AWC 異神伝 タコモドキの恐怖   紫明


        
#1727/3137 空中分解2
★タイトル (PXB     )  92/ 5/21  14:28  (181)
異神伝 タコモドキの恐怖   紫明
★内容

4 VS 巨大タコモドキ

 さて、舞台は再び重川の河口に戻る。先刻の騒動があった場所に、再び双子と聖の三人組がたたずんでいた。
「寒いわ……」
「そーかな」
「どっちかと言えば、温かいけど」
 真文理が振り向いて、聖に問い詰める。
「この状況のどこが寒くないわけ」
 真文理がわめきながら聖に詰め寄る。聖としては状況に不条理を感じないわけではなかったが、口にする勇気はなかった。
「それは真文理さんが封印、吹き飛ばしたから……」
 なんとか正論で真文理を説得しようと聖が試みる。
「じゃあ、全部私の責任だって言うわけ」
「違うのかな」
 廻はとなりでさめた顔して、缶コーヒーを啜っている。
「解ったわよ。私が一人で全部やればいいんでしょ」
「できればそーして欲しいな」
 廻が真顔で答える。
「もしかして真剣にそー思ってない」
「当然だろ」
「この世に二人しかいない双子の兄弟でしょ、そんなこと言わなくても……」
 真文理が柄にもない事を言っている間、聖はウォークマンを懐から取り出していた。
「どーかしたの」
「いや、そろそろ、ニュースになっているんじゃないかと……」
 確かにそのとおりだった。某海自基地より出発した地方隊の護衛艦と新田原のF−1がタコモドキに必死で攻撃しているらしい。
「物理的手段はきかないだろうな」
「そんな事はないわ。人間だって、精神的な問題で死ぬ事があるでしょう」
「まぁ、確かに」
 その時、ショッキングなニュースが飛び込んで来た。
「げっ」
「何、どーかしたの」
「タコモドキが消えた」
「異界に逃げたわけね」
 真文理が新しい情報を分析する。
「そーかぁ、じゃ、僕等の手を離れちゃったね」
「大丈夫。向こうから来てくれるから」
 真文理が心の底から嫌そうに呟く。
「どーいう事、それ」
「星振剣から魔力を吸収するのが一番簡単な回復方法でしょう」
「なるほど、魔法のリゲインか」
 聖の言葉が終わらないうちに「それ」はやって来た。
 小タコモドキが巨大化した時以上の衝撃波が発生するが、今回は星振剣の結界が拡大されているらしく、三人は衝撃波の影響をうけていない。
「吹き飛びなさいっ」
「ちょっと待った」
「どーしてっ」
「後始末はどーするんだ」
 真文理が一瞬考えた後に叫んだ。
「何とかなるわよ」
 訂正しよう。真文理は何も考えていなかった。
「聖、とりあえず逃げよう」
 廻が叫ぶ。目の前の海岸では再び深みの者どもの軍勢がわらわらと上陸している。
「逃げてどーするの。あいつらは星振剣追いかけてるのよ」
「そういう事」
 廻はあっさりと肯定する。
「まさか……」
 真文理の顔が微笑の途中でひきつった。
「短い間だったけど楽しかったよ、姉さん」
「廻、それは言いすぎ」
「いーわよ、解ったわよ」
 真文理がヤケになって叫んだ。
「滅びなさい」
 星振剣が呪念斬を放ち、異形の邪神が狂気の絶叫を放つ。
 しかし、真文理の予定通り邪神は滅んではくれない。
「ええっ、星振剣がきーてない」
「とりあえず移動しょう」
 聖が真文理の腕を引っ張って走りだす。
「逃げきれないわよ」
「逃げるんじゃない、場所を変えるんだ」
「お約束ってやつだろ、聖」
「そのとーり」
 この場に及んでも、聖と廻は状況を楽しむ事を忘れていない。
 三人は走りだし、異形の邪神は空中に浮いてその跡を追う。いかなる理由があるのか、積極的な攻撃は仕掛けていない。
「どこまで行く気なの」
「えっ」
「もしかして、何も考えてないの」
「ははははは、聞かないでくれる」
 聖が笑ってその場をごまかす。
「とにかく、連中を内陸に行かせないようにしないと」
「解ってるわよ、廻」
 真文理が立ち止まって、星振剣を構える。
「よーするにっ、ここでやっつければいーんでしょ」
「やっつけるって……」
 廻と聖が絶句する。
「滅びなさい、異形の邪神」
 もはや、視覚ですら認識できるだけのエネルギーが思念波として邪神を撃つ。
 こんどこそ邪神は滅びるはずであった。
 しかし、真文理の確信に反して、星振剣による最大級の思念波攻撃をうけてなお異形の邪神は健在であった。いや、むしろその狂気の力を増したかにさえ見える。
「これで倒せないなんて……」
「うげっ、深みの者の事に囲まれた!」
 聖が恐怖の叫びを上げる。
 しかし、深みの者どもは星震剣の結界に阻まれ、三人組に接近できない。
「姉さん、命が惜しかったらちゃんと結界張ってよ」
「解ってるわよ」
 星震剣の魔力によって強化されているとは言え、結界は真文理の精神力に依存している。邪神を滅ぼすのが先か、深みの者どもの餌になるか、時間は三人組の敵であった。
「まとめて吹き飛ばすわよ」
「無理だ」
「廻、聖君、しっかりつかまってなさい」
「解ったよ」
「ラッキィーー」
 聖は正直な奴であった。
「何か言った」
「いいや、何にも」
 星震剣の結界が収縮し、爆発的に膨張する。
 暴走した結界に深みの者どもは引き裂かれ、その五体は大地に砕け散る。
 正視する事のできぬ恐るべき光景であった。
 深みの者では星震剣の奪取は不可能だと悟ったのか、戦いの始まり告げるかのごとく邪神が吠えた。
 タコモドキは最も簡単な方法で星震剣を奪い取ろうとする。
「タコモドキに潰されて死ぬのはやだっ」
「私が好きだと思うのっ」
「頼むから、喧嘩しないでくれよ」
 聖が心の中で泣きながら、双子の喧嘩に割ってはいる。
「タコモドキなんか、本気だしたら五秒よ」
「じゃあ、さっきのはなに」
「物理攻撃は問題が多いわ」
 真文理があっさりと言う。
 この時、三人の頭の上ではタコモドキが宙を舞っている。はっきり言って気持ちの良い光景ではない。
 タコモドキの発する精神的圧力に耐えきれなくなったのか、真文理の脳裏で何かが音をたてて切れた。
「もう何がどうなろうと完全に知ったこっちゃないわよ」
「お、落ちついてよっ」
「オーン・マハー・パーピーアス・スヴァーハー」
 真文理の言葉と共に大規模な冷気が発生する。
 そして、異形の邪神は絶対零度すら超える冷気の中で、特異点となって時空の彼方に葬りさられる。つまり、絶対零度以下の温度では物質は質量をもちながら体積がゼロの状態、特異点へと存在形態を変化させる。まともな物理的攻撃では滅ぼしえない異形の邪神も、超物理学レ
「これで後始末は要らないわよ」
 突然降りだした雪のなか、真文理は聖に微笑みかけた。
 この季節はずれの雪は真文理の冷気攻撃によって生じた負の熱量を安定させる為に、周囲から熱エネルギーが補給され、空気中の水分が雪となったのである。
「余計な事かもしれないけどね、これじゃあ死体の処理に困っていた方がよかったんじゃないかな」
「そーゆー事、今から言われても困るのよね」
 しかし、真文理は困っているようには全然見えない。
「聖、海が凍ってるよ」
「一番手早い熱量の回復だったんだろうな」
 聖は様々な波及効果に思いを巡らせ、あくまで冷静に答える。
「仕方のない事よ。人類とあの連中は共存できないし、素直に滅ぼされるほど人類はお人よしでもないんだから」
 真文理は自分自身に言い聞かせる様に呟く。
「最悪のオプションを選択してしまった可能性は非常に高いよ」
 聖も人ごとのように答える。
「何難しい事言ってるんだよ、二人で」
「人類は同居人に遠慮がないって事」
「自分の利害に関係ないとね」
 聖と真文理が自分たちは無関係いう顔で話している。
「でもさ、出来る事はやってんじゃないかな」
「問題はなしうる事となすべき事のギャップでしょう」
「本当の問題はこれからどーなるかって事じゃないかな」
 聖が凍りついた海を眺めながら呟く。
「惑星レベルで影響がでるかもしれないわね」
 真文理が物騒な事を言う。正直に発言すれば気象変動が発生するのは、確率ではなく間違いない事実である。
「ま、人類が滅びる事はないと思うけどね」
 聖が真文理を慰めるように告げる。
「それって、現行文明がほーかいするって事かな」
 廻は無邪気な顔で尋ねる。真文理とのミゾは余程深いらしい。
「それは人類滅亡の第一歩だろ。余計な事は気にするなよ、廻」
「そーゆー無責任なセリフはきらいだよ、僕は」
「原因つくったのは誰」
「火にガソリンぶちまけたのは姉さんだろ」
「喧嘩はそれぐらいにして、帰って温かいものでも食べようか」
 聖が相変わらず喧嘩を仲裁する。
「ね、雪が綺麗だと思わない」
「そうだね。つもるかな」
 聖と真文理はすでに現実から逃げ出して、恋愛ドラマの世界にはまりこんでいる。
「それより晩御飯、何」
「風情がないなぁ、廻は」
 せっかくのムードをぶち壊されて、聖がうらめしそうに廻を睨んだ。
「いーだろ、おなかがへってんだから」
 廻はあくまで無邪気を装っていた。





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