#2316/3137 空中分解2
★タイトル (WJM ) 92/10/26 21:47 ( 48)
場所固定>月面 今日も暇..
★内容
キシ
エア・ロックが、やけに軋む。ヘルメットのシールドが曇る。エアコンがいかれたの
かもしれぬ。島永は与圧室の圧力を確かめ、宇宙服を脱ぎ、その後、ようやくにため息
を漏らした。
「安物買いの命失い」というのが「鉄則」の大気圏外。旺文社の「鉄則シリーズ」で
はなく、「チャート式」を使っていたらしい島永氏の上役達は、「殴って さする」を
身上とされている。自分で火をつけておいて、しばらくしてから、消火ポンプを持ち、
おもむろに現れ、着たくもない恩を押売りする、当代の政治経済の根本原理、すなわち
「マッチ・ポンプ」の権化。
株式会社「HIV」の代表取締役とは聞こえが良いが、島永氏は、体よく子会社へと
飛ばされたのだ。所帯持ちは、皆こぞって敬遠する。紛争が何十年も続いている政情の
不安定な国へと派遣されるに比べたら、まだマシだという話もあるが、誘拐犯だって来
たがらない処である。
月面の地下から掘り出したチタンやウラニュウムを太陽エネルギーを用いて精練した
後、製品に加工するコンビナート。そこから製品を受け取り、巨大なリニアモーターで
ある処の
「 マス・ドライバー 」
で所定の軌道上まで
「 発射 」
するのが株式会社「HIV」の仕事。役員様御自らが作業に勤しまれる毎日である。
社長が1名。常務取締役が2名。平取締役が3名。一般社員はと言うと、親会社との
兼務で地球上勤務が2名、という布陣。あれこれと注文を出すのは地球上の平社員なの
である。
業務打ち合わせを終えると、役員こぞって結構に長い休みに入る。物資を所定の軌道
へ発射するには位置が悪くなるのだ。エアコンの点検は、まずはチェックプログラムに
任せ、島永氏は自室へと戻った。
シャワー・カプセルに入る。女は居ない。三次元ゴーグルを付けている。直径50ミリ
程の円筒が下半身に装着される。精妙なリニア・モーターが組み込まれている。微妙に
往復運動をする。三次元ゴーグルには、飛び切りの良い女が現れる。リニア・モーター
がシコシコと音を立てる。この装置も、また「マス・ドライバー」と呼ばれる。脳波の
パターンに応じて、アクチュエーターの動作も変化を遂げ、効果的フロンティアを探索
するというアルゴリズム。やがて、トリガーは敷居値を越え、
「 発射 」
が行われた。そして、しばし後、洗浄が完了し、体を乾かした島永氏は眠りについた。