AWC 異神伝 タコモドキの恐怖    紫明


        
#1724/3137 空中分解2
★タイトル (PXB     )  92/ 5/21   3:54  (102)
異神伝 タコモドキの恐怖    紫明
★内容

1 真木家にて

 真っ白な猫が扉を開けて、聖の部屋に入って来る。
 猫の名は雪姫という。何やら急な用事があるらしく、彼女は物言いたげな目で、しきりと聖を見つめている。
「桜屋敷の方かい」
 聖も事情を察したらしく、ディスプレイから視線を移して雪姫を見る。
「うみゃあ」
 雪姫は一声鳴いた後、器用にうなづいた。
 聖が椅子から立ち上がったその時、玄関のチャイムが訪問者の存在を告げる。
「雪姫」
「みゃあ!」
 雪姫と聖は顔を見合わせた後、聖は雪姫を抱いて駆け出した。
 期待と恐怖の混ざりあった、不可解な感情を楽しみながら聖は階段を駆け下って玄関の扉を開ける。
 ドアの向こう側に聖と同じぐらい年格好の少年が立っている。
「聖、いるかい」
「いるけどね……」
「人類がピンチなんだよ」
「落ち着けよ、廻」
「落ちついてなんかいられないよ、邪神が復活したのに!」
 その瞬間、沈黙が世界を支配した。
「で、何をどうしたんだ」
 聖は廻の言う事をあまり信じていない。無論、混沌の邪神が復活したと頭から信じる方が問題である。
「封印の札を剥がしちゃったんだ」
「それで」
「封印の壷から三十センチくらいのタコモドキが出て来て……」
「どうなったんだ」
「あさっての方向に飛んでいっちゃった」
 廻の慌て様からみて、信じたくはないがタコモドキが復活したのは事実らしい。
「事情は解った。で、僕に何をしろと言うんだ」
 聖はあくまで冷静である。
「どーしてそー冷静でいられるわけ。親が連れ戻しにきたらどーするんだよっ」
「おもしろいじゃないか」
 廻と対照的に聖は落ち着いていた。
「言われてみれば確かに……」
「だろ」
 聖の言葉で廻も状況を楽しむ余裕ができたらしい。
「うみゃあ」
 こっそり出ていこうとする雪姫の尻尾を聖がしっかとつかむ。
「雪姫、夕夏さんに告げ口する気だろ」
 聖はにっこりと微笑んでいる。
「うみゃみゃみゃあ」
 雪姫の必死に努力にもかかわらず、彼女の尻尾は聖の手から抜ける気配はない。
「ずるいなー、雪姫は。自分だけいい子になろうとして」
 このコメントは廻。もはや、完全に開き直っている。
「こんにちわー」
 少女の声が真木家に響き、雪姫と廻が凍りついた。
「げっ、ねーさんだ」
 そして、少年によく似た少女が現れた。
 この二人は双子であり、不具戴天の仇敵どうしであった。
「廻がお邪魔してませんか」
「誰か邪魔だって」
 一瞬の間、少年と少女の間に冷たい敵意が生じる。
「やっぱりいたわね」
「聖と相談してたんだよ」
 廻がむきになって姉に返事をする。
「ふぅーん、それで結論はでたの」
「今回は任してくれないかな、真文理さん」
 聖が自信ありげに答える。無論、根拠などない。
「いーのかい、そんな事言って」
 廻が心配そうに聖を見るが、聖はなぜか自信に溢れている。
「大丈夫、むこうさんの行方は解ってるから」
「解ってるって……」
「目的地は海、一番簡単な方法は」
「川下り、かな」
「じゃ、重川の河口で待ってればいーわけだ」
 それだけ言い残して、聖が奥に入っていく。
「大丈夫だと思う」
「全然思わない……」
 真文理が尋ね、廻は非常に心もとない返事を返す。
 双子がそうこう言っているうちに、聖は網のでっかい奴を持って帰って来た。
「一つ聞いていいかな」
 廻は不思議なものを見る目をして聖に尋ねる。
「何を」
「何に使うわけ、その網」
「タコモドキを捕まえるのに決まってるだろう」
 聖は至極当然のように答える。
「つかまえてどーするの」
 今度は少女が尋ねる。
「夕夏さんに封印してもらえば」
「じゃ、私も一緒に行くから、ちょっと待っててね」
 できればそれだけは止めて欲しかったが、残念な事に少女の参加を拒むに足る理由は見いだせない。いざとなれば姉が手段を選ばない性格である事は、廻が一番身にしみて理解していたのである。
「いやだよ」
 廻がせめてもの抵抗を試みる。万が一の奇跡にかけたと言っても良いだろう。
「忘れ物を取りに帰るだけよ」
「だ・か・ら・待つのがいやなんじゃなくて、姉さんと行動するのが嫌なの」
 廻は真文理が諦めてくれる事を、運命という名の魔女に真剣に祈っていた。
「なんで」
「忘れ物って、あれだろ」
「そうよ」
「これ以上、旧神の超兵器で人類の未来を弄ばないでよ」
「生態系の安定も考えずに繁殖し続けてる人類よりましよ」
 真文理が平然と答える。
「じゃ、待っててよ」
 真文理はそれだけ言い残すと、雪姫を抱いて出て行った。
「何で旧神の超兵器なんか持ってるんだ」
「詳しい事は姉さんに聞いてよ。僕も知らないんだから」




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