#2423/3137 空中分解2
★タイトル (HBJ ) 92/12/ 1 7:24 (101)
「モニタする少年」(再UP)巻の10<コウ
★内容
「あんた達」とチキンを頬張りながら、叔母さんが言った。「一体、何の話し
をしているの?」
「別に・・・」と俺。
「最近の子って、全然わかんないわ」と叔母さん。
おばあちゃんの家に着くと、車の音を聞きつけて、健一が出てきた。健一は
、一人前に、黒い光沢のある礼服を着ていた。下駄をつっかけていて、下駄に
驚いた、放し飼いの鶏がバタバタして、彼は丸で、地元に帰った代議士みたい
だった。ブレザーの俺は、少し、気が引けた。登を見ると、青い顔をして、鶏
を見ている。
「どうした、登」と健一が言った。「久しぶりだな。車に酔ったのか?」
「この子は、車には強い筈よ」と叔母さんが言った。「どうしたの?登ちゃん
」
「ニワトリが・・・」と言って、登は口を両手で塞いだ。
手の間から、吐しゃ物が漏れ出して、ポタポタと落ちる。
「どうしたのよォ」と言って、叔母さんは、登の背中をさすった。
登は、しゃがみ込んで、泣き出した。
俺も、鶏を見ていて、胸が、むかついた。何故だろう?と、俺は考えていた、
が、すぐに、了解した。
「分かったよ」と俺は言った。「叔母さん」
「えェ?どうして?」と叔母さんが言った。
「さっき、フライドチキン食べたじゃない。それでだよ」
「何の事?」
「生きてるチキンを見て、気持ち悪くなったんだよ」
「そうなの?」と叔母さんは、登に言った。
登は、なおも吐きながら、うなずいた。
「でも、何で?」と叔母さんは、俺に言った。
「何でって・・・。叔母さんは、気持ち悪くないの? フライドチキンの正体
を見て」
「牛の生け作りって、不気味だよな」と、ずっと腕組をして、傍観していた健
一が言った。
「何?」と叔母さんが言った。
「部分でない肉なんて、気味悪いって言う事」と健一が言った。
「変な人達」と叔母さん。「そういう世代なのかしら」
おじさん達が出て来て、登は家の中に運ばれた。鶏は、篭に閉じ込められた
。
大人達は、すっかり出来上がっていた。おばあちゃんは、祭壇の奥にしまわ
れていて、一人ぽっちだった。明日の「最後のお別れ」までは拝めない、と誰
かが言っていた。俺は、何故か、ほっとした。
酒の席にあぶれた、おじさんの一人が、テレビで、プロ野球のオープン戦を
観ていた。俺も、なんとなく、おじさんの背中に立って、テレビを眺めていた
。巨人の桑田が、何回もサインに首を振って、なかなか投げない。やっとセッ
トポジションに入ったと思ったら、今度は打者がタイム。俺は、苛々していた
。俺はVHSのリモコンを捜していた。もちろん、生中継は、早送り出来ない
。
「ヒロシかァ?」とおじさんが、俺に気付いて、振り返った。「野球、好きか
?」
「好きだよ」と俺が言った。
「東京に住んでるんじゃ、ドームに行くのか?」
「行かないよ」
「何で?」
「だって、騒がしいし、汗臭いし、・・・。ヒットする音はしても、打球なん
か見えないもの」
「じゃあ、もっぱら、テレビで観戦かい」
「中継も観ない」
「じゃあ、プロ野球ニュースか」
「それも見ない」
「じゃあ、何で見るんだ?」
「朝、新聞で確認するだけ」
「そんなので楽しいのか?」
「分からない・・・。でも慣れてるから、多分楽しい。新聞の見出しで、だい
たい分かるよ」
「変な奴だなァ」
要するに、その晩は、全く速く過ぎた。坊主が来て、大人達は泣いて、酒を
呑んで、寝てしまった。誰かが、線香を絶やさない為に、徹夜の番をしなけれ
ばならなかった。孫を代表して、俺と健一が、線香番をした。俺と健一は、膝
を抱えて、線香を眺めていた。線香の煙が、幾重にも層になって、薄暗い部屋
を、漂っている。天国って、こんな感じかな、と思った。
夜中の2時頃、カヨの事を、思い出した。伝言ダイヤルに電話をしようと思
って、電話の所へ、行った。しかし、おばあちゃんの家の電話は、ダイヤル回
線で、「#」が無かった。
電話から、帰って来た時、「彼女にでも、かけたかの?」と健一が聞いた。
「まあね」と俺が言った。「健ちゃんの方は、彼女、いるの?」
「いるよ」と健一は言った。「うまく、言ってるの?ヒロシの方」
「何で?」
「だって、随分、短い電話だったし」
俺は、少し考えてから、「俺ねェ・・・」と言った。「俺って、少し変なんだ
」
「何が?」と健一が言った。
「俺、あいつの事、好きなんだ。でも、俺の愛しているのは、俺が思っている
あいつで、本当のあいつじゃないんだ」
「結晶作用、ってやつ?」
「何? それ」
「アバタもエクボ、ってやつだよ」と健一が言った。
「そうじゃないよ」と俺は言った。「俺、あいつが好きだったんだ。初めて会
ってみて、思った通りの娘だったし」
「初めて会って?」と健一がいった。「会う前から、愛してたの?」
「まあね」と俺は言った。「色々、あるじゃない」
「ペンフレンドとか?」
「まァ、そんな所」
「それで?」と健一。
「会ってみて、いい娘だなァー、って思って、ホテルに行って・・・」
「どうだった? お味の方は」と健一が言った。
「最高だったよ」と俺は嘘をいう。「でもね、なんか、こう・・・。こうなん
だ。あいつとセックスするより、あいつの写真を見て、オナニーした方が、い
いんだよねェー」
「へェー」
「俺、って、変?」と俺が言った。
健一は、少し考えていた。それから「『レイン・マン』観た?」と言った。