AWC 透明人間              かきちゃん


        
#2055/3137 空中分解2
★タイトル (ENB     )  92/ 8/16   2: 1  ( 79)
透明人間              かきちゃん
★内容

 透明人間って目が見えないっていうけど、あれ、嘘なんだな。だって、ちゃ
ーんと見えるもの。
 それにしても俺、どうして透明人間になったんだっけ? うーん、思い出せ
ない。まっ、いっか、誰からも気づかれずに行動できるなんて滅多にないチャ
ンスだもんね。おっ、銭湯がある。こりゃいいや、早速覗いてみようっと。さ
て脱衣場へと……。
 げげっ、げろげろ、ババアばっかり。こんなもん、見たかねーや。退散退散。
  そうだ、好きなあの娘の家に行ってみようっと。何してんだろうなあ、今。

 あー楽ちん楽ちん。そうかあ俺、飛べるんだ。
 ふわふわふわふわ、あー気持ちいい。

 おっ、あそこはあこがれのS女子高校。いっぺん中を覗いてみたいと思って
たんだけど・・・午後8時だもんな、もう生徒なんかいるわきゃないっと。
  残念だけど先を急ごう。目指すは麻美ちゃん家!
 とととと、あそこの家の窓からおいしい物が見える。ぷぷぷぷ、ギャルが、
ギャルが着替えしてるぜ。髪の長い、色っぺーねえちゃんじゃ。
 でも、どうして俺、透明人間になったんだっけ?
 まあいーや、そんなこと、今のこの状況を楽しまなきゃね。
 おっ、ぱんつを脱ぐぞ、ぱんつを・・・。
 やったー、生まれて初めて見る女のあ・そ・こ(純情)。俺は今モーレツに
感動している。そういえば星飛雄馬は何歳で童貞を捨てたんだろう?

 ん? ありゃ?
 麻美ちゃんが走ってくる・・・。どうしたんだろう、泣いているみたい。そ
うか、誰かにいじめられたんだな、プンプン。とにかく後を追ってみよう。
  ふわふわふわふわ、おっと、追い越しちゃう。スピード落とさなくっちゃ。
コントロールがむずかしいぜ、まったく。
 お、でっかい建物の中に入って行った。えーとえーと、なになに、「N記念
病院」? とゆーことは誰か友達か親戚でも入院したのかなあ。
 どれどれ、一緒に入って行ってみよう。おっと、なーんだ、俺、壁も突き抜
けられるのか・・・便利便利。
 へ? 霊安室? 誰か死んだの?
 ま、中に入ってみよう。

 え゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ、なんでぇっ? なんで俺の両親が泣いてるの?
 それに、顔に白布をかぶせられて横たわっている人物は・・・。

 どう見ても俺じゃねーかよっ!

 ああぁぁぁぁぁぁっ、思いだしたあっ! 俺、歩いて道路を横切ろうとした時、
横から車が迫ってきて・・・思わず硬直してたら車が視界いっぱいになって・・
・そこから先の記憶は・・・ない・・・。
 とゆーことは、俺は透明人間じゃなくて幽霊さんになっちまったわけ?
 えーっ、やだようっ! 俺まだ死にたくないようっ!

 「いやぁっ! 永森君!」
 麻美が俺の名前を叫んでいる。いや、実際に叫んでいるわけじゃない。俺の心
の中に彼女の叫びが直接響いて来るんだ。
 「好きだったのに・・・好きだったのに・・・いつかあなたに伝えようと思っ
ていたのに・・・どうして? どうして死んじゃったの?」

 そ、そんなぁ。それじゃあ、両思いだったんじゃないか! 麻美っ! 俺も好
きだよおっ! ああっ、抱き寄せたいのに俺の手は彼女の身体をすり抜ける。俺
の叫びも麻美には届かない。

 「いやいやいや、お願い、目を開けて、私の話を聞いて!」
 「いやだいやだいやだ、このまま死んで行くなんていやだ! 俺はもう一度彼
女の声が聞きたい。一度でいいから彼女の身体に触れてみたい」

 二人の叫びがすれ違う。決して交わる事なく・・・。

 もう俺の身体、いや、俺の意識は空に、天に向かって上昇し始めている。
 だんだん遠くなっていく。だんだん小さくなっていく。もう戻れない。
 彼女の気持ち、俺の願い。両親の悲しみ・・・。
 それらを全部無視して時は流れる。世界が遠ざかる。行き先はわからない。

 結局俺は行ってしまう。あきらめきれないまま全てを無くして、新しい誰も知
らない世界へ・・・。

 さよなら、現実世界。さよなら、麻美。
 俺は行く。
 麻美、おまえのことは決して忘れない。
 俺は行く。
 俺は行く・・・。


                                 (了)




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