか、まあいい。だったら、店長の名前を教えろ」
「店長ですか」
「そうだ」
「安井と申しますが」
「じゃあ、その安井さんに回してくれよ」
「少々お待ち下さい」
居ないでくれ、居ないでくれ、と、心の中で呟く俺。
「もしもし」と弱弱しい声の男。
「はい」
「ただ今、店長、外出しておりまして、折り返しこちらからお電話」
いきなり電話を切る俺。

腕時計をストップウォッチにして、五分間待ってから同じ店に電話する。
「もしもし」
「はい、アルペン東大和店です」
さっきの弱弱しい声だ。
「店長の安井だ」と俺。
「あっ、おはようございます」
「あのなあ」と声色を使う俺。「今、うちで出しているNISIZAWAデモンス
トレーターNo3カーボンとルックFスポーツのセットなあ」
「はい」
「あれ、最高いくらまで値引きしていたっけか」
「少々お待ち下さい」
へへへへ、上手く行きそうだ。
「もしもし」違う男が出た。
「もしもし、店長の安井だが」と俺。
「お前、誰だ」と男。
「お前こそ誰だ、店長に向かって」と俺。
「俺が本物の店長だ。お前誰だ」
受話器を叩きつける。糞!店長は居留守を使うのか?

再び、俺は、タバコをふかして考えた。既に十本以上吸っている。部屋の中は、煙
がもくもくしていて、太陽の光がさしてきて、日章旗の様な模様を作っている。と
にかく、店長のいない事を確認しないといけない。いい事を思い付いた。俺は天才
だ。

俺は、アルペン相模原店に電話をして、前と同じ要領で、店長の名前を聞きだした
。会田という店長だ。そして、案の定、今、留守だと言う。しかし、それは、不確
かな情報であって、不確かな情報なら、無い方がマシだ。
「もしもし」
「もしもし、アルペン相模原店です」
「もしもし、何時もお世話になっております」と俺。「こちらアシックス営業の佐
々木ですけれども、店長、お願いしたいんですけれども」
「今、留守なんだよねえ」
何処でも、業者には横柄だな。
「本当にいないんですか?」と佐々木こと俺。
「本当も何もいないんだよ」と、少し訝る店員。「どんな用件?」
「直接店長さんに話したいんですけれどもねえ」
「だったら、携帯電話の番号をお教えるけれどもねえ」
「いえ、結構です。又、昼頃にでも、かけてみますから」
電話を切って、再び、五分待つ。
「もしもし」
「はい、アルペン東大和店です」
「ああ、俺だ、店長の会田だけれども、NISIZAWAデモンストレーターNo
3カーボンとルックFスポーツのセット」
「お前誰だ」と店員。
「なに?俺だよ、俺、店長の」と俺。
「店長は女だぞ」と店員。
「え」
「お前、誰なんだ」
「え」俺は電話を切ろうとした。
「切るなよ、切るなよ、切ったら、大変な事になるぞ」
「大変な事って、なんだ」
「逆探知しているんだから」
「そーんな、子供騙しみたいな事を」俺は笑った。
「さっき、アシックスの何とかって電話してきたのもお前だろう」
「だったら、どうだって言うんだ」居直り強盗の心境だ。
「お前、業者か?」
「さあね」
「だろうな、業者は、ちゃーんと、ご来店下さるからな」
「もう切るぜ」と言ってから、わざわざ、お断りを入れる必要も無かった、と思っ
た。
「スキーの値段を知りたくないのか」と店員が言った。
「え?」
「値段を知りたくて電話をしたんだろう」と余裕の店員。「そういう奴が、たまに
いるんだ」
「教えてくれるんですか?」と、急にへりくだる俺。
「安いスキーが欲しいなら、都内に行かないと話しにならないぜ」
「本当ですか?」
「ヨドバシカメラだってニキニキニキニキ二木の菓子だって、みーんな都内じゃな
いか」

言われてみれば、そうかも知れない。
俺は、受話器を戻して、しばらく考えていた。




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