AWC  EASY LOVERS    うちだ


        
#2609/3137 空中分解2
★タイトル (TEM     )  92/12/27  22:43  (104)
 EASY LOVERS    うちだ
★内容
大楽天な恋人たち
                            〜星をみる〜

冬が近いせいか、底冷えがする。真っ暗な樹木のあいだの小道を、用心深く頂
上まで登りつめると少し息が切れて、つないだ手と手が暖かくなっていた。私
はその分、少しだけ冷静になる。丘のうえの森林公園で私と彼は空を見ていた。
みえる星、みえない星、私は目を凝らす。

「ねぇ、知ってた?何かの本で読んだんだけどさ。新星ってねえ、生まれたば
かりの星なんかじゃなくて星の一生の終わりの姿なんだって」
「ふーん・・・・知らなかった」

その輝き、その光は死をむかえて爆発した星が一瞬明るく輝いたもの。そして
それはどうしようもなく遠いどこかでの出来事なのかもしれない。今目にした
光は、地球に届くまでにもう死んでしまった星の最後の輝き。どれだけの時間
がかかったのだろう。小さな瞬きは何の意味もなくどんな事情もなく、とんで
もない距離ここまでとどく。

ところで彼は何を考えて、ここにいるのだろう。吐く息が白くけむる。私は彼
の名前さえ知らないのだ。

手をつないだまま、私たちは星をみていた。彼が他の人のことを考えていたと
しても、私のスカートの中身にしか興味がなかったとしても、今この瞬間こう
して一緒に星をみていてくれることに、感謝します。


                            〜奇跡の発信〜

人と会うのってそれなりにめんどくさい。着替えて家を出なくちゃならないし、
ヤな思いすることだってある。それでも私は彼に電話して会う約束をした。
どうも共通で知っている場所が思い付かなかったから、国道一号線ぞいのマク
ドナルドで待ち合わせた。ちょうど駐車場で一緒になったので、ふたりで店に
入ってバーガーのセットを買って席に着いた。

なんか久しぶりだったね
今日は予定なかったの?
まーな
今なにしてるの?
オレ?相変わらずだよ
ふーん
・・・・元気そうじゃん
うん。ねえねえ、最近なんかいーことあった?
最近かー?そーだなぁ、イーコトっつーか・・

何でイキナリ「今日、会えない?」なんて言ったのかその理由を、さっきから
彼はすごく聞きたいみたい。商売ではありません。恋愛とも違うかな。私は言
葉のタイミングを外して、そこまで話をもっていかせない。「教えてあげない
よっ・ジャン!」(ここはポリンキーのCMの節でうたってね) 「ただわけ
もなく会いたかった」なんて信じてくれないかな。誤解されてたって平気。
ともかく、今日は来てくれてありがとう。

たくさんの「会いたい」の昇天していく先が天国かどうか、私は知らない。
それでもなお「ただ会いたい」という思いや言葉を暖めていること自体は奇跡。
長く生きていると「ただわけもなく」なんてこと世の中には稀らしいと、わかっ
てきたけどだからこそ、わたしは「ただ会いたい」を会いたい理由に、会いに
行く。ただ会いたかった。顔が見たかっただけ。何にも意味なんかないんだよ
ー。彼も同じように思っていてくれたらとても素敵だ。

あれー
なんだなんだ
もう九時半になるって知ってた?
・・・ってことは三時間も居るのか、オレたちは

私は発信を続ける。好き好き好き。好きの種類まで考えてこなくちゃいけませ
んか? きっともっといろんなことが起こる。こころを暖めておこう。どこか
でまた「ただわけもなく会いたかった」という奇跡のような気持ちに出会える
日まで。


                               〜正体〜

「死ぬときはひとりきりだ」と誰かが説教をたれる声がする。私が喜ぶことを
誰かが喜ぶとは限らない。彼が面白がることを私が面白がるとも限らない。生
きているときだってひとりきりだ。

二、三人の人が、私の隣で座り込んでいる彼と軽い挨拶を交わしてから、また
流れに戻っていった。私の知った人の顔はなかった。
夕暮れ時、たくさんの人の流れはひねった蛇口から出る水のように駅から溢れ
出してくる。仕事から学校から会社から、家へ帰っていく人たち、どこかへ飲
みにいく人たち。それぞれのどこかへ収まるために、一定方向に流れていく。
仕事帰りらしきオヤジの四人連れ、付き合い始めたばかりのようなカップル、
部活の帰りのような高校生のジャージ軍団、なぜか大荷物の老婆。駅に向かっ
てくる若い男はこれから夜勤のようだ。いろんな事情のいろんな関係の人々の
流れ。だけどほんとうにそうなのかな。
一見、仕事帰りのオヤジのような、あの人たちのこと知っているわけじゃない。
大荷物の老婆のあの荷物の中身は何だろう、そして何処へ行くのだろう。兄妹、
アベック、幼友達、私と彼は人の目からはどんなふうに映るのだろう。もっと
いろんな事情や関係があったとしても、私たちには見ることが出来ないしすべ
ては推測だけ。彼らの正体を私は知らない。彼にとって、私は? 私にとって
彼は?・・・・本当に、誰のことも分かってない。

シャッターの閉じた店舗の前に座り込んで、私と彼はそんな街ゆく人々を眺め
ていた。何であれ、振り返って足跡のみを意識する日が来ないよう、ここに居
たいと私は切実に思う。どうでもいい自分の家族のことでももう少し沢山知っ
ているのに、彼のそばにいて得る情報なんて横顔の印象とか体温とか、腕の感
触とか、みんな通り過ぎていってしまうようなものばかりだ。それでも、私は
彼の夢をみることができるし、彼が私の目の奥を覗きこむような瞳をする時に
はしあわせな気分になれる。

・・・しあわせ かぁ

なんか簡単だな。






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