AWC 「月面」(4)  久作


        
#2372/3137 空中分解2
★タイトル (ZBF     )  92/11/20   1:27  (104)
「月面」(4)  久作
★内容

「よい 惟義 お前 あの 女学校のマドンナ モノにしたんか」
「な 何 言よんぞ お 俺は・・・」
「宇和島中学きっての秀才 末は博士か大臣か
 おまけに この通り純情ときとる
 あやかりたい 首吊りたい アー コリャコリャ」
「何言よんぞ ゾエなや」
「ゾエとらせんが ほやけど エエ女やなあ
 色白で 西洋風で 目なんか大きいて あの娘 妹か姉さん おらんの?」
「おらんわい おっても お前には紹介せん」
「オーオー よお言わい
 ほれはほおと 卒業してから どうするか 決めたんか」
「二高に行く」
「ほおか お前の弟の惟顕くん 仙台の幼年学校 行っとるもんな
 なんや また一緒か」
「一緒か言うて お前も二高に行くんか」
「おお 働きたあないしな」
「ほやけど お前寒がりやろげ 仙台ぞ 二高て」
「死にゃせんわい ほれより よい 川渡って アスコ 行かんか」
「あそこって ・・・お前まさか・・・」
「ほおよ もうすぐ卒業やけん 男の操 捨てに行こ思てな」
「お お前 そ それは・・・ 俺は行かんっ」
「なんや 口きいたこともない女に 操を立てるゆうんか 義理固いのぉ」
「そんなんじゃ・・・」
「ま エエわい ワシ お前の そんな所が 好きなんやけん」
「す 好きて・・・ ほやけど お前」
「なん 何か質問ある」
「いや ほうやないけど お前 童貞やったんやな 知らんかった
 俺は てっきり・・・」
「何 失礼なこと考えとん 可憐な紅顔の美少年を捕まえて
 ほたな 明日 報告するけん」

Mは意気揚々と下駄を鳴らして悪所へと向かって歩いて行った
Mは俺の姉に惚れている
悪ぶってるクセに
家に遊びに来て姉が茶でも持って来ようものなら
少しでも長く引き止めるため
ひょうきんな事を言ったり したり 涙ぐましい努力をする
2つ年上の姉もMを気に入っており
オドケテ見せるMに優しい笑顔を向ける
俺にも見せたことのない優しい笑顔を
Mがこれから 売笑婦に吐き出す欲望は
Mの頭の中では 姉に向けられているのだろう
売笑婦にしてみれば 迷惑千万だろうが
Mには それしか選択肢がなかったのだろう
振り返ると 日傘をさした マドンナがいた

あまりに唐突だったので 言葉もなく マドンナの前に立ちはだかり
ジッと見つめた
「あの なにか」穏やかな声だ
「あ いや あの えと 一緒に歩きませんか」
「え?」少し驚いたようだ
当然だ マドンナは俺の事など知っているわけがない
俺はといえば
マドンナの住所 氏名 年齢 購読雑誌 友人関係 全て知っていた
それに 俺の頭の中では
何度も 俺とマドンナは会話を交わしていたし
一緒に お茶だって呑んだ
それに ・・・・・・
こちらは初対面とは思えない
だから一緒に歩こう と申し出たのだ 名乗りもせずに
「よろしいですことよ」
落ち着き払っていた まるで俺の事など歯牙にもかねぬ風だった
少し歯がゆかったが 俺は再び踵を返しマドンナと並んで歩いた
「宇和島中学の生徒さんでいらっしゃるの」
「ええ もうすぐ卒業しますが」
「どうされるの」
「第二高等学校に進みます」
「まあ そうしたら帝大へ 優秀でいらっしゃるのね
 何を勉強されるの」
「まだ決めてません 文科に行こうと思っていますが
 悪友は歴史をしたいと言っていますから 私も歴史に最近興味を持ってきました
 でも西洋の文学もやってみたいと思っています ・・・女々しいですか」
「まあ ランボー ジイド 素晴らしいですわ
 わたくしも 文学は好きですの」
「あ あの 薬師神惟義っていいます あの あの」
「ふふ 松本恵でございます」
マドンナは妙に かしこまって 挨拶したかと思うと
顔を上げて ニッコリ笑った
華がほころぶようだ 陳腐だが そう思ったのだから 仕方が無い

「ちょっと暑いですわね ひと休み いたしませんこと」
和霊神社の前だった
いつの間にか須賀川のほとりから城山の麓まで歩いて来ていたらしい
「ええ」
俺はもうマドンナのなすがままだった
石造りの鳥居をくぐり 境内を回って拝殿を過ぎ 神殿の横に腰かけた
木立ちに遮られ日光も人目も届かない
マドンナは枯れ葉を2枚 拾い上げ 弄んでいる
先程までとは打って変わった 幼い仕草だった
男の足に付いて来たためか 色白の肌は ウッスラ汗ばんでいる
あどけない横顔 柔らかな顎の線
視線を落とすと 和装の襟から 鎖骨の窪みがのぞいている
風が吹いた
木立ちが揺れる
一筋の光が刺し込んでくる
汗ばんだ鎖骨の窪みが ヌメヤカに輝いた
肩を抱きしめた
ハッとマドンナが顔を見上げる
あどけなく驚いた表情が ユックリと変化し
諦め切ったような顔になる
俺はマドンナの首筋に顔を埋め 力いっぱい抱きしめた

(続く)




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