#1317/3137 空中分解2
★タイトル (MEH ) 91/12/ 5 20:11 ( 52)
山本氏のホラ クリスチーネ郷田
★内容
私がとあるバーに行くと、いつものように山本氏が座ってウイスキーを飲んで
いるのが見えた。
彼の名は、山本ミュンヒハウゼンと言う。
変わった名前だ。ゲルマン民族の血が流れているらしいが、彼はどうみても日本
人としか思えない風貌だった。縄文時代から日本にいるんではないかと言う顔つ
きなのだが、ゲルマンの血が混ざっているとはおかしなものだ。
「文学の父」と近所の八百屋に言われている山本ミュンヒハウゼン氏は、こんな
事を私に語ってくれた。どうせいつものホラなんだろうけど、聞いていると暇潰
しになるので、私はとりあえず聞くことにした。山本氏はゆっくりと喋り出した。
そうだなあ、あれは、私がまだプルーストと蜜月関係だった時の事だ。
プルーストは、太り肉の可愛い女の子だった。
彼女と出会ったのは、あれは北極だったろうか。えっ?そうだよ。プルーストは
女だったんだ、最初はな。しかし、化学変化によって男になったと言うわけさ。
本当に昨日のように思い出すよ。
プルースト……。
どこをどうひっくりかえせば、あんなジジイになっちまうんだ!
ジジイに変身した時、私は舌を噛んで死のうかと思ったくらいさ。
ああ、なんてこったい。
プルーストは、くだらない作品を執筆している途中だった。確か、彼が『ほがら
かおじさん』と言うタイトルをつけたのを、私がわざわざ「そんなのじゃいけな
いよ」と指摘して『失われし時を求めて』にしたのだったっけ……。
今じゃあ懐かしい思い出、なんだけどね。
そう、はるか昔の話さ。昔は私も若かった。まだ正岡子規が元気だったんだよ。
そうそう。あの子規。あいつも早くに死んじまったよな。
彼が血を吐いた時、もうエイズは体を蝕んでいたんだよ……。そうだ。あれ、私
が感染のモトだったんだ。
えっ?正岡子規はエイズだぜ、知らなかった?ああそう、表向きはそうなってる
よね。ウン。
世間は知らないよ、そりゃあ。子規がホモだったなんてさ。
でも、あの一夜は忘れない。誰がなんと言おうとな。彼は無理やり私を押し倒し
て来たんだが、まあこんなことは今語るべき事じゃない。
嘘じゃないってば、これみんな本当なんだから。
ところで、来週の日曜日に野球大会があるんだ。君も参加しないか?
出場者が豪華だぞ。カフカ、サルトルも来るよ。それにボーヴォワールも来るぜ。
びっくりしちゃうだろ。
カミュ?あいつはダメだ、補欠だよ。まあやつもそのうちうまくなると思うけど
ね、スジが悪いよあいつは。
面白そうだろ。じゃあ是非来いよ。待ってるからさ。
それに、昔の恋人だったやつも……。プルーストも来るんだ……。
と言うわけで、私は来週の日曜日、草野球の試合に出ることになった。
その内結果を報告するかもしれないが、山本氏のホラかもしれないので確約は出
来ない。ところで、キヨの墓は小日向の養源寺にあったりして。
END