#1438/3137 空中分解2
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「人材育成計画」 遊遊遊遊
★内容
社長室に人事部長が呼び付けられた。 実力社長が怒鳴りつけている。
「支店から、過労死が出たって? 社員にそんな口をきかしていいのか・・
キミは人事部長として何をしてたんだっ」
「ハイッ」
「はいではないっ。 何をやっていた奴だ?」
「総務と庶務と厚生と経理と入出荷管理をやらせていました」
「なんだ一円も稼がん奴か」
「毎晩、12時まで残業していたようで・・・」
「残業手当をたっぷり稼いでいたわけだな」
「一応、管理職にしてありますので、残業手当はつきませんが・・・」
「管理職なら当たり前だっ。 残業手当をあてにするような奴に、ろくな人
間はおらん」
「休みも取れなかったようで・・・」
「やかましいっ! わしも休みなどは取っておらん。 キミは奴をかばって
いるのか? 甘いっ! 軽薄な世間の風潮に乗って過労死だなんて言いやが
って、そんなヤワなことではダメダッ! 会社の発展に全力を出し切るのは
社員の義務である。 すべてを社業に打ち込む、それは当然のことだ。うち
の社員は新人の内から、鋼鉄のように鍛え上げろ」
「でも・・・最近の若者は宇宙人のようでして、まるで反応がありません。
少し厳しく言うと、すぐ、会社を辞めていってしまいますんで・・・」
「言い訳は聞かん。 宇宙人だろうが何だろうが、立派な社員に鍛え上げる
んだ。 知恵をだせっ、いいなっ!」
「ハイッ、来年度入社の新人教育計画を、至急つくってお持ちします」
「計画なんぞは持ってこんでもいいっ! 会社のために一生懸命に働く人間
にすれば、それでいいんだ。 すべてキミに任せるぞ。 いいなっ!」
「ハイッ」
その夜、人事部長は過労死支店へ飛んだ。 人事部長と支店長と次長は深
夜から打ち合せに入った。 社長の命令は絶対なのだ。 実力社長は作文で
は誤魔化せない。即刻、結果を出さなければならないのだ。徹夜になった。
3人は新人教育計画を練り上げた。 過労死社員の遺族のことは、3人の
頭にはなかった。
梅が開花して街にも春が近付いた。 豪華ホテルの「内定者懇談会」に支
店採用の40人の男女の学生が集められた。 入社の心得など形式的な説明
の後は、無礼講の飲み放題、食い放題でそのホテルに一泊できるとあって、
学生たちは嬉々としてやってきた。
全員がチェックインして、宴会が始まった。 本社からやってきた人事部
長の挨拶はソフトだった。 「企業戦士」になれなどとは、一言も言わず、
固い話は一切抜きだった。 学生たちはリラックスして、タダ酒を飲み、好
き勝手に宴を楽しんでいる。
まだ、夜更けでもないのに、「眠むたい」といって、一人が自分の部屋に
帰っていった。 俺も、私もと部屋に戻ろうとしたが、からだが動かなかっ
た。 みんな、その場に倒れこんでうつろな目をしている。 眠り薬がきき
はじめたようだ。 白衣の男たちが出てきて、学生たちを別室へ運び込み始
めた。 人事部長らの「人材育成計画」が着実に実行にされ始めた。
男子学生たちは、これから去勢手術を受けることになっている。
1992−02−01 遊遊遊遊(名古屋)