AWC 【き】                   今日も暇..


        
#2390/3137 空中分解2
★タイトル (WJM     )  92/11/23   0:11  ( 65)
【き】                   今日も暇..
★内容

 米を炊いた飯の60%が水分である。1キロの米を炊くと、総重量は2.5キロ。
さらに、テンコ盛りのカレーが加わると3キロ近くある。それが、洗面器みたいな器
に収まって登場すると、流石にたじろぐ。値段は2千円だ。ストップ・ウォッチを手
にした店員がスタートをかけるが早いか、勝は言葉もなくカレーをかきこみ始めた。

 この店には、席数30もあるのに店員は2人しかいない。あとの業務は皆、この店
の主たる「カレー・ロボット」が担っている。飯を炊き、具を乗せ、カレーをかけて
所定の座席へ搬送する他、回収された食器を洗うまでを全自動でやってのける。

 その総重量は、オフィス・ビルにおけるエレベーターでの搬送を考慮して、500
キロに抑えられている。その核に夜間電力を利用した電気給湯器がある。温水は炊飯
および食器洗いに利用される他、冬期の暖房、夏期の冷房にも使用される。


       温水器  →  ヒート・ポンプ  → エアコン
       炊飯器  ←  (コンピュータ) ← 冷蔵庫
       食器洗器    双方向の熱の融通   冷水器


 大雑把に書けば、上記のようなものである。生じる熱は、すべからくコントロール
され、消費電力および排熱を最小限に抑える努力が最大限になされている。

 客は入り口にある食券の自動販売器にて「トークン」と呼ばれるプラスティックの
カードを買う。席についてから、トークンをスロットへ差し込むと、自動的に注文が
なされる。深めの皿に飯が盛られ、その上にカツだのコロッケだのが乗せられ、更に
カレーがかかり、客の目の前に姿をあらわすまでの所要時間は30秒。A4サイズの
トレイにはコーヒーカップ用のくぼみもチャンとある。コーヒーだのサラダなども、
自動的に乗せられる。食べ終わると、店員がトレイを下げロボットに収納する。残飯
を除き、温水で洗浄し、乾燥する。

 食券の売れ行き、食材の消費動向などは、オンラインのPOS(販売時点管理)の
システムによって本部へ伝えられ、在庫切れの予想される物資は自動的に補給される
他、コマ落としの動画として店内の様子はモニターされ、防犯の用に供されている。
店員のする事としては、食べ終わったトレイを下げる事と、こまめにテーブルを拭く
事、そして、混雑時に客の整理をする事だけである。

 開店は、朝の7時。午前10時から10時30分および午後3時から3時30分の
2回の休憩の間、そして午前零時の閉店の後。店舗の中は閉鎖され、蒸気にて洗浄・
消毒が行われる。専任のメンテナンス・マンがやって来て、清掃状況を監視。かつ、
残飯や食器洗浄排水を濾過した後に出るスラッジを専用のコンテナで回収してゆく。
独自の技術にて「コンポスト」化を行い、それによって出来た肥沃な土地に植林を行
うという遠大なプロジェクトも同時進行しているのである。

 調理の様子は、客からは全く見えない。いつか、TVでやっていたのを思い出す。
飯を炊く前には米を「とぐ」。精米した米に、なお付着する糠やゴミを除くためだ。
が、この店では、特殊な精米器を用いて「洗米」が不要な「無洗米」を用いている。
IH(電磁誘導加熱)の圧力炊飯器で炊かれた飯が、ホッパーへ投入される。その後、
深めの皿に盛られる。その上に無造作に投下されていくコーン。金属製のノズルの下
に皿がくると、その内径15ミリほどのノズルから、粘稠で、かつ黄色い流動物が、
ニュルニュルとヒリだされて飯の上。ツブツブのコーンと交じり合う。

 「 ツブツブ・コーンが 下痢に出る 」

そんなCMが幕間に入ったかどうかは良くは覚えてはいない。とにもかくにも人間の
鋭意たる営みが髣髴とされる「カレー・ロボット」である。店に必要な、レジスター
からエアコンからを一体に納めたと思えば良いだろう。

 俺は勝とは他人の様な顔をして、食券たるトークンを買って席についた。もし仮に、
勝が3千円を払えと請求されるような事になりそうだったら、素知らぬ顔で消えよう
と密かに考えながらコーン・カレーと紅茶を口に運び終わると、湿気たタバコをふか
して遠くを見ていた。

        −−  次回 .. 【と】 .. を待て! −−





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