AWC 超大型宗教小説 「懺悔の値打ちもないけれど」  あきちゃ


        
#1327/3137 空中分解2
★タイトル (SKM     )  91/12/12   7:33  ( 59)
超大型宗教小説 「懺悔の値打ちもないけれど」  あきちゃ
★内容

 この作品はAWCのSIGOPとして、手間暇を厭わず献身的に仕事をされている
 ゐんば氏に捧げます。

       懺悔の値打ちもないけれど         あきちゃ

 199*年12月25日の夜、聖コン・ツキタ教会では厳かにクリスマスのミサが
とり行われていた。あの忌まわしい核戦争のために、この町も壊滅的な被害を受けた
が、奇跡的にもこの教会は無傷で残っていた。
「ああ、神は偉大なり。世界は滅びてもこの教会は永遠に不滅です。来年こそ、きっ
と優勝します。ラクダの針は信ずる者に開かれるのです」
 神父の三喜本松朗は両手を広げた派手なジェスチャーで天井を仰いだまましばらく
自分の言葉に酔っていた。おそらく脳に障害を受けているのだろう、今夜の説教もま
ったく意味不明。
 しかし、教会に集まった人々は静まり返って神父の言葉に聞き入っていた。もっと
も、町の人口は極端に少なくなっているので、今夜ここに集まったのはおよそ3人。
 その中の一人、奈児手梅子はミサが終わっても席から立ち上がることが出来なかっ
た。
「神父さーん、ちょっと来てー。助けてよお」
 奈児手梅子は「おいでおいで」をして神父の三喜本松朗を自分のそばに招き寄せた
。
 三喜本松朗は演壇を重々しい足どりで降りると、ゆっくりと奈児手梅子に近づいて
、慈悲に満ちた笑顔を向けて言った。
「何か悩みごとでもおありかな?」
 苦痛で顔を歪めた奈児手梅子は自分の膝のあたりを指さしながら、言った。
「抜けないのよ。机がじゃまで」
 三喜本松朗が見ると、巨大に肥満した足が、固定された椅子と机の間にはさまって
いて、その重い尻を持ち上げても机がきしむだけで一向に足が抜けてこない。
 三喜本松朗は靴を脱いで、長椅子の上に乗り、奈児手梅子を抱き抱えるようにして
、引きずり出した。
「ふー、よかった。どうして教会の座席ってこうせまいのかしら。そうそう、悩みご
とがあるのよ。あたし、最近、心臓は苦しいし、糖尿病だし、膝に水は溜まるし、何
とか、ならないかしら、神様の力で…」
 奈児手梅子は三喜本松朗の顔をのぞき込んで言った。
 三喜本松朗は奈児手梅子の体をつま先から頭のてっぺんまで見渡して、言った。
「悔い改めなさい」
「クイアラタメル?クイ…タメル」
 奈児手梅子はしばらくその神父の言葉を口のなかで繰り返していたが、首を激しく
左右に降りながら言った。
「だめよ。あたしは、また戦争が始まって、食べ物がなくなるといけないと思って、
一生懸命喰い溜めしたら、こんなに太っちゃった。昨日のイブの夜だって、ケーキ丸
ごと一つと、七面鳥を一羽食べたばっかりなのよ。おいしかったけど、また、太っち
ゃったみたい」
 三喜本松朗は首をたてにゆっくりとふりながら、したり顔でまた言った。
「悔い改めなさい。神はあなたの味方です」
「クイアラタメルって言ったって…。ああ、そうか。『食い方を改める』ってことね
。食生活の改善って言ってくれればいいのに」
 三喜本松朗はにこやかに微笑んで言った。
「神は寛大です。ただただ悔い改めるのです。神は許してくださいます」
 奈児手梅子は神父の顔をじっと見ていたが、はたと思いついたように、表情が輝い
た。
「そうだったの。いえね、隣に住んでいる人がね、あたしの留守に家の中に入り込ん
で、食べ物を盗んでいくのよ。だから、あたしは、境界に杭をたてて鉄条網を張り巡
らしたんだけど、その杭がよく抜けちゃうんで、それを新しい物に替えろってことで
しょ?杭新ためるって」
 神父の三喜本松朗は穏やかな表情で言った。
「神はあなたと共にいます。悔い改めなさい」

                               『完』




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