#1543/3137 空中分解2
★タイトル (AJC ) 92/ 3/28 2:30 (200)
春色スランプ −上− 木村ガラン
★内容
春が来た。春が来た。うれしいな。鼻水ズルズルの春が来た。最高だ。
私は花粉症だ。だから、私は春が嫌いだ。嫌いだ。嫌いなのだあー。だが、しかし、だが、しかし、だが、しかしの、
イエー、イエー、イエー。はくしょん、はくしょん、はくしょん。花粉がくる。花粉がくる。花粉が森からやってくる。切り倒せ。切り倒せ。杉の木なんかなくてもいい。いらない。迷惑迷惑迷惑だ。はくしょはくしょはくしよーん。
マスクなんか気休めだ。効果はないよ。薬も効かないんだ。いろんなのを飲んでみたけどどれも効果なかった。だから、唯一の解決策は春のない国に逃げることだ。さあ、出発だよ。ダラン君。
「花粉症をモチーフにしたお話し作りに失敗」
という題でまとめてしまえ。
カフンショウハハナミズダケデハナイ。オイラノカワイイオメメダッテヒドイモンサ。カユイカユイカユインダ。オイラノオメメガカユインダ。
カタカナである必要性わ。違う。カタカナである必要性は。
こすっちゃ駄目だ。こすっちゃ駄目だ。こすっちゃ駄目なんだ。ああ、でもでも、とってもかゆいんだぜ。我慢するんだ。我慢できないーい。我慢するんだぁー。我慢できないーい。ああ、こすってしまった。こすってしまった。こすってしまった
だらんだらん。うん、おれ、おれのなまえなのか。そうさ、かゆいんだろう。そうだよ。たすけてくれ。たすけてやろう。
はらがなである必要性は。はらじゃない。ひらだ。ひらがなである必要性は。
ほひー、気持ちよかー。ほひー。口をポカンと開けて狂ったような勢いで目をこするダラン。大丈夫か、ダラン。痒さのあまり狂ったのではないのかい。
花粉症に悩む小説家の固山ガンタは、深いスランプに落ち込んでいる。冬が終わって から、彼は一行も書けないのである。うーん、困った。締め切りも近い、よーし、もう 破れかぶれだ。何でもいいから升目を埋めてしまえばいいだろう。何でもいいから書き 出してしまえ。えーと、ハラハラしてやれ、原っぱにでも行くがいい、
ハラハラハラしながら原っぱを行く。春のそよかぜが花粉を運んでくるのさ。頑張れ一千万の花粉症患者たちよ。みんなで鼻水を塗りたくりあおう。ドラムカン。なんだね中身は、はい、鼻水です。ほお、はなみず。ははあ、花の水、花の蜜、つまり、蜂蜜のことだね。どれどれ、ほほー、いっぱいたまったねえ。ええ、これで僕の村もだいじょうぶです。めでたしめでたし。都庁に運べ。日通で運べ。いちょう作戦だ。違うな。都庁を鼻水で満たせ。いっぱいになった中身の圧力で窓は弾け飛ぶだろう。鼻水はたくさんの筋になって落下し、日光を鈍く反射するのだ。粘性の高い液体は逃げ惑う人びとの上に落ちていく。どこにも隠れるとこなんてないのさ。けっけっけっ。
さあ、君も遠慮するなよ。縁起物なんだから。口を開けて。さあ上を向いて口を開けなよ。
うーん、つまらないぞ、やめようかな、いやいや、いかん、締切が迫っているのだ。 何でもいいから書き続けよう。その内おもしろくなるかもしれないしな。ならないかも しれないけど、いやいや、だいじょうぶ。ドントウォーリーを探すんだ。うんうん、調 子が出てきたかな。
僕らは中央公園の噴水のところでそれを眺めよう。噴水はいつのまには涙になっている。これは花粉症のみんなが流した痒い痒い涙だから、触ってはいけない。かぶれてしまうよ。やあ、坊や、よくきたね、喉が渇いているのかい。かわいそうに、お兄さんがいいものあげよう。ダランはコップに噴水の水を満たして少年に渡す。さあ、お飲み、おいしいから。さあ、さあ。ゴックン、ゴックンゴックン。うはははははは。
御免なさい。御免なさい。みんな花粉症が悪いんです。僕は病気なんです。
何を言っているんだい、君は。そんな弱気なことじゃエイズになるよ。そんな事言っているとエイズになるよ。まさかあ。いいや、君はエイズになる。花粉症の人はマスクをするだろう。ええ。マスクのガーゼが血液製剤でできていることが判明したのだよ。うははーい。僕は踏んだり蹴ったりだーい。偉いんですね、あなた。尊敬しちゃうなあ。どはははは、儂は偉いんじゃぞお。知らないことは何もないんじゃ。僕らはみんなエイズなんですね。そうじゃ、花粉症、すなわちエイズなのじゃ。いやー、勉強になるなあ。どうもありがとう。
違う、ここには確かに春がない国のようだけど。駄目だ。余計なものが多すぎるよ。
とダランが呟いている。すると君は辿り着けたんだね。だけど、そこは何処だい。そして、ここは何処かな。
「よんだかね」
と言いながら、変な人が現われた。
「呼んでません、呼んでません。帰ってください」
「そうかね、だれか儂を呼んだような気がしたんだがなあ」
そして、セーラー服を着て髪をおかっぱできれいに切りそろえた男は去っていった。その後ろ姿には未練がにじんでいる。とんでもない、もういらない。こんな鼻削ぎ落としてしまえ。
おお、グッドアイデア。なぜそれに今まで気が付かなかったのかなあ、ははは。灯台下暗しというやつだな。いいぞ。いいぞ。さっそく削ぎ落とそう。
「ええー、僕ですかあー」
「あなたです」
「いやですよ、そんな事。あなたが思いついたんですから、自分ですればいいでしょうが」
何でもいいさ、ナンセンスなんだから何でもいいじゃん。なにやってもいいよ。問題なし。つまらなくたって花粉症のせいにしちゃえばいいって。分かりゃあしないよ。すべての説明はスランプで片付けてしまえ。
「何を言っているのですか、あなた。もし失敗したらどうするのですか」
「え、なんですって、それなら余計お断わりですよ」
「分からない人ですねえ、あなたは、いいですか、よく聞いてくださいよ」
「はい、聞きましょう」
「私が『鼻を削ぎ落としてサッパリ計画』を考えました」
「そうですね」
「あなたは何もしていませんね」
「関係ないですから」
「何を言うのですかあなたは。あなたは、関係大有りですよ」
「ないですよ」
「ああ、なんていうことをおっしゃるのですか。あなたも花粉症で苦しくでいる同志ではありませんか」
「ええ、花粉症です。苦しんでいます。ですが、それが私の鼻を削ぎ落とす理由になりますか」
「なります。私がアイデアを出しました。次はあなたの番でしょうが」
「何の順番ですか。いい加減にしなさいよ。あなた、私は忙しいんですよ」
「何を言うのです、いい加減にするのはあなたの方でしょうが、私だって忙しいんですよ。人に時間をとらしておいてなんていう言い草だ」
「ななな、何を言うのですか、それは私の台詞だ」
「馬鹿もん、台詞、台詞とはなんだ。あんたはいつも喋ることの台本かなんかを持っているのか、あーん、あーん」
「そんなものあるわけないでしょうが。いいかげ、いいかげ、いいかげ、んにしなさいよ」
「どうした。うん、吃、吃、吃、吃ったりして。あん。俺、俺、俺もだ」
「どうし、どうし、どうし、」
「わけ、わけ、わけ、わけ」
「ど、ど、ど、ど、」
「わ、わ、わ、わ、」
はい、お答えしましょう。
神様が壊れました。神様が発狂しました。
ですが、神様はまだ、自分が壊れている事に気付いていないようです。
と、ここまで書いて北本がららは筆を投げ捨てた。
「つまらないぞー、固山ガンタなんてキャラクターは陳腐以外の何物でもない。こんな のでたらめだ」
「いいよ、いいよ、人前でだって鼻をかみなよ」
「だから花粉症っていやなんだよ」
「いいって、病気なんだから」
「そうだよな、おいらは病人だ、ぶびびびーん」
ははは、ぶびびびーん、ぶびびびーん。
だが、しかし、だが、しかし、ほほほほほ。
と、ここまで書いて土橋どろろは筆を投げ捨てた。
「うーん、つまらない、北本がららという人間が少しも描けていない」
痒いなあ。目玉を抉り出したいなあ。
「出しなさい」ゴッホが血塗れのナイフを右手に持って現われた。「目玉を抉り出しなさい」そして、左手にはどす黒く変色した耳を持っている。
「いや、いいんです。いいんです。そう思っただけで、本当にそうしようとは思っていないのです」
「そうかあ、このナイフよく切れるんだがなあ」
「いいんですってばあ、早く帰ってください」
「ああ、そうするかなあ」
そして、ゴッホは帰っていった。名残惜しそうに何度も振り返りながら帰っていった。
うーん、やっぱりつまらない。そうだ、お土産をもらってみようかな。
「いいですんってばあ、早く帰ってください」
「ああ、帰えるとするかな」
「ええ、ええ、さようなら」
「あっ、そうじゃ、これをやろう。お土産じゃ」
そして、ゴッホは左手に握った耳をぶっきらぼうに差し出した。その行動は唐突だったので、思わずどろろはそれを受け取ってしまった。
「大事にしろや」
そして、ゴッホは帰っていった。
どろろはゴッホの耳を手に茫然とその後ろ姿を見守った。耳の重さを確かめるようにその手を上下させたりしていた。
うーん、ダメだ、やっぱりつまらない、はっ、はっ、はくしょーん。
「スランプについて、花粉症によるアプローチ」という本を見付けたよ。
と、登場人物に言わせるんじゃない。
嘘だ。そんな本なんかありはしない。嘘をつくんじゃない。嘘はいかんぞ。
まったくです。こんなものはでたらめだ。馬鹿馬鹿しいだけだ。
はい、お答えしましょう。花粉症のせいです。花粉症は頭痛も引き起こすのです。松本くんの話しによりますと
聞いてみましょう
「ああ、花粉症。ああ、あれね。あれは辛いんだよ。なんつうのかなー、頭がね、頭がボーとなっちゃうんだよね」
なるほど、ボーとなりますか。なるほど、なるほど。
「まかせて、バリバリよ」
はい、お任せします。
おい、お前は誰と会話をしているんだ。
「儂じゃよ。儂、神様じゃよ」
「あなたは、神様でしたか」
「いかにも、いかにも、儂が神様じゃ」
「なるほど、神様はこんなところにいらしたんですね」
「そうじゃ、儂はここにいらしたのだよ」
「どうりで、いくら空を見上げても見つからなかったわけですねえ」
どうした。「・・・・、・・・・・」の形式には何か意味があるのか。
「偶然ですってば」