AWC 流浪の旅人【上】   Farlia


        
#1421/3137 空中分解2
★タイトル (GCG     )  92/ 1/29  13:19  (173)
流浪の旅人【上】   Farlia
★内容


 強い太陽の光が容赦なくラークの体を照りつける。
 ラークの額からは、一筋の汗が流れ落ちてゆくのが見てとれる。
 俺は手で汗を拭いさると、眩しそうに太陽を見返してやる。
 「今日も一日、暑くなりそうだ・・・」
 けっして愚痴を言っているのではないのだ。むしろこの暑さが、俺には
心地良いくらいに感じられる。それくらいの壮快感がある暑さなのだ。
 「今日もガンバッテくれよな!」
 ラークは唯一の旅の共である、馬の体をポンと軽くたたいてやる。
 それに反応するかのように、馬はいなないてみせるのだ。こいつは俺が
旅を始めたころからの付き合いになる。もうかなりの年寄りであるはずな
のだが、歳をまったくといって良いほど感じさせない。若々しく力に満ち
た太い足腰に銀のたてがみ、均整のとれた顔つき、どれを取ってもそんじ
ょそこらに居る馬とは格が違う。俺にはもったいない位の馬だと心底思う。
 「はっ」
 声を弾ませ、馬に軽やかに飛び乗ると、ラークは照りつける太陽を背に、
旅を続けることにした。
 「さぁ行こうか!旅はまだ始まったばかりだ」
 自分に言い聞かせるような大きな声が、荒野いっぱいに広がっていった。


 どこまでも、果てしない荒野が続いていた。
 (どれくらい時間が経っただろう。太陽の位置から考えると、昼くらい
か。それにこの匂い、音・・・近くに水がある。ちょうどいいな)
 「よし、休憩にするか」
 馬を止め飛降りると、ラークは馬の手綱を引きながら水辺へと急いだ。
 そこには小さいながらも、立派な泉が存在していた。泉は静かに揺らめ
き、水面には太陽の光が乱反射している。吹き付ける風が、心地良い。
 「荒野の中の、小さなオアシスってところか」
 素直な感想だ。
 乾燥しきった荒野の中で、この泉の周辺だけは、草も木も生き生きとし
ているし、ここでは生命の息吹が、体全体で感じ取ることが出来る。これ
だけでも、俺が今まで見てきた泉の中で最高の部類に入るだろう。
 「まだまだ、この大地もすてたもんじゃないという事か・・」
 今までの、死んでしまっているような荒れた大地から見れば、ここを別
世界のように感じてしまってもしかたがないであろうと思う。
 ラークは馬に水を飲ませてやり、自分でも飲み始める。
 澄んでいて、とても綺麗な水である。しかも非常に冷たい。
 「くぅ、うめぇ」
 体が急速に冷えていくのが感じられる。
 一息つき、ラークは適当な木陰に馬を連れて行くと、休憩を取ることに
した。馬に括りつけておいた荷物から食料を取り出すと、木にもたれかか
り座り込む。
 もちろん食料といってもたいしたものじゃない。長旅をする者の必需品
といわれる乾し肉とカンパンだけである。
 「ったく、毎日こんなもんばっかりじゃ、いい加減うんざりしてくるよ
なぁ・・・・」
 言ってみたものの、弁当携えて旅をする馬鹿者はこの世にはいるはずも
なく、旅人なら誰もが一度ならず考えることではないのだろうかとも思う
のではあるが・・・
 (まずいとは言わないが、せめてもう少しバリエーションは増えないも
のだろうか?)
 などと、ブツブツ独り言のような文句を並べながらも、食事だけはキチ
ンと取るのである。もっとも、食べなければ生きては行けないのだけど。
 しかし今重要な事は、食事のバリエーションが少ないということではな
く、他にあるという事も忘れてはいない。
 いくら飽きた・バリエーションが少ない、とはいってもそれは食糧があ
っての話であって、今現在の残りの食糧の量を考えれば贅沢はいえない。
 もちろん、それ以外でも当然の事なんだけど。
 取敢えずここでは水に不自由することはないにしても、これから後どれ
くらいで荒野を抜け出せるのか見当がつかないときているから事態は深刻
である。水はここで補充するからいいのだが、残りの食糧は、後もう幾日
ももたないだろう。
 このままでは餓死するか、干からびてミイラにでもなってしまうのがオ
チだ。もちろんそうなる前に、この荒野とはおさらばする予定ではある。
 まぁ予定は未定となる事も、ないわけでもないのだが・・・・
 「宿の親父さんの話じゃ、2・3日で抜け出せるはずだったのに・・・
もう4日目だぜ。道でも間違ったかなぁ」
 乾し肉をカジリながら、愚痴る。
 「まぁ深く考えても、事態は良い方向に向かうわけでもないし、今のう
ちにゆっくり休んで、それから・・だな」
 気楽な事を言っているようだが、今のところそれしか思い付かないのだ
からしかたがない。なるようになる、俺が今までそうして来たのだから多
分大丈夫だろう。
 それにここのところ、まともな睡眠をとっていなかったので、空腹が満
たされるのと同時に眠気も襲ってくる。幸いなことに、ここらへんには野
獣の類も生息はしてないらしく、仮眠をとるのにはうってつけという訳だ。
 ラークはゴロンと寝転ぶ。
 清々しい風が、ラークの体を吹き抜けてゆき、眠りへの世界へと誘う。
 ラークは、誘われるままに眠りにつくことにした。


 (・・・け・・て・・・・・たす・・けて・・)
 急速に意識が戻ってくる。誰かが俺の心の中に叫びかけ、助けを求めて
いるのだ。
 微かではあるが、たしかに聞こえた。ラークは瞼をゆっくり開けると、
ぼやけた目の焦点を合わせる。
 「だれだっ」
 辺りを見渡すが、それらしい声の主を確認する事が出来ない。
 (たす・・けて)
 女の子の声が、心の中に響く。切羽詰ったような声だ。
 身も軽く、跳ね起きると周囲に神経を集中させる。
 (どこだ、どこにいる・・・・・・そっちか!)
 ラークは馬に備え付けてある長剣を抜きさると、声のする方向へ駆けだ
していた。
 全速力で走っているにもかかわらず、息をきらすこともなくグングン走
ってゆく。どうやらラークは驚異的な体力、持久力を兼ね揃えているらし
い。
 泉から少し離れ、荒野に入りかけたところで、少女がしきりに後ろを気
にしながら走っている姿を確認することが出来た。
 少女の後ろには、黒いマントに身を包んだ奴が追って来ている。一目見
ただけで、あやしいと分かる姿である。
 (あの子か、助けを求めたのは・・・・追われているらしいな、急がな
いと・・・)
 奴が少女に追い付くのも、時間の問題のようだ。
 ラークは剣を構えなおすと、猛スピードで荒野を駆け抜ける。
 「だれかぁぁぁ、助けてぇ」
 少女の悲鳴が聞こえてくる。今度は心にだけではなく、ちゃんと耳にも
入って来ている。それだけ、少女との距離が狭まったということであろう。
 奴が剣を抜きさり、横一閃に剣を振ると同時に、少女は倒れさる。
 「キャアアア」
 カスリ傷程度ですんだらしく、少女は肩を押さえながら懸命に後退る。
 しかしヤツは剣を少女の方へ差し向け、今にも切りかかろうとする素振
りをしている。どうやら、情けというものが欠如しているらしい。機械の
ような奴だ。このままでは、直ぐにでも少女は殺されてしまうだろう。
 (間に合うか)
 両手で剣を握りしめ、ラークは闘いの中へと身を踊らしていく。
 「まちやがれ!」
 叫ぶと、奴は一瞬こちらの方を見るが、直ぐに少女の方に向き直る。
 俺は少女に切りかかろうとしていた奴の脇につけると、上体を沈め、剣
を振り上げる。しかしラークの剣は空を切り、奴は後ろへと跳ねのく。
 その動きに合わせて、ラークは前方に跳び鋭い突きを入れる。
 しかしその突きさえも、マントを少し切りさくだけで傷を負わせる事は
出来なかった。
 (なんて奴だ・・・それにあの動き、闘う意志がないのか)
 不思議な事に、奴はラークに対しては攻撃をしようとはしない。
 受け一方になっているのだ。否、もしかしたら・・・・・
 と、雑念が過ったその一瞬をつき、ヤツは右の手のひらを俺に向ける。
 「ぐぅっ」
 衝撃が体を通り抜ける。体が宙に舞い、そのまま地面に叩きつけられる。
 体中の骨々が悲鳴を上げるほどの衝撃を体全体で受け止めたのだから、
普通の人間であれば、運が悪ければ死んでいるところだ。
 (魔術の類か・・・・しかし、こいつは少々こたえたな・・)
 目には見えないが、どうやら何かの呪術を俺の体にかけたらしい。
 「キャア」
 視線を少女の方に移すと、奴に胸倉を掴まれ、持ち上げられている少女
の姿が見てとれる。
 (完全に俺を、無視してやがるな・・)
 やろうと思えば第二第三の攻撃を与えることも出来たはずなのに、ラー
クには見向きもしない。奴は、端からラークなど相手にはしていなかった
のだ。少女を殺す、どうやらこれ一点に絞られているらしい。
 (しかしなぜ執拗なまでに、少女にこだわるのか・・・)
 これが一番の疑問である。しかし今は闘いの真っ最中、余計な事は考え
ない事だ。一瞬の油断が命取りになる事は、先程の事で体験済みである。
 ラークは立ち上がると、服の汚れを払い剣を握りなおす。
 もう一刻の猶予も無い。ヤツの持つ剣が今にも少女に襲いかかろうとす
るそのとき──────
 「やめろぉぉぉぉぉ!!!!」
 俺は叫ぶと、目を閉じ精神を集中させる。
 「聖剣ルシファラードの名にかけ、我自らの封印を解く」
 両手で剣を掲げ上げると、ラークは凄い勢いで宙に跳び上がる。既に人
の限界を越えているほどの、跳躍であろう。否、よく見てみるとラークは
背中に黄金に光輝く翼を従えて、空に舞い上がっていたのだ。自らの翼を
用いて。
 「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 叫び声とともに急降下をかけながら、ラークは剣を振り降ろす。
 爆音と共に大地は割れ、盛り上がる。そして奴は、ラークが振り降ろし
た剣により、切り裂かれていた。
 「グッギャァァァァ」
 絶叫をあげ、ヤツは砂と化した。
 「こいつ・・・泥人形(デク)か」
 泥人形は、術師によって作り出される。失われた魔術の1つであり、既
にこの世には存在していないはずなのだが・・・・
 (まだこの術を使う者が存在しているという事か・・・)
 俺は砂となった泥人形に一瞥をくれると、少女を抱きあげる。
 少女はグッタリしてはいるものの、どうやら気絶しているだけのようで
ある。怪我といえば、肩に浅い切り傷があるのと、所々に擦り傷があるく
らいだ。しかし、浅いといってもこのままでは悪化してしまうだろう。こ
こでは、ほんの少しの事でさえ直ぐ死に繋がるのである。
 (とにかく、一端あの泉まで戻ってから、この子の治療をすることにし
よう)
 ラークは少女を抱えると、この場から立ち去った。




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