AWC お題】「雪月花」(どーわ)   久作


        
#2643/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF     )  93/ 1/ 3  19:34  ( 93)
お題】「雪月花」(どーわ)   久作
★内容

  久作童話1・無題

さむい さむい 夜でした。太郎は 広い家に 一人ぼっち。
おウチのみんなは おバアちゃんの所に 出掛けています。
コンッ コンッ コンッ。太郎は おカゼをひいて お留守番。

キツネの次郎は 夜が好き。満月の夜が イットウ好き。
だって次郎は ウサギが好き。白くて ポワポワ ウサギが好き。
大きくなったら 月に行く。ロケット乗って 月に行く。
ウサギと おモチを 食べるんだ。

次郎は月を見上げながら 今夜もオサンポ ぶらり ぶらり。
「コンッ コンッ コンッ」
「アレ 友達かな? アノお家から 声が聞こえる コンッ コンッ コンッ」

「コンッ コンッ コンッ」
「こんばんわ コンッ コンッ コンッ」
「コンッ コンッ コンッ ・・・誰?」
「アレ? 人間だ」
「キツネさん どうしたの?」
「君が呼ぶから 来たんだよ」
「呼んでないよぉ コンッ コンッ コンッ」
「ほおら 呼んでる コンッ コンッ コンッ ってコンニチワ のことなのさ」
「ふうん でも チョウドよかった 退屈してたんだ」
「じゃっ 遊ぼうよ」
「遊ぼうか」

太郎はフトンから跳び起きて パジャマを着替えます。
シャツの上にスゥエットを着て スゥエットの上にセーターを着て
セーターの上にジャンバーを着て ジャンバーの上に半纏を着て
半纏の上に白いレインコートを着て 頭には毛糸の帽子をかぶりました。

チョッピリ太っている太郎は まるで雪だるまのよう。
「ははは 太郎 真ん丸っ 太郎 真ん丸っ」
次郎は着ぶくれした太郎の周りを 囃し立てて 回っていましたが
急に立ち止まると 言いました。
「ねえ 帽子に 耳を 付けようよ」
「耳?」
「そう 長くて ピン と立った ヤツ」
「ウサギ?」
「そう ウサギさっ」
二人はハシャギながら 厚紙で ウサギの耳を 作りました。

「わぁぁいっ まてーー」
「こっこまで おいでっ コンッ コンッ コンッ」
太郎ウサギが キツネの次郎を 追い掛けます。
追い掛けては 捕まえ 捕まえては 転げ回り 
転げ回っては 逃げられ 逃げられては 追い掛けます。

「捕まえたっ」
太郎は ヒッシリ 次郎の首を 抱きしめます。
「捕まったぁ ん・・・・・・ 雪っ」
次郎が 空を見上げて 叫びます。
「冷たっ」
首をすくめる太郎の鼻に フワリと載った雪が すうぅ と消えました。

「太郎っ 何してるっ」
おバアちゃんの所から帰って来たお父さんが 顔を真っ赤にして 門に立ってます。
お父さんは 次郎の襟首を掴んで お家の中に 持ち上げて いきます。
「ああああんっ 次郎っ 次郎っ」
太郎は 宙ブラリンになったまま 手足をジタバタさせて 泣きジャクリます。
「次郎? 次郎って誰だ 誰もいないぞっ」
次郎は トックに 姿を消していました。

「太郎ときたら 風邪だというのに 庭で走り回って・・・」
お父さんは カンカンです。
「まあまあ お父さん 熱も出ていないようだし」
お母さんが 宥めます。
「コンッ コンッ コンッ」
「ほらみろ 咳が直ってないじゃないか」
「おや本当 チョット 見て 来ますわ」

お母さんは 心配になって 縁側の廊下を イソイソ 歩いて行きました。
すると 太郎の部屋の前に 小さな 真っ赤な花が 一輪 落ちていました。
「アラ こんな所に・・・」
お母さんは 花を 拾い上げました。
花ビラは 百合に似ていますが 柔らかく透き通ってて
この山里では 見たことのない 花です。
「キレイ・・・ それに イイ香り・・・ 
 そうだわ 太郎の部屋に生けましょう」

退屈な フトンに戻った太郎は お母さんが枕下に 生けてくれた花を
ずぅーと 眺めていました。太郎も 初めて 見る花です。
「ナンて 花だろう?」
太郎は 透明に輝く花ビラの中で 震える 黄色いメシベを
右の 人差し指で チョンと 触ってみました。
ポワン と 花は弾け 消えました。ハラリと 枯れ葉が 舞い 落ちました。
枯れ葉には
「また 遊ぼ!」
と書いて ありました。

(了)




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