AWC ショート3作   星虹


        
#1300/3137 空中分解2
★タイトル (EQM     )  91/11/27  13: 0  ( 88)
ショート3作   星虹
★内容

<火葬場>

   僕は、いつものように駅への道を歩いていた。
   道行く人は、みな黙ったまま、ひたすら会社へいそいで
  いる。それぞれ、みんな最終目的地は違うのに、ある一点
  だけ、共通の目的地がある。駅……。
  「何をいそいでいるの?」
   僕は、そう叫びたい気持ちを抑えて、いつものように黙
  ったまま、駅に向かう。
   やがて、駅の様子がいっぷう変わっているのに気づく。
  「こりゃ、火葬場じゃねえか」
   まわりを見ると、誰ひとり人影が見えない。
  「そうか、僕は死ぬわけだな」
   僕は、黙って棺に横たわり、目を閉じる。棺の蓋が閉じ
  られ、暗黒の世界が広がる。
  「これは宇宙なのだ」
   やがて重油がかけられ、棺に火がつけられる。
  「どうだ。僕の真似をできる奴がいるか?」
   僕は大声で虚無の闇に向かって叫ぶ。
  「誰もできやしません…」
   と、答える声。
   僕は満足げにうなずいて、煙になった。
                       (了)

<稲妻>

   荒涼とした大地にたたずむ、汚れた服をまとった男。
   汚れた手を、一生懸命に脇の下でこする。やがて、男の
  頭髪が逆立ってくる。
   頃合をみはからって、男は腕を前方に突き出す。そのと
  たん、目もくらむような閃光がひらめき、男の指先から稲
  妻がほとばしる。稲妻は地をはい、ぎざぎざの閃光が静寂
  を突き破る。
  「俺の力を思い知ったか!」
   男の声がむなしく大地にしみこむ。
   男は青い海に向かって、稲妻をほとばしらせる。何度も
  何度も……。すべての生命は海から始まる。
   この地球上に生命が誕生し、あの活況ある世界を再建す
  ることだけを夢にみて、地球にただひとり残された男は、
  きょうも稲妻を走らせる。
                        (了)


<散歩>

   ウイスキーをひっかけて、眠りにおちたとき、僕は宇宙
  になっていた。ほろ酔い気分で、太陽系を散歩する。
   冥王星で、瞑想にふけるおじいさん。
  「こんばんは。今宵も夜空が綺麗ですね」
  「うるさい、せっかく一句できそうじゃったのに」
   それはそれは失礼しました。僕があんまり気分がいいも
  ので……。
   海王星の大海で、大物を釣ろうとしているおじさん。
  「ほらほら、あたりがきてますよ」
  「大きな世話だぜ、黙ってろ」
   虫のいどころ、悪いんですね。
   天王星で、ひとり勉強中の坊や。
  「こんばんわ。元気かい?」
  「ちょっと、黙っててくれない。あしたテストなんだから」
   いやはや、どうも。
   土星のわっかでスケートを楽しむカップル。
  「仲がよさそうですね。うらやましい」
  「……」そんな変な顔をしないで、お嬢さん。
  「ああいう変態、たまにいるんだよ。気にしないで滑ろうぜ」
   そんな言い方しなくたって。
   木星のキャンバスに、抽象画をかきこむ絵描きさん。
  「とっても雄大ですね」
  「ふん、おまえに何がわかる」
   おやまあ、機嫌が悪いんだ。
   火星で焚火をしているおばあさん。
  「あったかそうですね」
  「あたろうたって、そうはいかないよ」
   こうなりゃ、やけだ。
   金星でビーナスを口説いている色事師。
  「おんどりゃ、俺の宇宙でHをしてみろ、ただじゃおかないぜ」
  「くやしいか、べーろべろ」
   金髪のビーナスなんて、六本木でこと足りるぜ。
   水星で、おぼれそうになってるお兄さん。
  「助けてやってもいいんだぜ」
  「おまえに助けられるくらいなら、水星のもくずになってやる」
   じゃあね、さよなら。
   やっぱり、地球がいいんだ。口をあんぐりあけて、よだれを垂
  らして眠りこむお兄さん。お兄さんってば。
  「うるさいな。おまえ寝言いうんじゃないよ」
   そうか。やっぱり夢なのか。
   ずいぶんリアルな夢だった。
                         (了)



#1300/1300 連載
★タイトル (EQM08842)  91/11/27  13: 0  ( 88)
ショート3作   星虹
★内容

<火葬場>

   僕は、いつものように駅への道を歩いていた。
   道行く人は、みな黙ったまま、ひたすら会社へいそいで
  いる。それぞれ、みんな最終目的地は違うのに、ある一点
  だけ、共通の目的地がある。駅……。
  「何をいそいでいるの?」
   僕は、そう叫びたい気持ちを抑えて、いつものように黙
  ったまま、駅に向かう。
   やがて、駅の様子がいっぷう変わっているのに気づく。
  「こりゃ、火葬場じゃねえか」
   まわりを見ると、誰ひとり人影が見えない。
  「そうか、僕は死ぬわけだな」
   僕は、黙って棺に横たわり、目を閉じる。棺の蓋が閉じ
  られ、暗黒の世界が広がる。
  「これは宇宙なのだ」
   やがて重油がかけられ、棺に火がつけられる。
  「どうだ。僕の真似をできる奴がいるか?」
   僕は大声で虚無の闇に向かって叫ぶ。
  「誰もできやしません…」
   と、答える声。
   僕は満足げにうなずいて、煙になった。
                       (了)

<稲妻>

   荒涼とした大地にたたずむ、汚れた服をまとった男。
   汚れた手を、一生懸命に脇の下でこする。やがて、男の
  頭髪が逆立ってくる。
   頃合をみはからって、男は腕を前方に突き出す。そのと
  たん、目もくらむような閃光がひらめき、男の指先から稲
  妻がほとばしる。稲妻は地をはい、ぎざぎざの閃光が静寂
  を突き破る。
  「俺の力を思い知ったか!」
   男の声がむなしく大地にしみこむ。
   男は青い海に向かって、稲妻をほとばしらせる。何度も
  何度も……。すべての生命は海から始まる。
   この地球上に生命が誕生し、あの活況ある世界を再建す
  ることだけを夢にみて、地球にただひとり残された男は、
  きょうも稲妻を走らせる。
                        (了)


<散歩>

   ウイスキーをひっかけて、眠りにおちたとき、僕は宇宙
  になっていた。ほろ酔い気分で、太陽系を散歩する。
   冥王星で、瞑想にふけるおじいさん。
  「こんばんは。今宵も夜空が綺麗ですね」
  「うるさい、せっかく一句できそうじゃったのに」
   それはそれは失礼しました。僕があんまり気分がいいも
  ので……。
   海王星の大海で、大物を釣ろうとしているおじさん。
  「ほらほら、あたりがきてますよ」
  「大きな世話だぜ、黙ってろ」
   虫のいどころ、悪いんですね。
   天王星で、ひとり勉強中の坊や。
  「こんばんわ。元気かい?」
  「ちょっと、黙っててくれない。あしたテストなんだから」
   いやはや、どうも。
   土星のわっかでスケートを楽しむカップル。
  「仲がよさそうですね。うらやましい」
  「……」そんな変な顔をしないで、お嬢さん。
  「ああいう変態、たまにいるんだよ。気にしないで滑ろうぜ」
   そんな言い方しなくたって。
   木星のキャンバスに、抽象画をかきこむ絵描きさん。
  「とっても雄大ですね」
  「ふん、おまえに何がわかる」
   おやまあ、機嫌が悪いんだ。
   火星で焚火をしているおばあさん。
  「あったかそうですね」
  「あたろうたって、そうはいかないよ」
   こうなりゃ、やけだ。
   金星でビーナスを口説いている色事師。
  「おんどりゃ、俺の宇宙でHをしてみろ、ただじゃおかないぜ」
  「くやしいか、べーろべろ」
   金髪のビーナスなんて、六本木でこと足りるぜ。
   水星で、おぼれそうになってるお兄さん。
  「助けてやってもいいんだぜ」
  「おまえに助けられるくらいなら、水星のもくずになってやる」
   じゃあね、さよなら。
   やっぱり、地球がいいんだ。口をあんぐりあけて、よだれを垂
  らして眠りこむお兄さん。お兄さんってば。
  「うるさいな。おまえ寝言いうんじゃないよ」
   そうか。やっぱり夢なのか。
   ずいぶんリアルな夢だった。
                         (了)




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