#2041/3137 空中分解2
★タイトル (GUE ) 92/ 8/10 2:11 ( 86)
物品巡回>通信ソフト 念仏のでぃ
★内容
「きゃっ!! …ご、ごめんなさいっ!」
辻の角を曲がると突然女がぶつかってきた。何かに追われている様な感じでひどく
後ろを気にしている。
「あ、いや…」
「じ、じゃあ。私急ぎますから」
そういうと走って行ってしまった。
結構可愛かったな。ベリーショートの髪がよく似合っていた。
タバコを買おうとして上着のポケットに手を入れると財布とは別の物が入っている
のに気がついた。それは紫色の一枚のディスクだった。
「うぇ。なんだこの悪趣味な色のディスクは」
確かにそのディスクは部屋を出るまではポケットに入ってはいなかった。第一、ケ
ースにも入れずに持ち歩く習慣はない。少しの間ディスクを眺めていたが、再びそれ
をしまいこむと部屋へ帰ることにした。
部屋に帰ってから早速ポケットのディスクをドライブに入れようとした時。
誰かがドアをノックする。
「はい? 誰」
「あ、あの…。さっきはごめんなさい!」
「ああ。さっきの」
女の顔は少し上気して赤くなっていた。少し息も荒い。あの後ずっと何かに追われ
る様に走っていたのだろうか。
しかし、初対面の女がなぜ自分の家を知っているのか? 勿論彼女が後をつけてき
たからに決まっているが。
そんな怪訝そうな顔をして彼女を見つめていると、それを理解した様に答える。
「ごめんなさい。あれから暫くして私、貴方の後をずっとつけていたの」
「あ、いや。それは判るんだけど。どうして?」
「さっきぶつかった時、貴方の上着のポケットに紫色のディスクをいれたの…」
「君だったのか」
「ええ、ごめんなさい…」
「まぁ、立ち話もなんだから。取り敢えず上がって、それからゆっくり話を聞くこと
にしよう」
コーヒーを出す間、彼女は机の上に置かれたディスクを穴の開くほど凝視していた
。まるで何かにとりつかれた様に。
「ねぇ。このディスク起動させた?」
「いや、そうしようと思った所でタイミングよく君がドアをノックしたからね」
「よかった…」
ほっと胸を撫で下ろす。一体このディスクは?
「このディスク…」
「今は何も聞かないでディスクを返して。貴方のポケットに勝手に放り込んでおいて
こんな事いえる立場じゃないけど…」
☆ ★ ☆
あのディスクが今はどうなってしまったのかは誰も知らない。確か、あの後彼女は
ディスクをどこかへ捨てて来るといっていた様に記憶しているが、そんな事はどうで
もいい。
あの事がきっかけで、こうして彼女と暮らす事が出来るようになり、まもなく子供も
生まれる。縁とは不思議な物だ。
「ねぇ。出産には立ち会ってくれるんでしょう?」
「またそれか」
「あら、いいじゃない。命が生まれる場面って感動的よ」
「そりゃあ、テレビの中での話だろ」
「そんなことない…」
「その言葉にいま一つ説得力がないからパス」
そんな会話があり結局出産に立ち会わされるハメになった。
まだ名前も無い無垢の命の誕生の瞬間。あり得ざる事は起こった。
輝かしい未来を背負ったはずのその子供の顔は…悪魔のそれであり、私を見るとニヤ
ッと笑った。
そして、胎内から自分で飛び出すと、一言。
「契約料は利息付でいただきました」
そのまま気を失った様で、気がつくと待合室のソファで横になっており、隣に医師
と看護婦が座って深刻な顔をしていた。
「…あ、先生」
「まことに残念ですが、お子さんは死産でした」