#1291/3137 空中分解2
★タイトル (CWJ ) 91/11/23 18: 5 (152)
芸夢都市 −1− 作 うさぎ猫
★内容
やわらかい朝の光り。
あたしは服を着たまま、自分のベットに横たわっていた。
どうしたんだろ、頭が痛い。
時計を見て一瞬びっくりしたが、すぐに今日が日曜日である事を
思い出す。
「滝沢さん、システムクラックの者ですが、機械のメンテナンス
に伺いました」
インターホンが、まだ半分眠っている頭を揺さぶる。
「はい、いま出ます」
おそらく会社が雇ったのだろう。昨日、コンピュータウイルスの事
で、鈴木部長がかなり神経質になっていたから。
ドアを開ける。
そこには、グレーの作業服を着た3人の男性が立っていた。
NeoSystemLadyPart1
芸 夢 都 市
−1−
太平洋上、空母ニミッツ。
薄暗いCIC中央作戦指令室で、神経質そうにペルー産の葉巻をくわ
える艦長。
「だめです、FPU周りが完全にショートしてます」
まだ若いシステムが、悲痛な声で嘆く。
「ザブコンはどうなんだ」
艦長はじっと目線を据えたまま、低い声で聞く。
「同じです。YukikOsを使用しているマシンは、どれも申し
合わせたようにハングってます」
艦長、奥歯をかみしめる。
そんな時、僚艦からの入電。
「艦長、潜水艦らしきノイズをキャッチ。まっすぐこちらに向かっ
ています!」
副長がCICに飛び込みざま叫ぶ。
「魚雷発射用意。1級戦闘配置だ!」
艦内に反響するアラーム。
訓練ではない。本物の戦争が始まる。
コ器はすべて手動に切り替えろ。レーダもだ!」
艦のコンピュータは使用できない。
さすがにあせりの色を隠せなくなってきた艦長。
脇にセッティングしてあるインターカムを取り、艦橋へ通達する。
「輸送機以外の航空機をすべて出せ!敵は近いぞ!!」
「優子、お腹が空いただろう?」
隣の席で、宗方課代がまたやっている。
毎日、よく飽きないものね。
「優子、どうした?ご機嫌ななめだなぁ」
言ってもしょうがないのはわかっている。
わかってはいるが、言わずにおれない。
「課代!おしゃべりソフトにあたしの名前付けないでって言ったで
しょう!!」
そうなのだ。
ロス帰りの宗方課長代理、自分でプログラミングしたおしゃべりソフ
トに、なにが楽しいのか、あたしの名前を付けて遊んでいる。
今年、26才。未婚。
日焼けした褐色の肌とアメリカナイズな思考。
いる感じがするが、実は剣道と合気道の有段者だったり
する。
きっと、スーツの下は筋肉質なのだろう。
そんな宗方課代。不思議そうな目であたしをみている。
「だって、君の名前で覚えちゃったもの」
アメリカ人のように両手のひらを脇まであげて、首を左右に振る。
癖なのだろうか。妙に決まっていてカッコ良い。
「名前の登録データ書き換えればいいじゃないですか」
会社のシステムルームで、あたし、思わず大声を出してしまう。
ひぇ、注目されてしまうじゃないか。
でも、みんなはニコニコ笑顔を見せるだけで、冷やかしたりはしない。
なにが起ころうと、ここにはいつも穏やかでのんびりした空気が漂って
いるのだ。
仕事はいっぱいある。
今朝だってコンピュータプランナーの人から、今週のスケジュールが発表
となった。
コンピュータプランナーというのは、電算業務の舵取り的な存在。
いわば電算部門のエリート。
の、はずだけど、今回からあたしたち3課の担当になった人は、そんなイ
メージからはほど遠い。
暗いし、お腹は出てるし、近眼だし。
はっきりいって出世しそうにない。
宗方課代のほうがよっぽど似合っていると思うのだが。
チラリと宗方課代を見る。
ポーツマンが、おしゃべりソフトで遊んでいる。
うぅーん、やっぱり彼も向いてないかもしれない。
まぁ、会社自体に問題があるんだろうね。
だいたいバリバリに端末の音が聞こえてこないといけないはずなのに、
不思議とここにはそれがない。
しかも、誰かサンのようにおしゃべりソフトで遊んでいる人までいる。
「こんなことでいいのだろうか」
と、思いつつ、あたしも他の女の子たちと週末のショッピングの話しで盛
り上がったりしている。
もっとも、そんなここの空気が好きだったりするのだけれど。
終電時間ギリギリ。
あたし、ついつい時間を無駄に過ごしてしまった。
ひぇ、3時間も残業しちゃったよぅ。
でもみんな冷たいなぁ。
あたし、ベンチに腰掛け放心状態。
なんとなくまわりを見る。
「誰もいない」
そうなのだ。
駅にはあたし以外の客は誰もいなかった。
l駅みたい。
東京のはずれ、多摩とはいえ、あまりにも変。
非現実の世界へ落ちたみたい。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
頭カラカラのあたしに声をかけたのは、17くらいの女の子。
セーラー服を着ているところをみると、塾帰りの高校生だろうか。
「大丈夫よ」
あたしニコリと笑顔で答える。
「よかったぁ」
少女はニコニコしながら、本当にうれしそうに言った。
「大変ね、こんなに遅くまで。塾帰りなの?」
あたしは訪ねた。
少女不思議なものをみるように、コトンと首を傾げる。
「塾帰り?」
イめんなさい。部活なのかな?」
やっぱり少女、首を傾げる。
「どうしたの、こんなに遅い時間なのに」
あたし、不思議そうな顔をする少女に聞いた。
「お姉ちゃんを迎えに来たんじゃないの」
少女が奇妙な事を言う。あたし、からかわれているのかな。
「迎えに来た?」
キョトンとしているあたしの手を取り引っ張ろうとする。
あたし、なんだか恐くなって強引に手を引き離なそうとする。
でも、でも・・・・・
少女の力はかなり強い。
17の女の子の力じゃない!
「いやー!!」
あたし大声を上げる。
駅員さんがビックリしたように駆け寄ってくる。
少女もまたビックリしたように手を離し、駅の暗闇へと駆けて
いった。
「どうかしましたか!?」
駅員さん、息を切らせながら。
「いえ、すみません。なんでもないんです」
30分遅れの電車が構内に入ってくる。
誰もいない駅に、あたしのためにアナウンスが鳴り響く。
あたしは恥ずかしくなって、逃げるように電車に飛び込んだ。
−2−へつづく・・・・・・
.....