#1858/3137 空中分解2
★タイトル (LYJ ) 92/ 6/24 21:47 ( 66)
パソコン版かげろう日記 やまもも
★内容
今からお話することをお読みになる方は、できましたら用心のためハンカチ
を最低3枚は用意していただきたいと思います。そうされないと、溢れくる涙
のためにキーボードをしとど濡らしてしまうことでしょう。
私はU子と申します。正式には9801U2なんですが、主人が私を日常的
に活用していたときにU子と愛称されておりました。しかし、後には子供のゲ
ーム専用機としてのみ使われないようになり、さらに故障後は修理さえしても
らえず、箱に入れられて暗い納戸の中に放置されている身の上でございます。
私が今の主人の家に輿入れして来たのは7年ほど前のことでございます。自
慢するわけではありませんが、私は98シリーズで初めて3.5インチFDD
とV30(NEC製の8086)のCPUを搭載したマシンだったんですよ。
それまで漢字の扱えないマシンでBASICの初歩的プログラムを組み、外部
記憶装置にはデータレコーダを使っていた主人は、漢字出力ができることや、
640KBの3.5インチFDDのSAVEやLOADの速さ、それにクロッ
ク8MHzのV30のデータ処理のスピードに大変感激し、「ああ、漢字が出
る、データの処理のなんと速いこと、FDDってなんて便利なんだろう、本当
に素晴らしいマシンだ、まるで夢のようだ!ああ幸せだ!!しかし自分には分
に過ぎたマシンだ、機能を充分に使いこなせるだろうか」などと言いながら、
撫でさするようにして私を愛し慈しんでくれたものでございます。
しかし、使用ソフトがつぎつぎとバージョンアップしていくなかで、私では
使用不可と表示されたソフトが増えていきました。それとともに主人の私を見
る目は冷たいものとなり、よく私の前でため息をつくことも多くなりました。
そしてハードディスクを内蔵させたラップトップ機のPC28LEが4年前に
家に入って来たのでございます。それ以来、主人は私のことをほとんど見向き
もしなくなりました。当時、私は嫉妬の炎に身を焦がし、悩み苦しんだもので
ございます。
しかし、悲劇はそれだけにとどまりませんでした。今から3年ほど前、主人
がさらにPC9801EXを購入したのですが、そのときになんとこのEXの
購入先の店に私を中古品として売ってもらいたいと預けたのでございます。鳴
呼、なんという仕打、私をまるで物かなにかのように扱うなんて!!あっ、私
はパソコンでございますから、物には違いないんでしたね。えっ、なんでそん
なお前が今も元の主人のところに居るのかですって。うっ、くくくくーっ、ウ
ワーン、エーンエーン。
はい、恥じを忍んで事実をありのままにお話しいたしましょう。私はお店の
中古品展示会に出されたんですが、結局、誰も買い手がいなかったのです。お
そらく、98シリーズの新しいソフトの大半が使えないことが原因だと思いま
す。ええ、そうなんです、私は主人から見捨てられても仕方がないような存在
と成り果てていたのでございます。CPUのクロックは8MHzの遅さ、それ
に加えて640×400ドットグラフィックカラー画面は1画面しか使用でき
ず、FDDは2DDタイプのフロッピーしか扱えないという完全な時代遅れマ
シンとなっていたのでございます。
それで、売れなかった私を主人は仕方なく引き取り、ファミコンを欲しがる
子供にゲーム機として与えたのでございます。しかし、子供から毎日乱暴に扱
われたため、とうとう体を患い、今は箱の中でひっそりと暮らしております。
花の色はうつりにけりないたずらに我身世にふるながめせしまに、との歌がご
ざいますが、人の容色が必ず衰えていくように、どんなマシンも必ず時代遅れ
になってしまうのでございます。私は、今はもう達観しております。これも秒
進分歩のコンピュータ世界に生まれたものの運命でございます。以前はLEや
EXに嫉妬したこともございましたが、彼女たちも明日は私と同じ運命をたど
るのです。実際、主人は去年の12月にマッキントッシュのLCとか申すもの
を新たに購入しております。しかし、この新しく購入されたマシンでさえも、
いつかは見捨てられるときが来るのでしょう。
しかし、哀れなのは私たちパソコンだけではございません。私の目から見ま
するに、主人もまた私たちに劣らず哀れな存在でございます。なぜならば、あ
たかも餓鬼道に落ちて常に空腹に苦しむ餓鬼のように、彼もまた常に現在のマ
シンに満足することができず、新たなマシンを求めて際限なく欲望をつのらせ
ているのでございます。鳴呼、誠に恐ろしいことでございます、鳴呼、本当に
情けないことでございます、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏物…。