#2553/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF ) 92/12/19 1:31 (149)
「ゾエなや」(2) 久作
★内容
「ふうん 親父さん ほお言うんか」
「おお 賢二 お前んとこは 家継げとか 言わんの?」
「好きにせえ 言よるよ
ウチの親父も あんまし農業 好きやないみたいやし
そりゃあ 農業後継者の問題は深刻じゃ
とか 農協の寄り合いから帰ってきた時なんかは言うけど
親父にとっちゃ 他人事みたいやもん
ほやけん ワシは小さい頃から 勉強せえ 勉強せえ 言われて
中学の頃なんか 塾へも行かされたんやもん
お前とこの親父さんとは 違わい」
「頭堅いんよ ウチの親父は
長男は家継がないかん いうて
そりゃあ 老後の面倒は見る積りやし
墓やって 建てたる積りやのに
若いうちくらい 都会行ってもエエやん」
「ほおよな 4年間遊んでから 家継いだってもエエし」
「ほやろ ほお思うやろ
よい 浩二 さっきから黙ってるけど 何考えよんで?」
「ん いや 別に」
「お前 時々 あっちの世界行くやろ そのうち帰ってこれんなるで」
「ほい コーヒー2つと ジンジャエール1つね
ちょっと あんたら 莨 もお消し
そろそろ 補導委員が回ってくる時間やけん
灰皿しもとかい」
「あ ありがと
おばちゃん 昔 東京おったんやろ どんな所なん 東京て」
「どんな所て ねえ
ほおやね 人がいっぱいおって どこ行くんにも
地下鉄で行けて なんでもあって・・・
ほやけど なんにもない所」
「なんのこっちゃ
なんでもあって なんにもない所て」
「倫男 ほれはやなあ」
「おおーーっ びっくりした もう あっちの世界から もんて来たんか」
「いや ワシも 東京て どんな所やろて 考えよったんよ」
「ふうん 言うてみ」
「ワシ おばちゃんの言う通りや思う
そりゃ 東京に無うて宇和島にあるんは
汲み取り便所と ディーゼル機関車の引っ張る列車と
真珠の養殖筏くらいやろけど
東京て 結局 ワシらにとって ヨソやん
宇和島やったら 高月山も鬼ケ城も赤松海岸も
ワシらんトコやん
まあ ワシの土地やないけど
どお 言うたらエエんかなぁ
とにかく 宇和島やん」
「当たり前よ 東京は東京 宇和島は宇和島よ
何言よんで 訳解らんなぁ」
「いや 倫男 ほれはやなあ」
「も もお エエ お前 真珠母貝ばっかし数えよるけん
頭オカシなったんよ」
「いや この子の言う通りやと思うわ 倫男くん」
「おばちゃんまで・・・ あ 山本先生」
「よい 薬師神 何しよんぞ
また 莨吸いよったんやなかろのぉ」
「え ちゃいますよ」
「まあ ええわ 何 密談しよんぞ
卒業式で暴れるんやったら かかってこい
返り討ちにしちゃるけん」
「な 何 オトロシイ事言よん
先生らと一緒にすなや」
「ふん 薬師神 お前 進路希望 白紙で出したろげ
はよお出せよ 困るが」
「そ それが・・・」
「どしたんぞ」
「それが 決めれんのです」
「なんでや」
「ワシ 大学行きたいんですけど
親が ちょっと・・・反対してるんです」
「ちょっとしか反対してないなら 問題ないやないか 大学行け」
「いや やからぁ 絶対行くな 言うて 父親が・・・」
「変わっとるのぉ
普通 親が 大学進学を望むもんやけどな
ほやけど お前 勉強しとらまいが
東京の大学やったら ワシらの頃みたいに簡単やないんで」
「いや 捜せば どっか・・・」
「あほぉ 大体お前 大学に行きたいんか 東京に行きたいんか」
「え ほれは ・・・東京の大学に行きたいんです」
「東京に遊びに行きたいんやな」
「エエやん 賢二やって ほおやろ なあ」
「う うん まあ」
「あのなぁ 大学ってタダやないんやぞ
私大やったら ウン百万 1年に要るんぞ」
「ほんなん バイトして・・・」
「あほぉ 大学は学問しに行くトコや
バイトしに行くんやったら 東京に就職せえ そのほおがエエ」
「先生 ご注文は?」
「あ おばちゃん ワシ コーヒーもらいます」
「薬師神君 ほお言うても
倫男くん 東京行かした方がエエんやないか
4年間 遊ばす積りで」
「ほやけど 先生 一遍 東京のスモッグ吸うたら
こっち帰ってこんなる気ぃして」
「ほの時は ほの時よ
そりゃ 薬師神君が 農業に誇りもっとんは 知っとる
ほやけど 倫男くんに この何もない 宇和島で
若い盛りを過ごせ いうんは酷かもしれんで
テレビのドラマでも 殆ど舞台は東京やん
ほんなんばっかり見て 育ったんやで 倫男くんの世代は
しかも あれよ ワシ 思うんやが
あの子の世代は 土地のみんなを よお 見てないやろ
本に出とる言葉でいうたら
対人関係の希薄化いうんかのぉ
ほおいう 時代なんよ
下手したら 隣近所のオイサン オバサンなんかより
テレビに出てくる 俳優さんなんかの方が
顔見知りかもしれん 一方的にこっちが知っとるだけやけど
ほやけん あの子らの世代は
実社会 この宇和島より
テレビに出てくる 東京の方が なじみの世界なんかもしれまい」
「いや 倫男に限って・・・
ワシ できるだけ 倫男と一緒に遊んだし
ほおやって 都会の家庭みたいにしたないから
宇和島に もんて来て 農家継いだのに」
「時代が変わったんよ
薬師神君の時は まだ 都市と田舎の差も
今ほど大きなかったし
どっちかいうたら 田舎の論理が正当化されやすかった
ほやけど 今は 都市の論理が幅きかせて
いちおう 口では 地方の時代とか いよるけど
言よる連中に ほやったら 息子に田舎の百姓さすか いうと
ほおやなかろ
農家でも 後継者不足やなんや 言よるけど
ほいつらからして 息子を塾にやって
都会のサラリーマンに仕立てよろが」
「薬師神君 君の夢は 君の夢や
倫男くんの夢は 倫男くんの夢や
押し付けたら イケン
・・・酷やけどな」
「先生 ワシ もお1度 考えてみます」
「ほおせえ ・・・ほれ ほんなに ショボくれな」
「あ は はい」
「薬師神君」
「はい」
「親って 損やろ」
「・・・・・・」
「ほれにしても このチョコレートうまいなぁ」
「ほおですか 変わらん思うけど」
「なんや ・・・100円とは書いとるが
何言うても 2個で5000円のチョコレートやもんなぁ
パチンコ 5000円注ぎ込んで このチョコ2つ・・・」
「ほ ほれは・・・ ほれは ツキそうな時に
先生が倫男なんかのことで 話しかけてくるから・・・」
「責任転嫁は よおないよ 薬師神君」
「せ 先生・・・」
(続く)