AWC <お題> 雪月花。      【惑星人奈宇】


        
#2769/3137 空中分解2
★タイトル (ZQG     )  93/ 1/31  10:32  ( 96)
<お題> 雪月花。      【惑星人奈宇】
★内容
 今日は2月5日、旧暦の1月13日です。満月に行われる月花祭は、もう間近で
す。楽しみの少ない村の人達は「がっか、がっか」と言って、冬の終りを告げる月
花祭を心待ちにしています。昨日までの雪は嘘のように去り、雲間の空にはくっき
りと月が輝いています。時々降った雪が木々の枝に留まり花が咲いているようです。

 今日のように時々太陽が輝き心憎いほどに気持ちいい日は、朝からそわそわそわ
そわしていて落ち着きが有りません。春男は早速安男に「夕方兎狩りに行かないか、
山の麓に兎が跳ね回っているのを見た人が居るんや」と電話した。安男は「勿論行
くよ」と最初は言いました。でも今は冬なのです、とても網をしかけて雪原を地上
のように楽々に走り回れるとは思えません。安男は長々と電話で話し合った末に兎
狩りの提案を断りました。

 兎狩りの提案を断られた春男は仕方がないので、2月7日に行われる月花祭の準
備をすることにしました。月花祭とは、旧暦の1月15日夕方から夜にかけて無病
息災を願って行われる一種の火祭りのことです。山のように雪を積み上げ、中をく
り貫いて作った「かまくら」の中で家族一緒に今年一年の安全を祈願し、餅を食べ
酒などを飲んで祝います。祈願の後、かまくらの外に枯木などを集めて作った薪に
火をつけます。そして不用になった正月用の締め縄や飾り物、それに祈願を書いた
短冊などを燃やします。

 もう既にかまくらは大体出来上がっていた。後残されているのは、蔵の奥に仕舞
ってある七輪や飾り物などを持ち出して、かまくら内に据え付けたり飾り付けをす
ることです。飾り付けは女の役目です。

「美加あ、飾り付けをしてくれやあ」
「お母さん、糊がねえ、糊がねえんにゃあ、何処に仕舞ったのやあ」
 美加は台所に方へ行ってしまった。
 春男は最初に七輪と炭それに練炭をかまくらに運びこんだ。

 かまくらの大きさは大体家族5人が七輪を囲んで餅や欠き餅、ぜんざい、甘酒な
どを食べられる広さである。

 満月の当日、晴れれば月花祭です。でも雪が降ることが有ります。雪が降って月
を見れなくなって仕舞った時のことを雪月花祭と呼んでいます。春男はなるべく晴
れて月を見ながらの月花祭に成って欲しいと願っています。晴れれば私達若い衆は
酒を飲んだり爆竹をならしたりして思いっきり楽しめるからです。

 とうとう2月7日になった。朝から晴れていた。美加はかまくら内に差してある
竹や木に大きな花を幾つも付けた。夕方には春男も仕事から帰ってきて、食器や餅
それに酒やビールを運び込んだ。

「おおおう、大丈夫、今夜は多分、雪は降らないだろう、青い空で一杯だ」
 今夜のように晴れると雪が凍り付きますので、昔ポリポリと音をさせて白い平原
を田圃や川の区別無くして歩き回ったことが思い出されます。春男は晴れた日の身
体に染み込むような寒さが好きなのです。

 夕方に成った。
 丸くて大きな月が東の空に上がってきた。

「お兄ちゃん、甘酒とぜんざい出来たよ」
「今行く、カラオケ・セットを持ち出すのを手伝えや、俺は電話機持ち出すでえ」
 春男は電話機を使って安男とカラオケ大会をするつもりでいる。電話機をかまく
ら内に持ち込むと、早速安男に電話した。美加はぜんざいを茶碗に入れたり酒の準
備をしています。そのうちに、父母それに、おばあちゃんも出てきた。かまくら内
で七輪を囲んで座り、まず、酒を杯一杯ずつ飲みます。そして軽く目を閉じ、それ
ぞれが好きな内容で自分の願いを声に出して一斉に言って、祈願を終えます。

 パチパチ、パチパチパチパチと、手を叩き、大笑いをして最初の行事を終えます。

 祈願の後、春男は餅だけで無く酒も飲み始めた。母や美加の作った料理が美味し
いのも手伝って、コップに三杯程飲んだ。そのうちに顔も赤くなってきた。

「そろそろ、カラオケ始めるぞう」
 春男は安男に電話し、打ち合せどうりに歌い始めた。

「津軽海峡 ふゆげしき・・・・・・ 」
「あんこ つばきの・・・・・・ 」

「美加、歌えや・・・」
美加は受話器を受け取り耳にあててみた。
「春男のは酷い、こちらまで酒の匂いも、届いてるう、美加ちゃんに代わってえ」
「美加だよう、今からマドンナ、歌うざあ」

「ライ・・イザァ・・ミステリ・・・エブランマスタンダロン・・・」
 美加が歌い終ると、春男は再び歌い始めた。
「イエスタデ・・・イエスタデ・・・オロマイトラシイムソラウエ・・・」

 やがて7時になった。そろそろ村の若い衆が集まり爆竹をならして、お互いのか
まくらを訪問しあう時間である。春男も表に出てかまくらの前に積み上げて作った
薪に火をつけた。この時にはもう既に月の姿は無く、ほんの僅かだが雪が降り始め
ていた。

 ひらひらひら、ひらひらひらひらひら、雪はゆっくりと舞い降りていた。

「お兄ちゃん、来たよ」
 美加の声に顔を向けると、向こうから松明をともした一団が近付いて来るのが見
えた。春男と美加は短冊や飾り物を火の中に投げ入れ、更に時々薪も焼べたりして
炎を大きくした。
「ガッカガッカ、ガッカガッカ、ガッカガッカ」
 松明を持った若い衆は隣の家まで近付いてきた。

「ガッカガッカ、ガッカガッカ」
 その中に「ゆきがっか、ゆきがっか」と叫んでいるのも聞こえた。


  −−−−− 完 −−−−−




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