AWC 夢の中のオルゴール(1/2) (D.)


        
#2388/3137 空中分解2
★タイトル (GUE     )  92/11/22  13:19  ( 99)
夢の中のオルゴール(1/2) (D.)
★内容

【 序 】

− 闇は濃密な液体となり、青年を取り込もうとする。−

 その闇の奥底には得体の知れぬ者達が蠢いて、青年に向かって手招きをしている。
青年が自分達の仲間ででもあるかのように、青年を歓迎していた。
その闇から逃れようと必死になってもがき、自由になった手足で力の続く限り闇雲に
走った。

− どこからかオルゴールの奏でるメロディが聞こえてくる。−

 まるで何かを語りかけて来るかの様な不思議なメロディ。それに引き寄せられて、
青年は乳白色の世界の果てにやって来た。そこには、山小屋と見まごうばかりの薄汚
れた建物が建ち、磨かれた事などないかのようなガラス越しに、中の様子がみてとれ
る。
そして、扉の脇には「不思議屋」と書かれた看板が掛かっていた。

− 青年は、山小屋の如き店内でただひたすらオルゴールを見つめている。−

 だがそれは、いつも形が定まらずその形をはっきりと見る事が出来ない。
 時には雨音の様に、時には鳥の囀りの様に聞こえるメロディも目の前にあるオルゴ
ールから聞こえているのかどうか、それさえも定かではない。
ただ、オルゴールはそこにあり、どこからかメロディが聞こえてくるのみであった。

− やがて、一人の女性が現れる。−

 オルゴールと同じく女性の姿もぼんやりとしており、はっきりと細部を見る事が出
来ない。女性は青年の姿が見えないのか青年を通り越し、オルゴールを手に取ろうと
する。その瞬間、二人は重なり合う。愛おしい者を抱きしめた時、その身内を駆け抜
ける感情。決してその女性を愛おしいと感じている訳ではない。だが、自身に沸き上
がるこの感情は一体?
 何かを喋ろうと振り返る。だが、風景は全てその形を消そうとしていた。

(待ってくれ! 君は一体…)

− そして、現はいつもそこでやって来る。−


【 一 】

(夢は時として顕現するものなのか?)

 秋空の下、仕事中の浩二は不思議屋の前に立ち独りごちた。

 町外れの人家も疎らになる辺りにその店は建っていた。
捨てられた丸太をそのまま組み上げ、手入れすらしていないかの様なその外観。
一度でも磨いた事があるのかと疑いたくなるような窓。雑草が丈高く繁っているその
周囲。
まるで廃屋と勘違いせんばかりのその建物こそは、浩二が毎夜観る夢そのものであっ
た。

 吸い込まれる様にして不思議屋に入った浩二は、その目を見張るばかりの店内にた
だ呆然とするばかりだった。
さして広くもない店内の利用出来る限りの空間を使い、無駄無く置かれているオルゴ
ール。それは、不思議屋の外観とは遠く掛け離れ、異世界にでもやってきたような奇
妙な感覚を浩二に呼び起こした。
 暫くの間ただ呆然と見つめるばかりだった浩二は、その輝かんばかりのオルゴール
に見入るばかりでは飽き足りず、すぐ近くにあったオルゴールの蓋を開けてみた。
ひょっとしたらあの夢の中で聞いたメロディが聞けるかもしれない。そう思うと開け
ずにはおれなかった。
僅かの間を置いて甘く切ないメロディが流れ出す。だが、あのメロディとは違う。そ
う、あれはもっとほのかで、温かかった。そう、まるで少年の頃の初恋の様に。

「誰じゃ! 断りもなく勝手にオルゴールの蓋を開けとるのは!」

 その陶酔を打ち破る様にして、店の奥から老人が形相も露に凄まじい勢いで飛び出
して来た。
そして、浩二になど目もくれぬかのようにオルゴールの蓋に飛びつき、やっとの思い
でそれを閉じた事を確認すると改めて浩二を睨みつけた。

「大体お前さんは、何じゃ? いきなり入って来たかと思えば、主であるこのワシに
なんの断りも無く蓋を開けおって。いいか、よく聞くのじゃぞ。この不思議屋はその
辺の客を甘やかして金儲けをしようなんぞという店では断じてない! この店にはワ
シが認めた者しか入れんし、ワシの気に入った者にしかこのオルゴールは売らん!
ワシに何の断りも無くこの蓋を開けるなんぞというのはもってのほかじゃ!!」

 凄まじい形相で捲くし立てられては、それが例え如何に理不尽聞こえたとしても浩
二には黙って聞いているしかなかった。老人が肩で息をしながら次の言葉を探してい
るのをみて、すかさず浩二も言葉を発する。

「ですが、メロディを聞いたからといってこれが僕に噛みつく訳でもないでしょう?」
「まぁ、よいわ。お前さんは何も知らんかったのじゃな」

 老人の表情は怒りを失い、既に何も読み取る事の出来ない物になっていた。

「何をです?」
「もう、よいというておろうが。好きなだけ見ていくがよい。ただし、見るだけじゃ
ぞ。絶対にさっきの様に蓋を開けてはならん!」
「あ……」

 老人は、そういうと後は何も聞こえぬかの様に奥へと歩いていってしまった。
仕方無く浩二はオルゴールを見て回る事にした。しかし、メロディが聞けぬのではど
うしようもない。そして、あの表現しようの無いメロディは自分のこの耳で聞かなけ
れば誰にも分からないものなのだ。
そして、あのメロディを見つける事が出来たなら、あの夢の謎が解ける様な気がする。
 やはり、ここは老人に頭を下げて頼み込んでみるしかないだろう。
浩二は数え切れぬ程のオルゴールの中から三つを抱え、老人のいるカウンターへと向
かった。




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