#2099/3137 空中分解2
★タイトル (AZA ) 92/ 8/27 7:45 (162)
神に死す 3 永山
★内容
「わざわざ来てくれて、ありがとう」
やや疲れた表情の紫苑君。ひょっとして寝かしてもらえなかったのかしら?
警察のやり方ったら!
とにかく、紫苑君が話してくれた昨夜の状況をまとめると、こうなる。
昨日の十一時前、不審な物音を耳にした紫苑君が外に出てみると、教会の十
字架に何か引っかかっている。鳥なんかよりずっと大きい物。紫苑君は懐中電
灯を取ってきて、十字架の辺りを照らした。照らし出されたのは、人間の顔だ
った! 最初、紫苑君は泥棒かと思ったそうで、何度か大声で怒鳴りつけたが、
全く反応がない。
「信じられないかもしれないけど、その人は屋根の上で死んでいたんだ。その
後は大騒ぎ。警察に電話するわ、警察の手だけじゃ遺体を降ろせないわで消防
署に協力を頼むわ、真夜中なのに、大忙がしだった」
テレビなんかでちらりとは知っていたけど、かなり不可解な死に方だわ。
「死因なんかは?」
「殴殺されたらしいって。見た目では、喧嘩の果てに死んでしまったような感
じだと言っていた」
「……僕らは君のお父さんが、暴力団関係者に殺されたのを知っているんだ」
「やっぱり。細山君がなんだか調べていたそうだからね」
紫苑君は、細山君をちょっと皮肉っぽく見返している。でも、怒ってはない
みたい。
「聞きたいのは、入峰君一家が、知っていてここに来たのかどうか、さ」
細山君も、悪びれずに質問する。
「難しいな。うん、ここに越して来ることになってから、知ったんだ」
「じゃ、可能性は消えたかな」
「何の可能性よ?」
あたしはいい加減いらいらして、割って入った。
「入峰一家の復讐という可能性」
「そんなこと考えてたの! あきれた!」
「いいじゃないの。細山君は、対抗意識もあって、ついでに考えてみただけな
んだよ。ね?」
カッカしてるあたしに、きよちゃんが可愛らしい声で言った。きよちゃんに
言われると、何となく怒りが収まっちゃう。細山君自身は、そっぽを向いてし
まってる。
「疑われてもしょうがないよね。でも……」
「そこから先はあたしに言わせて、紫苑君。わざわざ自分の教会の屋根に遺体
を担ぐようなことはしない、でしょ?」
「そうだよ、香田さん」
紫苑君は、かすかに笑った。細山君も、また口を開く。
「僕だって、それくらい、認識していた。可能性を潰したかっただけで」
言い訳めいて聞こえたけど、まっいいか。
「そうなると、犯人は別にいて、その犯人もやっぱり、何故か教会の屋根に遺
体を運んだことになるわね」
ミエが冷静なところを見せてくれる。そうなのよ。誰が犯人であっても、わ
ざわざ屋根に遺体を運ぶ理由が見つからない。
「偶然、遺体が屋根の上に載ってしまったとは考えられないだろうか?」
「どんな偶然があるって言うの?」
細山君があまりに突飛なことを言うので、すぐに聞き返してみる。
「その前に……入峰君。事件の後、近くで何か変わったことはなかった?」
「変わったことか。いや、慌ただしかったからね。近所の様子を見る暇なんて、
なかったから……。うん、関係あるかどうか分からないけど、あの工場に、見
慣れない白の乗用車が止めてあった。いつもはないのに、今朝、警察に状況を
話しているときに気付いたんだよ」
そう言って紫苑君は、窓から見えている工場の煙突を指さした。
「そうか。わかったかもしれない。想像にすぎないけど……。この話、警察に
は?」
「まだ話してない」
「じゃ、すぐに連絡して、乗用車のナンバーを調べてもらうといい。ひょっと
したら、暴力団関係者の車かもしれない」
言葉を選びながらも、細山君は自信がありそうだった。
「細山君の言った通りだったよ」
次の日曜日、朝の礼拝を済ませたあたし達は、紫苑君を訪ねていた。
「被害者の鮎河原琉真の兄貴分で、やはり暴力団員の男が、逮捕されたそうだ
よ。もうぼちぼち、自白も始めているらしいね」
「乗用車の血痕が決め手になった訳ね」
あたしは二人の男の子の顔を見比べるようにして言った。
「犯人の男は、鮎河原琉真が妹のことを思ってこの教会に接近するのを嫌って
いたんだ。折角収まっているのに、また昔の事件を蒸し返すことになるから」
紫苑君は、ちょっと沈痛な顔に。
「……それで、あの夜、口論の末に殴り殺してしまった。計画的犯行でなかっ
たため、男は大いに慌てた。とにかく遺体を処分しなければならない。そこで
思い付いたのが、僕らの教会の敷地内に遺体を捨てることだ。悲しいことだけ
ど、うまくすれば罪を僕らに擦り付けられると考えたらしい」
「とんでもない男だわ!」
「そう興奮するなって」
ミエが調子よく、あたしをいさめた。
「で、続きは?」
きよちゃんが促す。軽く笑って、紫苑君は続けた。
「自分の車で遺体を運ぼうとしたらしいんだけど、直前の所で故障かガソリン
が切れたか、とにかく車が動かなくなった。それがあの工場前。担いでここま
で運ぶには、ちょっと距離がある。人に見られるかもしれない。それなら工場
に隠した方がいいかと考え、とりあえず車を工場内に押し込む。そこで煙突や
ワイヤーを見て、ふっと思い付いたらしいんだね。これを使って、教会まで遺
体を飛ばせられないかって」
「飛ばす?」
「そうだよ、香田さん。細山君が考えていたことだと思うんだけど、煙突にあ
る階段にワイヤーを通し、そのワイヤーで遺体をつり上げ、固定する。それと
は別にもう一本の煙突にワイヤーを結び付け、元の煙突に引っ張って来る」
「煙突を区別できるようにしないと、分かりにくい」
細山君が言った。
「そうか。じゃ、初めに遺体をつり上げた煙突をA、次にワイヤーを結んだ煙
突をBとして……。あ、煙突Bの方が、より教会に近い位置にあるんだ。Bか
ら持ってきたワイヤーをAの上で固定されていた遺体に結ぶ。これはちょっと
した力で抜ける程度にね。固定のワイヤーは解く。そして教会めがけ、遺体を
振る」
「ということは、Bを支点にして、振子のようになるわね」
「その通り。犯人の思惑としては、遺体がそのまま教会の敷地内に落ちてくれ
るはずだった。ところが、偶然にも十字架に引っかかってしまった……」
細山君が最後に言った。補足するのは、また紫苑君。
「男はそれを確認せず、車も動かないことから、そのまま歩いて逃げたそうで
す」
「そうだったのね」
あたしはすっかり感心していた。何より、推理小説を余り読まない細山君が、
これだけのことに気が付いたのには驚いてしまった。
「事件が起こったのは、僕らの責任かもしれない」
紫苑君が言った。
「そんな! 向こうが勝手に、仲間内でもめただけじゃない。紫苑君達が責任
を感じることなんてないわよ!」
あたしは立ち上がって怒鳴っていた。横では、きよちゃんもミエもうなずい
てる。
「だけど、神に仕える身としては、こんなことをも察知しなければいけないん
じゃないかってね。それに、僕、鮎河原さんから手紙をもらっていて……」
その言葉を聞いたとき、あたしは少なからずショックを受けていた。あの鮎
河原さんが!
「彼女、僕の父親のことも充分に承知してくれていてね。単純だけど、心から
の言葉を重ねて謝ってくれていた。その上で、つき合ってほしいと書いてあっ
たから、ちょっと戸惑って……。なんとなく返事が遅れてしまったために、彼
女のお兄さんが動こうとして、今度の事件につながったんだ」
「……どう思っているの、鮎河原さんのこと」
言ってからしまったなって、心中舌打ちしたけれど、もう遅い。あたしは紫
苑君に、率直に聞いていた。
「今は……。とにかく、会って、話がしたいな」
「……ふうん……。それじゃあ、あたしが取り持って上げる」
「リマ?」
ミエやきよちゃんが目を丸くしてたみたい。細山君の表情は、ちょっと分か
らなかった。
「……ありがとう」
「よく状況は分からないけど、彼女を慰めてあげればいいと思う。神父様の本
領発揮してね」
そうして、あたしは結局、自分の心は言わないまま、紫苑君の家を辞退した。
「どういうつもり?」
ミエが聞いてくる。細山君は道が違うので、もうこの場にはいない。
「どういうつもりって?」
「鮎河原さんにゆずるつもりかってこと」
「別にぃ。どうなるか分かんないじゃない、二人の仲。今は、鮎河原さんに必
要だと思ったからね。でも、その後は本当に、どうなるか分かんないわよ」
「そうなの。じゃ、細山君はかわいそうねえ」
きよちゃんが、変わったアクセントで言う。
「どういう意味よ?」
「自分で考えなさーい! リマったら、今回は頭の回転が悪かったよ。恋のせ
いでボケてたんじゃないの」
きついお言葉。
「フン! とにかく、あたしには候補が二人はいるんだから。他人のことより、
自分の心配をしなさい!」
負け惜しみ半分に、あたしは大きく言った。とりあえずは、鮎河原さんに話
しなくちゃと考えながら。
−おわり
本作を書いていたときの私の心理状態……。
初め、「私」じゃなく「あたし」を使う訓練をしよう。
次、とりあえず、女子高生にしよう。
次、折角だから恋愛ジュニア小説もどきに初挑戦。
次、お、何だかうまくいってるぞと、自己満足。
次、あれ? 話が進まなくなった。オチがない。
次、しゃーない。強引に得意の殺人事件にからめて……
最後、終わってみたら、いつもと同じじゃないの。ついでにまた、新しい探
偵役を作ってしまった……。悶々。
ま、地天馬シリーズ「踊るこびと」に出てくる細山君を再登場させることが
できて、うれしいなってのが、今の自分に対する慰め言葉です。トホホ。