#1815/3137 空中分解2
★タイトル (GVJ ) 92/ 6/17 11:38 ( 82)
イ窿潟戟[Q>ブッシュ大統領殺人事件(25) 青木無常
★内容
「で、どうやって虎ノ門病院に侵入するつもり?」
「それはだな――」
ジョドーの問いに『影』が答えるより早く、
「げへ! げへげへげへ」
野卑な笑い声が二人の目をあげさせた。Jの字にとりついたジャッカルのあげた
笑い声だった。
「どうしたの海野、いやジャッカル」
「げへ? このジャッカル様を見くびってもらっちゃ困るぜ。げへ」
呼びかけるジョドーに向けてジャッカルはシニカルに口もとを歪めてみせた。口
端から唾液がしたたり落ちている。
「まずいな。どうも海野=ジャッカルは精神に安定性が欠ける可能性が濃厚なん
だ。狂暴なジャッカルならこのミッションにはぴったりなんだが、あの下品さはい
ったい……?」
「また別の人格が出てきたっていうの?」
「いや、それはわからない。なにしろジャッカル自体、そう簡単に出てくる人格
じゃないだけに俺にもよくわからんところが――ああっ!」
「飛んだ!?」
ひょーんっ!
下方で二人があげる叫びもものかわ、ジャッカルの影はJの字から虎ノ門病院へ
向けて音もなく放物線を描いた。
「すごい跳躍力だ! 多重人格というのは人間の筋肉の持つポテンシャルまで残
らず引きだしてしまうのか?」
「……でも届かないわ」
どわん! ジョドーの言葉どおり、ジャッカルは虎ノ門病院にまで飛び切れずに
病院前のアスファルトに落ちた。鈍い音とともに脳漿が周囲に飛び散る。
「悲惨……」
「いや、そうでもない。見ろ」
指さす『影』の視線を追って、ジョドーは思わず口もと押さえて「きゃい」のポ
ーズをとる。頭部を半壊させたままジャッカルはむくりと起きあがって「げへ、げ
へげへ」と笑いながら脳漿をかき集め、陥没した頭蓋骨のすきまから無造作に次々
とつめこんでいくのだ。
「シュールな奴だぜ」
「でも、こんな風に超人ばかり出てきたら読者が納得しないわよ」
「いいんだ。そのうちだれかが帳尻あわせをしてくれるだろう。さもなきゃ――」
「どうにも収集がつかなくなって『空中分解』してしまうか、ね」
わけのわからぬ二人の心配をよそに、ぶちまけた脳みそを適当に収集し終わった
ジャッカルは「げへ!」と笑いながらぎらりと目をむいた。虎ノ門病院。
「そーれ、とっかーん! げへ」
叫びざま、疾風のように門内に向けて走りだした。
「なんてこった、俺の考えた計画が真っ向から否定されちまった」
「大丈夫よ、いい陽動になるわ」ニヒルに言い放ち、ジョドーは立ち上がる。
「いくわよ。それにしてもわたし、いつのまにここにいることになっていたのかし
ら」
「俺にもよくわからん。細かいことはいいんだ。とにかくこの勢いを殺す手はな
い。このまま突っ走ろう」
一方、げへげへげへへと涎たらしつつ院内になだれこんできたジャッカルを見て
病棟看護夫たちはパニックに陥った。
「な、なんだ、脱走か?」
「いや、あんな奴いなかったぞ、まちがいない!」
「じゃあ新規の入院患者だ」
「これは狂暴だ。野放しにしとくと危ない! 近藤先生、どうしましょう!」
「電気ショックの用意だ! 向精神薬も忘れるな! 薬づけにしてしまうのだ」
「うんにゃ、ロボトミーのがいい。あれだったら一発で患者がおとなしくなる」
「嶋田先生、あれは外部にもれるとヤバいからって禁止されてます」
「一発でおとなしくなるのにい」
と医師や看護婦が右往左往しているすきに、ジャッカルは一気に警戒網を突破し
てD病棟に突進した。D病棟のDはデンジャラスのDだ。
やいのやいのと騒いでいた一団が一斉に飛び上がってジャッカルを追い、次々に
タックルかまして団子状の人山を形成する。
「げへ。げへ。おしくら饅頭か?」
さらに一方。侵入にまんまと成功したと思ったら監禁されてしまったクーパーが
膝を抱えて「ママたすけてこわいよう」としくしく泣いているところへ、こんこん、
こんこんとしきりに鉄格子をたたく音がした。
「きゃっだれっ? ママこわいよう」
「あらあら幼児退行しちゃってら。あたしよあたし。うふっ」
「なんだよう。おまえなんかしらないやい。あっちいけ化物! ……なんだクリ
スチーネか」
「そうよ、かわいそうにこんなところに閉じこめられちゃって。今たすけてやる
から、待ってるんだぜフフフ」
「そりゃありがたいが、おまえときどき突然キャラクターがかわるね」
「作者の都合とかあるのさ。なーに、ほかのキャラだって大同小異よ。うっふん」
「なんだか目まぐるしいなあ」
そういう会話をかわしながらも、クリスチーネは鍵穴に針金つっこんでがちゃがち
ゃやる手に余念がない。「どうでもいいけどおまえ、少々せせこましくないか? ば
らばらになっても再生するくらいの化物なんだから、ぐぐぐと鉄格子ひん曲げちゃえ
ばいいじゃないか、アメリカンコミックみたいに」呆れ顔でいうクーパーにクリスチ
ーネは「あらそんな怪力キャラクターばっかり出てきちゃリアリティないでしょ」と
すまし顔で言う。「しかし『ブッシュ大統領殺人事件』というタイトルとこの内容と
は著しく差異があるなあ。詐欺だと怒りだす読者もいるんじゃないか?」「なにわけ
わかんないこと言ってるのよ、流れよ流れ。逆らっちゃあいけねえぜ」
(続ける)