#1546/3137 空中分解2
★タイトル (AJC ) 92/ 3/28 2:52 (160)
春色スランプ −下− 木村ガラン
★内容
、やめて。そうじゃそうじゃ、芸術が分かるらん俗物め。まったくああいうのがいるから芸術がダメになるんだ。全くなにーなにも分かっとらんのだ。あんたわ。え。あんたはなにか分かっているの。しっ、しっ、失敬な。あたしはこれでも神様じゃぞ。ああ、あんたが神様だったか。いいや、儂じゃ、儂が神様じゃ。コラ。お前、嘘をつくんじゃない。いゃあああ、騙されるな皆の周。僕ちんが本物ですたい。誰。誰。誰。誰でもいいから、みんなやめて。ちょっと私の話を聞いて。おお、泣いてる。泣いてる美少女だ。聞こう聞こう。ああ。儂も聞くぞよ。あたしは聞かないもん。ふん、黙ってなよ親父。やめて男じゃないわ。やめなされ。やめなされ。彼女の話を聞こうではありませんか。ええ、そうしましょう。ヒソヒソヒソ。水をささずに傘をさすというのはすばらしい言葉だわ、究極のジョークだと思うの。そうじゃそうじゃ。だから、笑わなくちゃいけないと思うのよ。ええ、なんとお。原点に帰らなくてはいけないわ。笑いを喚起せしめるために発せられた言葉なのよ。私たちは原点に帰って笑うべきだと思うのよ。おおお。あああ。いいい。ううう。えええ。なんということだ。儂たちは間違っていた。そうだ。一番の本質に気が付かなかったとは。うほほほーい。黙っとれ。そうでしたわ。笑いましょう。おう、笑おう。笑おう。なんということだ俺は間違っていた。お嬢さん、ありがとう。俺は目が覚めたよ。一番大切なことを忘れていたよ。目から鱗が落ちたよ。落ちるかーい。黙ってて。ジョークとして発せられた言葉を真摯に我々が浮け止めるならば、我々が取るべき行動は一つだけだ。それは笑うことだ。そのとーりー。意義なーし。どんなによく笑えるか、また笑ったかでその価値は決まるのであったああ。おおお。ありがとう涙を流す美少女よ。君の身を挺した活躍で我々は救われたあああ。さあ笑おうじゃないか。じゃあ、すいませんがもう一度始めっからお願いします。はい、わかりました。
では、
春が来た。春が来た。うれしいな。花水ズルズルの春が来た。最高だ。
私は花粉症だ。だから、私は春が嫌いだ。嫌いだ嫌いなのだあー、だがしかし、だがしかし、だがしかしの、
違います。
えへ?
戻りすぎだじょーん。どちらの言葉ですか。行きすぎだじょーん。
ジョークを発するところからじゃ。そうだよ、そうだよ。という賛同の声幾千万人分。大地を揺るがすダラン君への非難の言葉だ。
はーい、すいませんでしたあー。
分かればいいんです。そうだあ、そうだあ。大迫力の「そうだあ」がこの世界中にこだまする。
え、この世界。この世界はどの世界なんだい。ここはどこ、わたしはだれ。だれは。どこ、そこはここ、なんだあー、君は・・・じゃないか。え、誰。・・・に当てはまる言葉なんかあるの。あるさ。ないよ。そうかあ、みんな僕の失敗を許してくれるんだね。ありがとう。ありがとう。泣けてくるなあ。
「泣くんじゃないよ」とマリリンが言った。うーん、マリリン。そして、数えきれない大群衆が声を揃えての「泣くんじゃないよ」の超サラウンド。
いやー、元気がでるなあ。そして、ダランくん。涙を拭いた。その涙は花粉症の涙だったけど、みんなには秘密だよ。
「おお、ダラン君、涙を拭いたぞおおお」の大合唱。
ダラン君顔をあげて笑ってみせた。
「おお、ダラン君、笑ってみせたぞおおお」
ダラン君みんなに向かって軽く手を降った。
「おお、ダラン君、軽く手を降ったぞおおお」
ダラン君鼻の頭を掻いた。
「おお、ダラン君、鼻の頭を掻いたぞおおお」
さあ、今度はダラン君何をするんだろうか、見逃すまいと固唾を飲んで彼を見守る人々。
ダラン君ポケットからテッシュペーパーを取りだした。
「おお、ダラン君、ポケットからテッシュペーパーを取りだしたぞおおお」
今度は少し長い文だったのによく言えましたね。みんなえらい、えらい。
ダラン君それを鼻にあてがいました。
「おお、ダラン君、それを鼻にあてがったぞおおお」
ああ、次にダラン君は何をするんだろう。ああ、楽しみだなあ、ワクワク。ワクワク、数千万人の「ワクワク」。それはすべてダラン君に向けられているのだ。
ダラン君目をつむって勢いよく鼻をかみました。
「ブビビビーン」と大きな音がしました。
群衆はその音に驚きました。ですが、やっぱりその音を模倣しました。
「ブビビビーンンンン」
それはこれまで誰も聞いたことのないほどの大きな鼻をかむ音となりました。
ダラン君は鼻を噛むと群衆を見渡しました。群衆はさっきの音の驚愕がまだ尾を引いています。ダラン君はおもむろに手にしたテッシュペーパーを開いて中をしみじみと見ました。
「うーん、たくさん出たなあ。プヨプヨしているなあ」
群衆は恐れながらも反復しました。
「うーん、たくさん出たなあ、プヨプヨしているなあ」
ダラン君はテッシュに溢れんばかりに満たされた鼻水に人差し指を漬けました。そして、粘性が高い鼻水の一部を掬い取りました。そして、その指はダラン君の口に何気なく入れられました。
「しょっぱいなあ」
群衆の間にざわめきが起こりました。ですが、反復せざるを得ませんでした。
「しょっぱいなああああ」
ダラン君口の中でその芳醇な味を転がしてから群衆に向かって両手を突き出しました。そして、おもむろにテッシュペーパーを開いて見せました。斜めにしたものですからテッシュペーパーから鼻水の一部がニュルーンとしたたり落ちました。それは地面に到達するまでひどく時間がかかりました。
「どうだい、いっぱい出ただろう」
とダラン君は言いました。
「どうだい、いっぱい出ただろううう」
おしまい。
え、オチは、オチはないの。
はい、ございません。
なんだとおおおお、オチがないだとおおお。おうとも、おうとも、オチなんかあるかい。てやんでぇ、こちとらええとこの子やでえ。違います。それを言うなら、てやんでえ、こちとら江戸っ子でぇ。あ、なんか、しらけてる。ですな。ははあ、なるほど、そういえば関西弁になっておしたなあ。吉本ですかあ、よろしいでんなあ。それから僕らは大笑い。さっきと同じパターンになってしまっていますよ。ええ、なんですって。えーと、ああ、ほんとだ。花粉症のない国くんに聞いてみましょうか。しらけはじめているぞ、もうだめかな。
え、僕ですかあ
そう言って男が振り返った。なるほど。こいつがそうか。
まっこと天晴じゃ、うい奴じゃ
あー、どうも、と男は言った。
うい奴じゃ、
うい、うい。
だー、だー。
つまらないよ。
あ、あ、あ、なんだあ、あ、あ。
助けてください。誰か、助けてください。
「まかしんしゃーい」の声と供に現われる群衆。出番を今か今かと待っていた彼らに任せとけば安心だな。なんだかなあ。
はーい、はーい、はいはい。 ああ、やっぱり。
まあ、まあ、いいです。戻りましょう。
やめて、意味のない雑音を入れるのは。そうだ、そうだ、みんな和やかに笑っているのに水を注すんじゃない。ささない、ささないって。さすのは傘です。
さあ、どうぞ。みなさん出番ですよ。
うえーん、あーん。ひーん。びえーん。
泣くんじゃないのです。笑うのです。
ははははは、ほほほほほ、くくくくくく。
なんかしらけましたなあ。まあよしとしましょう。
うん、その通りですな。びえーん、そうです。鼻炎なのです。
明日は全国的に快晴でしょう。春の天気予報は恐ろしい。雨よ降れ、雨よ降れ。
うーん、しらけたムードが拭えないですね。
じゃあ、やめましょう。
終