AWC 実録・コンサ−トの女(3)            ポロリ


        
#1419/3137 空中分解2
★タイトル (JUF     )  92/ 1/28  15:19  ( 50)
実録・コンサ−トの女(3)            ポロリ
★内容

悪い癖

 11月の木枯らしが吹きすさむ日、俺はコンサ−トに出掛けた。花の金曜日というこ
ともあって、なんとか定時で退社することができた。場所は東京の池袋の1年前にでき
たばかりの「東京芸術劇場」だった。昔、「武道館」には何度か足を運んだことがあっ
たが、「東京芸術劇場」は別格であった。
 エスカレ−トで3Fに上がると、すぐフロントがあり、手荷物、コ−ト類を預かって
くれる。「武道館」なんかはフロントなんかないし、荷物なんか預かってくれない。い
や、逆に「カメラ」を没収された経験すらある。
 各入口には「案内嬢」がおり、チケットを見せると席を案内してくれる。なんか今日
は上流階級に自分がなったかのような錯覚を覚えた。まして「S席」の優越感はいいも
のだと思った。けっこう、年配の人でも普通の席の人が多い。

 案内嬢に席を教えてもらい、俺はS席中間位の席に腰を降ろした。開演までに10分
位の間があった。とりあえず、自分とはまったく別の世界にすんでいるお嬢品な紳士、
淑女を観察した。すると、けっこう芸能人が多い。評論家の先生や、歌舞伎役者、音楽
家、TVのアナウンサ−とひととおりの有名人が俺と同じ、S席か特別席にいた。
 演奏が始まった。でも、俺には「モ−ツアルト」の音楽なんか全然わからなかった。
「バッハ」や、「ショパン」との違いくらいはわかるが、心わくわくするようなときめ
いた気持ちにはなれなかった。もし、「矢沢永吉」なら、全身で「ガッツ」なのだが..
 休憩の時間になった。時計は8時を少し回っていた。とりあえず、タバコをやりに
外へ出た。外(フロア・ラウンジ)で、タバコに火を灯した。やけにタバコの紫煙が
目にしみた。花の金曜日に独り淋しく、来たくもないクラシックコサ−トにきた自分
を思うと、よけい目にしみた。悲しい一服だった。まわりはみな、アベックが多いのに
自分は独りで−−−−。あ、そおいえば、かおりのもう1枚のチケットは売れなかった
のだろうか、俺の隣は空席であった。
 フロアの1部がティ−・ラウンジになっており、みんな「コ−ヒ−」や、「ワイン」
をやっていた。俺も後1時間もクラッシクを聞くのかと思うと、むしょうに飲みたくな
った。俺は女にワインを頼んだ。ワインが来るまでに、もう一服したくなり、ポケット
をまさぐっていると、「あっ」と、なんと俺は肘で後に立っていた女のワイングラスを
突いてしまったらしい。俺は慌てて、振り返り、
 「すいません。大丈夫ですか?」
 と、すぐにポケットから、ハンカチを出したが、まさか女性の体に触れるわけにもい
かないので、ハンカチを差し出し、これを使ってくださいとだけ言った。女は慌てて
ドレスをハンカチでしごいていた。白ワインだから目立ちはしないだろうが、染みに
なるかもしれない。クリ−ニング代出さなきゃなんないだろうな−と、考えていた。

 女が落ち着いたので、俺は切り出した。
 「本当にすいませんでした。私の不注意で−−−−、あの−、クリ−ニング代はいか
  ほど位−−−」
 と、俺は丁重に詫た。女はちょっと考えている様子だった。
 俺は胸ポケットに手を入れ、サイフを出し、
 「あ、私、こういう者です。」
 と名刺を差し出す振りをした。名刺は名刺入れにあったが、俺は名刺を女に出すほど
愚かではない。
 「すいません。ちょうど名刺が切れてしまって−−。あの後日連絡しますから、
  失礼ですが、電話番号教えて頂けないでしょうか?」
 と、俺の悪い癖が始まった。





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