AWC 小説:幼稚園の参観日     やまもも


        
#1852/3137 空中分解2
★タイトル (LYJ     )  92/ 6/22  21:42  ( 79)
小説:幼稚園の参観日     やまもも
★内容

  冴香はなんて可愛いんだろう、あの愛くるしい笑顔はまるで天使のようだ。
鈴木さんは、幼稚園のクラスのお部屋で一生懸命にお遊戯している冴香ちゃん
の姿にしばらくうっとりと見とれておりました。今日は父の日、冴香ちゃんが
今年の春から入園している幼稚園の父兄参観日なんです。

 ずーっと冴香ちゃんだけを意識の上でズームアップしていた鈴木さんでした
が、今度はズームバックして、クラスの他の園児たちも視野に入れ、そして冴
香ちゃんと比較してみました。やっぱり冴香がとびっきり可愛い。冴香は光り
輝くかぐや姫、まあそれに対して他の子供たちはカボチャやナスビのようにし
か見えません。鈴木さんは大変幸福な気持ちになりました。

 そのときです、一人の男の子がお遊戯しているみんなの列から飛び出して来
て出鱈目な「踊り」を始めたんです。この男の子、ジャガイモに目鼻をつけた
ようなでこぼこ顔をしており、いかにも腕白坊主って感じです。このジャガイ
モ小僧は、周りの大人達が笑って反応してくれたので大喜び、ますます奇妙な
「踊り」をエスカレートさせています。鈴木さんは、まあ、こんな子ってどこ
にでも必ずいるんだよなと苦笑しながら見ていたんですが、そのジャガイモ小
僧の胸に着けた名札を見てはっとしました。「さとうたかし」と名札に書いて
あったからです。

 これがあのにっくき隆って奴なのか。鈴木さんは、隆君のことは奥さんから
何度かその噂を聞いて知っていました。この隆君に冴香ちゃんはいつも顔をつ
ねられたり、頭を殴られたりしているそうなんです。この前なんか、冴香ちゃ
んが足に大きな青いあざをつけて帰ってきました。母親が尋ねたら、やはりこ
の隆君にけっとばされたそうです。鈴木さんはそのことを奥さんから聞いて激
怒しました。可愛い我が娘がそんな目に遭うなんて許せない、幼稚園の先生は
なにをしているんだ、その男の子の親にはちゃんと注意がいっているのか。

 しかし、被害に遭っているのは冴香ちゃんだけではないようです。鈴木さん
の奥さんが他のお母さんたちの話から聞いたところによると、人一倍腕白坊主
の隆君によってクラスの子供達はみんな酷い目に遭っているそうです。保護者
の間でも問題になり、あるお母さんなんか、幼稚園に直接乗り込んで、なんと
かしてくれと担任の先生に相談に行ったそうです。でも、担任の先生は、「ま
だ入園間もない子供たちの間ではよくあることです、もう少し長い目で見てく
ださい」と言って、あんまり気にしていない様子だったとのことでした。

 この憎たらしいジャガイモ小僧に復讐するチャンスが鈴木さんにめぐってき
ました。クラスのお部屋で子供達のお遊戯を見た後、今度は園庭で父親と子供
とが一緒に仲良くお遊びすることになりました。いろんな種目があったんです
が、その中には、父親たちがめいめい自分の子供を背中におんぶして走り回り
ながら、すきを見つけては他のおんぶされている子供のお尻をぽんと叩くなん
てゲームもありました。鈴木さん、これ幸いとやりましたね。ただひたすら隆
君親子を付け狙い、すきを見つけて拳骨でおもいっきり隆君のお尻をぶん殴っ
たんです。テキに決定的なダメージを与えられたでしょうか。別に隆君は痛い
といって泣く様子もありません。冴香ちゃんをおんぶして走りながらの一発だ
ったためか、あんまり効果がなかったようです。

 鈴木さんは、親子のお遊びが終った直後にもう一度この隆君に復讐をするチ
ャンスを得ることができました。お遊びから「解放」された園児達が大きな父
親たちの足元をまるで渦を巻くようにわーっと賑やかに走り回りだしました。
鈴木さんの近くをあの憎たらしいジャガイモ小僧が他の子供を追っかけて走っ
て来ました。こいつはしめた、鈴木さんは隆君の足をぱっとひっかけて、すっ
てーんと転ばしました。ジャガイモ小僧はそのジャガイモ顔をおもいっきり地
面にぶつけたようです。ぱっと後ろを向いてお父さん達のなかに紛れ込んだ鈴
木さんの耳にもウワーンというものすごい泣き声が聞こえてきました。その泣
き声は、ちょっとやり過ぎだったかなと鈴木さんも不安になるような大きなも
のでした。

 再びクラスのお部屋に入ってから、父親達がめいめい一言挨拶することにな
りました。鈴木さんもちょっと緊張しながらつぎのような挨拶をしましたよ。

 「えーっ、鈴木冴香の父でございます。あのー、今日はですね、えーっ、本
 当にですね、そのー、えーっ、幼稚園での子供の姿を見ることができました
 から、安心しました。えーっ、うちの子が元気に遊んでいるでしょう、みん
 なと仲良くですね。えーっ、ですから、あのー、とても安心したんですね。
 あっ、他のお子さん達もみんなとっても可愛いくって、いい子ばっかりでし
 ょう。えーっ、ですからとっても喜んでいます、はい。えーっ、今日は本当
 に楽しかったです。子供と一緒にゲームなんかして、ちょっと体が疲れまし
 たけどね、はははは。あっ、先生、えーっ、うちの娘がいろいろこれご迷惑
 をおかけしていると思いますが、いろいろよろしくお願いいたします。」

 父親達の挨拶が終った後、子供達が整列して、先生と一緒に「お父さん、あ
りがとう」という歌を身振り手振りを入れながら歌い出しました。そしたら、
またあの隆君が列から離れて、一人でヘンテコな踊りを始めたんです。そのジ
ャガイモ顔の真中には大きなテープが貼られていましたよ。周囲の大人達は隆
君のパフォーマンスに大笑い。鈴木さんも、この隆君の元気な姿を見て、なに
かほっとしたような気持ちでみんなと一緒に笑っていましたよ。





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