AWC 武蔵


        
#2401/3137 空中分解2
★タイトル (YBB     )  92/11/25  14:58  ( 71)
武蔵
★内容

違う!違う!違う・・・断じてちがう・・・!

一匹の鬼が、けだもののおたけびをあげて、山を下り落ちて行く。

・・・我、勝てり!

柳生四天王の囲いを破り、石舟斎の離れの生垣の下で夜明けを迎えて確信した
武蔵であった。

一抹の不安があるとすれば、歳老いた駄馬を相手にしなければならないかも知れない、
ということだけであった。

それなら、それで、叩き殺せばいいことだ・・・。後の「下り松の決闘」と同じ発想で
ある。老人だろうが、子供だろうが、敵の「大将」を潰せば戦さは勝ちなのだ。

必殺の気合いを送り、弾き返すような気合いが返る。

杞憂は去り、武蔵は狂喜に身を奮わせた。これでこそ殺しがいがある。


・・・柳生石舟斎宗巌が剣術家となったのは、彼の武将としての生命が断たれた後
      のことである。

宗巌の夢は天下をとることであった。

そのために剣を学んだ。下男にさえ学ばせた。一騎当千の剣術集団を目指したのだ。
十文字槍を取り入れたのもそのひとつである。

さらに、有名な「三敗の礼」をもって伊勢守を迎えた。「剣術者」としては屈辱でも、
「武将」としてなら耐えることができたのである。

しかし、所詮剣術だけでは、一万石の値打ちしかなかった。

一万石の柳生が天下を握るには・・・

宗巌は「陰謀家」達に近ずくことを覚えた。三好、松永・・・等

だが、不器用な自分を知っただけが収穫であった。

比叡山の僧兵にならって、友人の宝蔵院胤栄とかたらったこともある。

類は友を呼ぶ、不器用が二人になった。

そして、信長が来て、秀吉が天下を取り、隠し田を名目に、伝来の一万石さえ失った。

武将・宗巌は死に、剣術者・柳生石舟斎がうまれた。

現在の柳生の地位は、末子、宗則の器量に寄るものである。


昨夜の騒ぎから、このような事態を予感していた石舟斎は、しかし、奇妙な懐かしさを
も感じながら縁側にでた。

・・・まさしく、そこには己がいた。

天下を夢み、狂ったように駆け抜けた「過去」がそこにいる。

・・・武蔵は未来を見た。

二人は別人である。時代背景も何もかもがちがう。

にも関わらず、武蔵の野生は、武蔵の運命を悟った。

頭が否定しても、感覚がそれを許さないのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・おたけびが遠退いて行く・・・

過ぎ去った青春が帰っていく・・・。                              完/一久




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