AWC 暑さから落伍した話し。(1)    【惑星人奈宇】


        
#2136/3137 空中分解2
★タイトル (ZQG     )  92/ 9/12   4:29  (164)
暑さから落伍した話し。(1)    【惑星人奈宇】
★内容
 暑いなあ 暑いなあ もう八月の下旬と言うのに、何だこの暑さは・・・毎日朝
の10時から午後5時まで、気温33度が続いているんですから。とてもこの暑さ
に我慢できるものでは無い。少し家の中を歩いただけでシャツは汗で濡れ、額から
は水玉のごとく汗が出てくる。

 暑さに忍耐力の少ない春男はエアコンのスイッチを入れた。5分も経過すると高
原のように涼しくて清々しい気分に成ってくる。
 今日は8月23日、日曜日である。春男は夏休みとして2週間を支給されたが何
かまとまったことをするでも無く過ごして仕舞った。
 春男は冷房の効いた部屋でぼおおおっと外を眺めていると、来客を意味するチャ
イムが鳴った。安男君であった。
「春男君 サイクリングに行かないか。少しはスポーツせんと体に悪いよ。」
安男は春男の暑さ嫌いのために冷房の効いた部屋でぼおおっとしているのを見て言
った。「あん、まあっ、少しぐらいならつき合うよ。それにしても外は暑いでしょ
うに」
 春男はしぶしぶとエアコンのスイッチを切り外に出る準備を始めた。
「えええっと 帽子に手拭 それに・・・えええっと・・・」
 安男は外で待っているよと言って玄関に向かった。
「財布に・・・それにい・・・」

 この辺りは静かな住宅街である。日曜日でもあるので自動車の騒音は少なくのん
びりした雰囲気であった。春男はサイクリングの準備として半袖シャツ半ズボン姿
で、それに勿論頭には帽子を被って外に出た。
 それにしても暑いなあ、安男はほんとに物好きな奴やなあ、なんて思いがら空を
見上げるとぎらぎらした太陽が輝いている。ちよっと不安になった春男は安男に
「僕はゆっくりとしか行かんからなあ」と念を押した。

 この時何処からか物売りの声らしきものが聞こえてきた。このくうそ暑い真夏に
まだ流行前だが、リヤカーにバッテリーとモータを付けただけの簡単な四輪電気自
動車がやって来た。二人にはもの珍しさもさることながら興味を感じてしまった。
安男は少しあれをからかってやろうかと春男に提案した。

「あまざけえ 甘酒 あまざけえ 甘酒 、あまあい あまざけ 」
「あままい 甘酒 ・・・・・・・ ・・・・・・   」

「春男君 甘酒売りとは珍しいなあ。飲んでみても好いくらいだあ」
「からかうって何をするんや 」
「まああ 見てねって 」

安男は甘酒屋に近付いて行った。

「おっ 甘酒や あついけえ 」
「へっ あつう御座んす 」
「そなら日影歩きねえ 」

「春男君、出発だあ 」「今行く、ちよっと待ってて」。甘酒売り屋はあっけに取
られた顔をしながら仕方無く向こうに行った。
 春男と安男は静かな住宅街をゆっくりと公園に向かって進んだ。すると向こうか
ら今度は焼芋屋らしい声が聞こえて来た。さっきのは安男のからかいだったのを理
解した春男は「今度は僕がやる」と安男に言った。

「やきいも 焼芋  美味しいやきいも ・・・」
「おっ やきいもや  あついけえ 」
「とても 美味しう御ざんす  」
「・・・ ??? そけえ んなら 一つくれ 」
 春男は顔に一杯汗をかきながら「やきいも」を一つ買った。
 二人は焼芋が熱くてとても食べられないので自転車のハンドルに芋をぶら下げて
公園の中に入った。所々に大きな木が有り、その横には大体ベンチが有った。なぜ
という理由もなく二人はベンチの前で自転車を降りた。

「暑いから休もうか。」「俺、芋よりアイスクリーム食べたいなあ。」「思い出し
たわ、この近くに中学の時国語の先生だった木須山先生住んでいるよ。」
「あああっ あのスケベエな先生・・・すぐに女の尻をおっかけるらしいから」
「丁度 近くだしなあ。寄ってみるかあ」 「木須山さんは公民館でキャンプを楽
しむ会を主催して居るんだよ。この前暇だったから出席したんだけど。」
「何だ春男は木須山とのキャンプ生活に興味が有ったんか? 一ヶ月前だったかな
あ、焼鳥屋で一緒になったよ。」「木須山先生は酒も飲むんけえ、結構皆の面倒見
が好いから評判はまあまあだよ。」

 二人は木須山先生宅を尋ねることにした。

「こんにちわ こんにちわ 」
「いらっしゃいませ 安男君に春男君じゃあありませんか?」
「先生いらっしゃいますか、ちょっと近くを通り掛かったものですから」
「うちのひとは・・・何ですか・・・会議が有るとかで、今留守して居ますの。」
「そうですかあ 」
「急用でも有りますの? 少しお茶でも飲んで行ってください。」
「外はほんとに暑いですから、ははは、お茶を飲みたいなあ何て今思って居たと
 ころなのです。」

 春男と安男は玄関横の何も飾りもない部屋に通された。
「さああ どうぞ 」
「これは美味しいですねえ。香りもいいです」
「これは主人の郷である静岡から毎年贈られてくるものですよ。」
「そうですか、なっ春男君、これは本場の味ですよ。」
「この香りと飲んだ時の口内に広がる味が抜群ですね。」
「好いお茶を飲むと落ち着いて来てとても良いです。うめえうめえ」
「じゃあもう一杯どうぞ。主人もきっと喜びますわ。」
「先生は忙しいんですねえ、面倒見が好いからですよ。」
「ええ そでしょうか 」
「キャンプ仲間に銭がないなんて言われると、貸して面倒見て居るようですから」
「なんですかね ええ」
「何処に行くかでもめることも有るそうだけど」
「上手に運営しているようですよ。きっと信望が厚いんですよ。」
「あああ 何と言いましょうか。」

「ところで、さっきからカトコトと音が聞こえてますけど、大工さんでも・・・」
「あっあれは、主人が家が狭いから茶の間を建て増ししようと言い出してね。」

「あああ 茶の間の建て増しですか。そうですかあ 」
「何しろこの家はもう古いでしょう、一箇所直そうとするとこちらも直そう、あそ
 こも直そうと次から次へと、カタカタやってるんですよ」
「先生は働き者なんですね。 素晴らしいことですよ。なっ 安男君。」
「僕達も見習わなくてはいけないなあ。 あははは 」

「これは家の人の働きでは御座いませんのよ。若い衆が寄ってたかってこしらえて
 くれた様なものですよ。」
「えっ、するとキャンプの連中が作ったのかな。先生の威力は抜群ですね」
「若い衆が寄ってたかって作ってくれたんです。」
「俺なんか、ぼけっとしているから、穴が有ったら入りたいくらいだぜ。」
「安男君は穴が有ったら入るんか。今から穴掘ってやるかあ。」
「奥さん、先生が居らっしゃる時に来ますから、今日はこれで失礼します。」
「お茶だけですみませんでしたねえ、また来てください。」

 春男と安男は再び自転車にのって木須山先生の家を後にした。そろそろ昼食の
ことを考える時間に成ってきた。暑い道路を動き回るのは辛いことだ。二人で相
談した結果、植物園広場前にある食堂で昼食をとることに決った。

「ねえちゃん ビール一本くれ。それに刺身定食 野菜いため 」
「わたしは、えええっと、てんぷらうどんに湯豆腐 それに・・・」
「すみません 湯豆腐は無いんです。」
「それなら焼肉と野菜の盛りつけ。」
店員は承知して店の奥に下がって行った。

「木須山さんちの奥さんは偉いねえ。普通だったらこれ皆主人の働きなのよと
 偉ぶるんだけど、少しも自慢せずに、これはうちの主人の働きではありません
 のよと簡単に謙遜されてしまったからなあ」
「これは若い衆が寄ってたかって作ってくれたようなものと言って若者に花を持
 たせるとこがなあ、真似できないよ。感心して仕舞ったよ。」
「汗をかいた後のビールは美味しいなあ。この次もサイクリングしようか」
「またサイクリングか、うん、考えておくよ。」

 二人が好い気分で飲んでいると、ここに偶然噂の木須山が現れた。
「やあ君達、久しぶりだね。」
「先生も一杯どうぞ。」
「午後来週の日曜日に予定のキャンプの説明会が有るんだ。君達も参加しないか」
「相変わらず先生は忙しいんですね。参加してみるか、春男君。」
「その前に頼みが有るんだ。」
「頼みって」。春男は思わずごくりと唾を、安男はビールを飲み込んでしまった。

「うちに行って、少し俺のことを誉めてくれないかなあ」
「えっ、木須山を誉めるの、何ていうの。」
「お宅のは働き者だねえとか何とか・・・。」
「あんた、働き者なの?全然知らなかったよ、今の今まで、なっ安男君。」
「僕達案外先生のこと知らないからなあ、また木須山んちに行くのか」
「外は暑いしさ、今ビールを飲み始めたところだしなあ、ちよっと辛いね。」
「何か悪いことでもしたのならプレゼントがいいよ、なっ、春男君。」
「先生もビール飲みねえ」
「君達、頼むよ。お宅の大将は働き者だってかかあの前で誉めてくれよ。」
「木須山は大将に成ったんか。大将ってがらじゃあ無いなあ。」

 春男と安男は美味しそうにビールを飲みながら木須山の要求を聞き入れるべきか
どうかを思案していた。何と言うか、木須山の真剣な話し態度を見て居ると、行っ
てやるべきなかあと思うのであった。

木須山は、キャンプ説明会の時のコーヒー代を払っておくから・・・あっそれに
ケーキも付いてるからね、と言って念を押した。

 春男と安男は再び自転車に乗り木須山の家に向かった。
丁度午後一時近くに成っていて、夏の太陽が容赦無く照り輝いていた。
自転車で5分も行くと、体からは汗が吹きだし、ビールの酔いも手伝って頭がぼお
っとして来るようにさえ感じた。

   ***** 続く *****




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