#1626/3137 空中分解2
★タイトル (MEH ) 92/ 4/27 13:25 (147)
チェイス・ゲーム(4) クリスチーネ郷田
★内容
第2章 チェイス
本多がフロッピーディスクに添付されているソフトを起動させると、今まで謎であっ
た暗号文が次々と解読されていき、ドキュメント・ファイルと何枚かの画像データに変
換された。一瞬にして今まで悩んでいた謎が氷解し、本多は何となく拍子抜けした。ど
うせ中身を見たって理解できる内容じゃない。直接文章を転送して出願してしまえばい
いだろう……。
本多は特許庁のネットワークのダイヤルをまわした。
自分の住所、名前を記入し、出願内容を転送した。
「簡単に出来るもんだな。」
「ああ、まったく楽なもんだよ。便利な時代になった、ってやつさ。さて……終った。
これでこの特許は俺たちのものだ。」
「オイオイ、これでおまえは大金持ちになったってわけか?
「まるで実感は無いけど、そう言う事になる」
「俺にも少しはくれよ」
「うーん……。まだ特許が通ったわけじゃないから、何とも言えないけどね」
その時、警告メッセージがディスプレイに表示された。
「何者かが自宅に侵入……。」
謎の男は拳銃を握り締めて、本多の自宅に入り込んだ。
「本名、本多昭。日本人。ハンドル名「ROOT」、年齢20歳。今回のゲーム相手。
ゲーム開始時刻が少々オーバーしているので、早めに行動するように」
網膜に直接送られてくるこのようなデータを、男は読み取っていた。
「社長、他に2人の人物がいるようですが、どうしますか」
「彼らもゲーム要素の内に入っている。安心してくれたまえ」
「そうですか……。それでは、本多の部屋に入ります。画像はどうですか?ちゃんと見
えますか」
「ああ、よく見える。設定としては、君は血も涙も無い男である。本多昭もその姉も、
また本多の友人の森田雅夫を殺しても一向にかまわないのだ」
「殺しはあまり好きではありませんがね」
「まあ、君なりのやり方でやってくれ。」
「私の身柄は保証してくれるんでしょうね。無期懲役はゴメンですよ」
「もちろんだ。だが、ちゃんと彼に説明するんだぞ、ゲーム内容をな。」
「わかりました」
男が部屋に入ると、すでに3人の姿は無かった。
もう既に、何処かに逃げてしまったようだ。
「なかなかいいカンをしているようですね、社長。こうでなくちゃ」
「ああ、ゲームも面白くなってきた」
「私としても、殺しがいがあります。相手は3人、か。それだけ逃げ足も鈍ると言うも
のだ。」
男は片腕につけたパソコンから「ルナ・ネット」に侵入し、「ROOT」に宛ててボイ
ス・メールを出した。
「『本多昭』君、聞きたまえ。チェイス・ゲームの幕が、たった今切って落とされた。
君はあらゆる知力、あらゆる体力を使って私から逃げるのだ。もし君が1週間逃げ切る
ことが出来れば、私は君を殺すのをあきらめよう。だが、もし期限内に私が君に追いつ
いたら、君は死ぬ。もう一度言おう。君は死ぬ……。
これは冗談ではない。私もあらゆる手段を使って君を追跡する。
君も全力を尽くせ……。フォン・マイケルソンの用意した100万ドルが君の銀行口座
に振り込まれているはずだ。君は、地球上なら何処にでも行ける。何処にでもな。だが、何処に行っても無駄だとは思うがね。」
男はニヤリと微笑んだ。「社長……。こんなものでいいですか」
「OK、いい出来だ。「ジュウオウ」、本多を侮るなよ。彼は突飛な行動をする傾向が
ある」
「わかってますよ。やつのポケベルが鳴ってこの文書に気付くまで、約30分くらいか。その間くらいの猶予は与えてやりましょう」
「ジュウオウ」は煙草を口にくわえて一服した。
のんびりと本多の部屋でくつろぎ、30分が経過した。
「さて、追跡を開始するか」
彼は立ち上がり、本多昭の現在位置の分析を始めた。
「おや?彼女の家に行ってるのか。別れを惜しんでいるのか、それとも一緒に逃げるの
か。社長、また新たな要素が加わりましたよ」
「フフフ、計算通りだ」
その頃、本多昭と智代、森田雅夫ともう一人、本多のガールフレンドの斉藤祥子はホ
ンダ製の「スピナー」(空中浮遊車)で自宅から遠く離れ、香港方面に向かって飛んで
いた。
「世界中何処に逃げてもいい、だって?恐れ入ったよ。しかも、何処に逃げても無駄だ
と豪語しやがった。とんでもないやつだ」
「IDを確認したら、なんと『ジュウオウ』じゃないか。なんだってヤツがおまえを殺
さなくちゃいけないんだ?」森田はポテトチップスをほおばりながら言った。
「知るかよ、そんな事!」
「ただのゲーム?信じられないんだよな、まったく……。警察に保護を求めるか?」
「いいや、イヤだね。俺はこの勝負から降りる気は無いよ。奴らの挑戦を受けてやる。
」
「あのなあ、負けた場合、おまえは死ぬんだぞ。」
「負けなければいいんだろ。ところでみんな、もうこの車から降りてくれないかなあ、
これは俺一人の問題なんだから」
「あたしはイヤよ。(この馬鹿は、私が守らなくては)」姉の智代は言った。
「俺もイヤだ(本多の姉ちゃんもいることだし、もう少しつきあうか。仲良くなるチャ
ンスだもんね)」森田雅夫は言った。
「あたしだって!(ついでに世界旅行出来るんだもの、行かない手はないわ)」斉藤祥
子も言った。
(どうしよう?ひょとしたら俺は死ぬかもしれないってのに。)
本多は頭をかかえた。確かに彼と一緒にいることは危険ではあるが、彼と別行動をとっ
ても危険である事に変わりはない。現にフォン・マイケルソンの家族は殺されているで
はないか。「……まあいいか。」ため息をついて本多はつぶやいた。
「勝算はあるのか?」
「さあな、それは神のみぞ知るってね。」
「マイケルソンもこのゲームに参加したんだろうな……。莫大な富か、それとも死か。
危険なゲームだよ、まったく」
「でも、生き延びれば豪華な暮しが待ってるぞ!!」
「空中高速道路網」は、全世界の国境を事実上無意味にしていた。政情不安定な地域
への通行は残念な事に規制されてはいたが、日本から外国に行くのはまったく簡単なも
のとなっていた。
空中道路の途中にある「浮遊ドライブイン」で夕食を食べ、4人は今後の行動計画につ
いて話し合った。
「これからどうするつもりなの?」智代はコーヒーをすすりながら尋ねた。
「まずは香港に行って、「KIM」さんに相談してみる。彼には以前会った事があるん
だ。「KIM」さんはゴシップの鬼でね、膨大な秘密の情報網を持ってるから、「ジュ
ウオウ」の正体なんかも教えてくれるかも知れない。ついでにアメリカの問題のおばけ
会社、「テキサス・ベンチャーズ」社の事も教えてもらおう。」
「信用出来る人物なのか?」森田は不安そうな表情をしている。
「本当のハッカー仲間は、みんな信用出来る人たちだ。お互いの気心も知れ合っている
しね。裏切りが起こりそうな時でも、お互いの弱味を握っているから安心だ」
「そう言うもんか。」
「そうだよ。「KIM」さんだって、実はCIAのスパイなんだぜ。」
「まったく!何処からそんなデータを拾って来るんだか……」
「でも……。仲間と言うよりは、秘密結社の一員と言ったところか。こっちが困った時
は助けてもらうけど、そのかわり相手が困っているときは全力でサポートするんだ。」
「じゃあ「KIM」さんには恩を売ってあるってわけか?」
「まっ、そう言う事だ」
香港に向かう道はそう渋滞もせず、スムーズに流れて行った。前方には日本航空の巨大
なエア・バスが見える。しばらくして、100万ドルの夜景が彼らの眼下に見えてきた。中国領土となった今でも繁栄の続く大都市、香港である。
「きれいね。」斉藤祥子はぼそりとつぶやいた。後ろの席では森田と本多智代がいびき
をかいて寝ている。
「電気の無駄使いだよ、あんなの」本多昭は言った。「さて、「KIM」さんの家まで
行くぞ。パスポートの用意はいいかい?」
「ハイ、出来てますよ。」
4人を乗せた車は税関を抜け、香港市街に紛れて行った。
(続く)