AWC ぶら下がった眼球 第三章   スティール


        
#1289/3137 空中分解2
★タイトル (RJM     )  91/11/23  11:29  (132)
ぶら下がった眼球 第三章   スティール
★内容

              第三章   創 造

           次の日に、大佐から正式な通知が来た。そ
          の後の交渉で、私がノア6号を買い上げ、そ
          こで独りで開発することになった。

           私は大佐の部屋で、何通かの契約書にサイ
          ンをした。大佐は細長い葉巻に火を点けなが
          ら、言った。

          「君の本は読んだ。もっと早く、君に声をか
           けるべきだったな」
          「過分に評価していただいて光栄です」

          「それで、思考プログラムのほうは、本当に
           大丈夫なのか? もっと、時間をかけても
           いいんだぞ」
          「いえ、私のDOGに、ぎっしりとデータが
           詰まっていますから、たぶん大丈夫です」
          「そうか、それでは、期待して待っている。
           何かあったら、研究所のほうに連絡してく
           れ。普段はそこにいて、ここにはいない」

           私は大佐に礼を言ってから部屋を出た。そ
          れから、二ヶ月後には、私はすべての準備を
          終え、ノア6号に移り住んでいた。あとは、
          人間を創りだすだけだ。

           DOGとは、コンピューターの操作を補助
          するためにバベル博士が創ったマシーンであ
          った。その大きさはアタッシュケースより少
          し大きめであり、容易に持ち運ぶことができ
          た。DOGは、持ち主がコンピューターに関
          して、行った操作を覚え、学習して、次回か
          らは補助してくれるのだ。何年も使っている
          と、ほとんどの操作をDOGがこなしてくれ
          るようになる。いまでは、ほとんどの人にD
          OGを持っていた。成人のDOG普及率は、
          100%に限りなく近い。もうそれ無くして
          は、社会は成り立たないだろう。

           私のDOGには、人間の精神と脳に関する
          データもたくさん入っていた。それらを組み
          合わせ、脳のプログラムを造り上げるのだ。
          そこまでの作業は一晩で、DOGが自動でや
          ってくれた。後は、できあがったものをチェ
          ックし、修正・補足するだけだった。その作
          業は、私にとっては容易な事だった。しかし、
          それは簡単であったとしても、やはり、神経
          をすり減らす、慎重を要する作業でもあった。
          裸が恥であるとか、死ぬのが苦しみだとかの
          精神的な恐怖や苦痛を植えつけるのが、ポイ
          ントだった。これで、人間が出来あがれば、
          これが、人間の本質だという証明にもなるの
          だ。高層の構築物のように、全体を設計し、
          積み上げねばならなかった。考えてみれば、
          まったく未知の分野であり、かなり神経を使
          った。意外に時間がかかりそうなので、私は
          容姿の部分の設定の作業も並行して行うこと
          にした。

           遺伝子を創りだすマシーンは大佐自らの手
          によって、ほぼ完璧に仕上げられていた。私
          は、それにDOGを接続した。私は自分自身
          のイメージから、自分の理想通りの女性を創
          りだそうと思っていた。私は前から用意して
          いたイメージスキャナーを頭に付けた。性格
          のほうは、思考プログラムの植えつけで決ま
          る。容姿も遺伝子の設計段階で、自由に設定
          することができた。私はそのことに魅かれて
          バビロン計画に参加したのだ。まさか、バビ
          ロン計画が潰れずに残っていたとは、思って
          もみなかった。私はいま、自分の願望を満た
          すために、計画を利用している。薄汚い性欲
          をみたす為ではなく、自分自身の手で、高貴
          な理想の女性を創りあげるのだ。そして、二
          人で一生幸せに暮らすのが、私の長年の夢だ
          った。

           私は、イメージスキャナーで、自分の理想
          像を具現化するつもりだった。私は目を閉じ
          て、精神を集中した。私の理想とは、いった
          いどのようなものなのだろうか。何分か、瞑
          想状態が続いて、DOGがイメージの捕捉を
          伝えた。精度は90%と出ていた。と言って
          も、この精度はあくまで数値上のものであり、
          実際に観て、修正しなければならない。私は
          できてきたイメージを3Dモードで、映しだ
          した。若い女性が、私の目の前に現れた。私
          の体に、雷で打たれたような衝撃が走った。
          体には、何もまとっていなかった。いままで、
          みたことのない女性だった。しかし、なぜか
          懐かしい想いが、こみあげてきた。私の目か
          ら、涙がこぼれ落ちた。もうこれ以上、彼女
          を修正する気にはなれなかった。完璧に理想
          の人だと思った。

           作業に取り掛かってから、一週間ほどで、
          なんとか遺伝子を創り出すことができた。あ
          とは、実際に培養する前に、培養結果をシュ
          ミレートするだけだ。私はその作業をDOG
          に任せ、ソファーに眠り込んだ。疲れていた
          のだ。

           翌朝、私は遺伝子から人間の培養を始めた。
          誕生まで、一ヶ月ほどかかると聞いていた。
          成人の形で、完成するはずだった。成人の形
          で誕生することが、大佐の構築した創造シス
          テムでもあったのだ。

           私は彼女に名前を付けていなかったことを
          思い出した。私は傍らにあった本を手に取り、
          開いた。名前は、すぐ決まった。私は彼女を
          EVEと名付けた。

           あと一ヶ月ほど、暇だった。私は好きな詩
          を読んで暮らそうと決めた。私は愛読書を久
          し振りに取り出し、自分の一番好きな詩を読
          んだ。ノストラダムスの諸世紀だった。

          【 それは、いくら待っても、
                 ついに  現れず

            それは突然、天に
                サインとして現れる

            その正体を みなは
                 知って  驚く

            だが、もう、そのときには
                懺悔は 手遅れなのだ  】




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