#1548/3137 空中分解2
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お題>大型電気小説「レモンの皮をめくると海が見えた」 ゐんば
★内容
一八世紀も世紀末ともなると、怪しげな奴が増えてくる。ここフィレンツェも
例外ではない。
「見ろ。この広大なレモン畑。これがみんな、俺たちの宝を産み出すのだ」
ヤサブロー・スギノモリーニは一面に広がるレモン畑を見おろしてさっきから
高笑いをしている。キサブロー・マツモッティは草むらにしゃがみこんで答えた。
「はあ。でもおら、こんなにいっぱいレモンもらってもしょうがねえ。実験用に
一篭あればええだ」
からからと笑いながらヤサブローはキサブローの背中を叩いた。
「馬鹿をいえ。せっかくの大発見、大儲けのチャンスじゃないか」
「はあ、でも、」
「俺は有り金はたいてこれだけのレモン畑を買い占めたんだぜ、な?そのために
天才科学者と天才実業家が手を組んだんだから」
地中海の日差しを受けて黄色く輝くレモン。
「これだけのレモン、発酵させて酒蔵にしまえば上質の電気がとれるぜ」
「発酵させるでねだ。銅と亜鉛の板をレモンの実に突っ込むだ」
「そうだったそうだった、わりぃわりぃ。しっかしわからねえもんだな。普段な
にげなく食ってるレモンに、そんな力が潜んでるとはな」
「んだ。おらも驚いただ」
「電気ってあれだろ、雷がなって凧上げて髪の毛が逆立ってビリビリビリ」
「まあ、そんなもんだ」
「しかしなんだな」
ヤサブローはキサブローの隣に腰を降ろした。
「電気って、何の役に立つんだろうな」
キサブローはあきれかえってヤサブローの顔を見た。
「おめえさん、そんなことも知らんでこのレモン畑丸ごと買ったんか」
「まあな」
「はれーえらく気の早え方だ」
「何の役に立つんだい」
「いや」
キサブローは草むらをかきまわす。
「実を言うと、おらも何の役に立つかなんて考えたこともないだ」
「お前さんも変なやつだな。何の役にも立たんもんを作ったってしょうがないじ
ゃないか」
「いや」
雑草をひっこぬいて、曲げたり伸ばしたりしながらキサブローは答えた。
「役に立つとかそういうんでなくて、その、そういう身の回りのことの仕組みっ
つーか、そういうのを調べるのが楽しいだ」
「そんなもんかね」
「おめえさんこそ、こんな役に立つかどうかもわからんもんにどえらい金使って、
何が楽しいだ」
「馬鹿だね、役に立つかどうかわからないから金使うんだよ。考えてもみろ。役
に立つとわかってるものなら、みんなが手を出すから、ちっとも儲かりゃしねえ。
今のうちから手をつけていれば、そのときになって他の奴らを出し抜いて一気に
儲かるって寸法よ」
「んなもんかねえ」
雑草を投げ捨ててキサブローはごろりと寝ころんだ。
「まあ、いまに見てなって。俺の勘だけどな、この電気ってやつは将来どえらい
もんになるぜきっと。そんときになりゃ、スギノモリーニ商会のレモン電気が世
界中で使われるようになるんだ。もちろんそのときは、お前さんの名も七つの海
を越えて世界中に鳴り響く。レモン電気の発見者、キサブロー・マツモッティの
名がな」
「んだかぁ……」
風にレモンの実が揺れている。
キサブローが発見した通り、レモンに銅と亜鉛の板を差し込むと約〇.九ボル
トの電圧が発生する。もちろん、この当時 「ボルト」という単位はまだない。
「ボルト」という名は、二種類の金属を電気を通しやすい液体に接触させると電
気が起きることを発見し、一八〇〇年、銅と亜鉛と食塩水を用いて世界で初めて
電池を発明したアレッサンドロ・ボルタの名にちなんでいる。
[完]