#2351/3137 空中分解2
★タイトル (RJM ) 92/11/ 9 22:50 (199)
推理>「死刑」 その2 スティール
★内容
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| いままでのあらすじ |
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| 俺は母も含めた三人を殺した。いまは、捕 |
| まって、ムショにいる。まだ判決は出ていな |
| いが、殺人のほかに十数件余罪を抱えている |
| から、無罪にならないかぎり、死刑になるの |
| はまず間違いのないところだ。 |
| ある日、ムショの中を散歩していた、俺は |
| 顔見知りのシゲさんが、首を折られて死んで |
| いるのを偶然見つけた。犯人と間違われ、捕 |
| まってしまった・・・。 |
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そ の 2
俺は目覚めた。いつの間にか、朝の日差し
が差し込んでいた。毎日の規則正しい生活の
おかげで、朝の六時には、自然のままに目が
開く習慣がついてしまった。俺が、朝、気分
良く目覚められるのは、俺が、まだ死刑の宣
告を受けていないからかもしれないが。
俺の身柄は、護送車に乗せられ、検察に運
ばれた。どんな凶悪犯も、死刑囚も、かたな
しだ。まるで、動物園の猿か何かのような扱
いだ。俺は、いったい、これからどうなるの
か? 心は、どんどん、すさんでゆくだけだ。
青い空の見える、取り調べ室の窓をバック
にして、熊のようなデカが口を開いた。凶暴
な熊の、静かな雄叫びだ。熊と出会ったとき
の対処方法は、たったひとつ。それは、死ん
だフリをして、ごまかすことだ。
「なんで、お前に容疑がかかっているのか、
それを説明しよう。お前も知ってのとおり、
シゲさんが倒れていた、あの道は、人通り
が多い。そのなかで、人目につかず、人を
殺すなどということができるわけがない。
第一発見者のお前なら、べつだかな」
デカは、お前がやったという看板を胸にぶ
らさげているかのような態度だった。だが、
それは、調書には記載されず、何の証拠も残
らない。デカが話している間、俺は、横に立
っている若いデカに煙草をせびっていたので、
そんなに強いことは言えないが・・・。
デカの、うるさい話は続いた。
「お前に不利な証拠は、それだけじゃないぞ」
俺は、煙草を吸いながら、デカをからかっ
てやった。
「それは、本当の証拠じゃない。状況証拠っ
て、やつだ」
デカは、俺の言葉を無視して、話を続けた。
「シゲさんは、首をへし折られて、死んでい
た。お前の手口だ。お前は、そうやって、
二人も人を殺している」
このままでは、俺は、本当に犯人にされて
しまいそうだ。殺した人間が一人くらい増え
ても、俺は構わない。だが、俺は、シゲさん
殺しの犯人にはなりたくなかった。
「俺の事件が起こってから、人間の首が簡単
にへし折れることくらい、子供だって、誰
だって、知ってる。マスコミで、さんざん
取り上げられたからな」
俺は、両手を前に出し、首を回転させるし
ぐさをして見せた。
「こうやって、思いっきり、首を回転させる
と、簡単に人は死ぬ。時間は五秒とかから
りゃしない。つまり、あの殺し方なら、数
秒もありゃ、現場から離れられる」
俺は、自分が人を殺したときの感触を思い
出していた。だが、それをデカに悟られると
誤解されるかもしれないので、俺は、殺し方
について、講釈するのをやめた。
「怪しいのは、俺だけじゃない」
デカは、俺の話に乗ってきた。
「容疑者はお前だけじゃないと、いうのか?
それは、どこの誰だ?」
俺は、煙草を一服し、デカの問いに、もっ
たいぶって答えた。
「あのとき、ムショにいたやつ全部だ」
デカは、顔を真っ赤にして、「ぶざけるな!」
と言って、怒鳴った。横に立っていた若い刑
事は、ゲラゲラ笑っていたが・・・。
このままでは、何も聞き出せないと考えた
のか、デカは、質問を変えた。
「シゲさんと、最後に話したのは、いつだ」
「そう、三日ほど前かな」
「何の話をした」
「そうだな・・・、ムショの中でも、年末ジャ
ンボ宝くじが買えたら、生活に張りが出る
のにな、という話でもしたかな」
若い刑事は、相変わらずニヤニヤしていた
が、熊のようにモソっとしたデカは、歯ぎし
りをしているような顔になった。
俺がデカをからかったせいか、尋問の矛先
は、また変わった。
「あのムショに、入って驚いたろ。死刑囚ば
っかりで」
その意見には、俺も共感できた。
「ああ、その通りだ。噂には、聞いていたが
びっくりしたよ。帝銀事件の渋沢栄一、ガ
ービン銃強盗の山崎勉、浅間山荘リンチ殺
人の田中一郎、三鷹の列車転覆事件の林茂
三郎。その他にも、何人も人殺したなんて
奴が、ごろごろしている。三十年以上、ム
ショに収監しているのは、日本で、ここく
らいじゃないか」
デカは、にやっと笑って、俺を聞いた。
「人を殺すっていうのは、どんな気分だ?」
それは、答えるには難しすぎる質問だ。
「あんたも、殺してみたらどうだ。憎いやつ
なら、スカッとするぜ。だが、俺はシゲさ
んを殺していないぜ。それとも、俺がやっ
たという証拠でもあるのかい?」
「いまはない。しかし、もう少ししたら出て
来るかもしれない。シゲさんの死体をどけ
たら、見慣れない文字が出てきた。地面に
木の枝のようなもので書いた文字だ。地面
には、ハッキリと【死刑】という文字が書
かれていた」
「ばか言うな! 土に書いた文字で、筆跡鑑
定するつもりか? そんなもん、あてにな
るか!」
俺は、立ち上がって、デカに抗議した。デ
カと俺は、睨み合いになった。こんなデカな
んか五秒もあれば、殺せるのに・・・。
そのとき、誰かが、取り調べ室に飛び込ん
できた。まだ若い婦人警官だ。俺の殺意は、
気が削がれたせいか、瞬時のうちに、萎えた。
なぜ、婦人警官が飛び込んできたのだろう?
俺の疑問に答えるかのように、その女は、
大声で叫んだ。
「警部! また、あの刑務所でコロシです!」
デカと、若い刑事は、同時に怒鳴った。
「なんだと! ホシはここにいるんだぞ!」
それから、二人のデカは、俺に手錠をかけ、
急いで、部屋から出ていった。後に残された
のは、俺と婦人警官の二人だけだった。あの
二人のデカは、やっぱり、頭のネジがどこか
一本たりないようだ。
俺は、婦人警官の顔をじっと見つめた。な
かなか美人で、かわいい。彼女は、誰かが来
るまで、俺をなんとか、おとなしくさせてお
こうと思っているようだ。どうやら、少し、
気の強い女のようだ。
俺は、わざと、彼女の肢体を舐めるように
見つめながら、低い声で言った。
「羊たちの沈黙を・・・観たことあるか?」
小さな悲鳴を上げて、婦人警官は、逃げる
ように出ていった。俺は、げらげらと笑い転
げた。
俺の笑いは、突然終わった。ドアが、開け
放たれたままだったのだ。その先には、廊下
の窓があり、また、その先には、青い空、白
い雲が見えた。このまま逃げてしまうか?
それとも、残るか? しかし、いま逃げても、
俺には、もう、やることがない。もう殺した
い人間もいないのだから・・・。
俺は取り調べ室の椅子に座った。そして、
机の上にあったお茶を啜った。