AWC   CORE 〜中心の行方〜 3     KY


        
#1279/3137 空中分解2
★タイトル (QJM     )  91/11/21  18:41  (200)
  CORE 〜中心の行方〜 3     KY
★内容
「あ、あぁ大丈夫だ、それより無事に着陸出来るのかね」
「はぁ、非常時用ボタンをすぐ押しました。すべてはこの車のAI任せですので…」
ホバー車は順調に車道に設けてある緊急時車両へ向かわれて行った。
「丁度駅前でしたので助かりましたよ」操縦士は深くため息をついて続けた。「去年訓
練をしたっきりですが、なんせ実戦ははじめてなもんで。大丈夫です、あと一分後に着
陸です」CP画面を見て言った。「しかし故障の原因はなんでしょうね?まぁ、司令部
のコンピュータで確認出来るだろうけど…」薬師寺は後方を見降ろすと忠がこちらを窺っるのが確認できた。そして一言呟いた。「覚醒したに違いない」
「何かおっしゃいましたか、先生?」
「いっいや、すまんが至急もう一台救急車を頼む、ソーラー車をな」
「了解」操縦士は救急司令部に信号を送った。
ホバー車は無事に着陸を終えた。医師がハッチを開けるとカメラのフラッシュが一斉にきられた。「東京TVの者ですが、ホバーの事故は初めてなのでその原因を?…」
薬師寺は両手でフラッシュを遮って言った。「その事は操縦士に聞いてくれ、病人が待
ってるので」記者達は操縦士へと質問を向けた。操縦士はやや照れて応じた。
「言っておくがこれは私のミスではない、全て司令部への入力ボタンになっているから
だ。原因はおそらく電波障害だろう…たぶん」
薬師寺は記者らを背に忠のいた場所へ向かった。
力みかかったその表情に恐怖への不安感も浮かび上がっていた。
(何もしていなければいいのだが)
医師が人だかりのいる場所を見つけると走って行って野次馬達を押し退けた。
すると忠の姿はなく、若者に抱えられた亜紀が呆然としたまま医師を見つめた。
「先生!…」亜紀は薬師寺に抱きつくとそれ以上言葉を話せなかった。
「いったいどうしたんだ、忠はどこだ。」亜紀が答えないままで泣いていると、若者が
震えながら言った。「き、消えました今、たった今。」
薬師寺は若者を睨むように見ると、まわりの者達からも呆然とした顔が映った。
若者は続けて言った。「あんたがここに来る直前に、‘殺される’と言ってすぐに…」
「殺される?」薬師寺は視線を束の間あらぬ所へ向けると、亜紀を抱き上げて野次馬達
から抜け出していった。二人がソーラー救急車へ向かうと、ひそひそ話だった人の群れがに騒がしくなった。亜紀を後部席に乗せて薬師寺が助手席のドアを開けると、大声で怒
鳴った。「たかしだ、たかしという少年を見つけてくれ!」人々に沈黙が流れると、再
び騒がしくなりだした。薬師寺はドアを閉めると後部液晶ガラスに曇りを入れるスイッ
チを押した。そして運転手に言った。「私の家まで頼む」
薬師寺は車内で考えを巡らせていた。
(‘殺される’…なぜそんな事を…?私は確かに彼がデモンだとわかった時、臨床検査しようと目論んだ。しかしまさかロボトミーになどする気はなかったし……)
薬師寺の目に鋭さが宿った。
(…っそうか、{デモン}なら予知能力があって普通なのだ。私が何を考えていようと、彼は殺されてしまうその先の事を読みとっていたのだ!)
―――もし、これが事実であったら、人間本来のなぞが―――
「先生、あなたの家に病室でも設けてあるのですか?」運転手が聞いた。
考え耽っていた薬師寺の耳に彼の言葉が入ると、何か聞いたかのように運転手を見た。
運転手は医師の気にさわったのではないかと思い、言い直した。
「あ、いやぁ、彼女の具合がわからないもので…」
薬師寺は彼の一声目を思い出し、把握できて答えた。
「心配するな、彼女は私の友人の娘だし、あの状態なら家にある薬で簡単に直るさ。」
「そうですか、わかりました。」運転手は続けて言った。「しかし、あの人だかりは何
だったのですか、交通事故かと思いましたよ。」
「君はIM[インフォメイション]画面を見なかったのかね、ホバーが故障して落下したんだよ薬師寺はからかい口調で言った。
「ホバーって、救急の…?」
「その通りだ」
「で、乗員の命は…?」運転手が聞いた。
「君の隣に座っている」
運転手の男に医師の言っている事はさっぱりわからなかった。

(…彼の命が危ない、あの噂では覚醒した日のうちに死ぬはずだ…)

「さぁ、今日はゆっくりここで休んでいきなさい、お母さんには亜紀ちゃんが泳ぎ過ぎ
て貧血になったと言っておいたからね。」
疲れてぐったりベッドに仰向けになった亜紀が細い声で聞いた。
「先生、忠はどこへ行ったの!?」
薬師寺は優しい声で言った。「大丈夫だ、すぐに戻ってくるよ」
亜紀は悲しい表情になって再び聞いた。
「どうして消えたりしたの?…あのホバー車も忠が…なぜ…タダシ…」
亜紀は次第に眠りについた。医師が精神安定剤と一緒に睡眠薬を飲ませたのだ。
薬師寺は亜紀の身体に毛布を掛けると彼女の目から涙が枕に伝っていったのを見た。
そして悲しげにため息をつくと、部屋の照明を消して書斎へ向かった。
書斎室扉のセンサーボタンに指が触れた時、妻の声が耳に入った。
「あなた、忠君から電話ですよ」
薬師寺は呆然として廊下先の妻のいる方へ振り向いた。そして、気を取り直して言った
。「書斎へ回してくれ」

TV画面に映ったのは紛れもなく忠の姿であった。医師の顔を確認して、さっきの事が
なかったかの様に微笑んでいる。また同時に薬師寺にはあざ笑っているかの様にも見え
た。
「眠った様ですね、亜紀は。」忠は感謝をする様に言った。
「やっばりわかるのかね、忠君。人の心が。」薬師寺は動揺を抑えて言った。
「安心して下さい先生、もう消えたりはしませんから」
薬師寺は、忠がさっき、本当に姿を消した事が真実だったのだと悟って、なおさら困惑
していた。
「今度は私が動揺してしまっているよ、かたじけない。」苦笑いをしながら言った。
(…こんな事を話している場合ではない…この少年をなんとかせねば大変な事に…)
忠の目に汗を拭いながら懸命に次の返答に困惑している医師が映った。
「ただしく、くん…」薬師寺が発すまもなく忠が割って言った。
「先生、そちらに今から伺います。そうして欲しいのでは?…」
薬師寺は一瞬、返す言葉を失った。そしてまだうっすら微笑みがかった忠の顔を見ると
、底知れない恐怖感が脳裏をかすった。「たのむ、じゃ、待っているから…」
今までの空想と現実のジレンマに挟まれて、かろうじて出た言葉であった。

薬師寺は気がつくとダイヤル・キーを押し終えていた。そしてつながった声は女性の事
務的な声であった。  「はい、Sホスピタル緊急案内係の西条…」
「大京の薬師寺だが、臨床医の大貫博士を至急つないでくれたまえ。」
薬師寺とSホスピタルの大貫とは古くからSHPの情報を共に交換してきた研究仲間で
あった。とは言っても彼とは3年程前から交流がなくなっており、それというのも全て
SHP用CTスキャンが開発されてから大貫が主体となってロボトミーへの実験をして
いるという噂が流れてきたからであった。そしてその真相を得るため薬師寺は幾度も電
話でのコンタクトを諮ったが、大貫が言う事はその噂をまったく否定した返答であった。薬師寺は自分の役職上、大貫の心情に疑いを抱いたが彼が最後に言っていた事はこうで
あった。   …もうお互いに意味のない研究はやめとしよう、おれがあんたとSHP
の研究を今まで長年してきたのは人間の限界を知るためだったんだ。しかし今わかった
んだ、こんなきりのない事を続けていっても結局時間の無駄になるのだという事がね…

薬師寺は今自分のしている行為になんの不安もなかった。
(どうなるにせよ大貫の正体がはっきりわかるいいチャンスなんだ。たとえ忠という少
年が‘デモン’だとわかってあいつが何を企もうとも彼の身体を守る事は大京の医師でる私の使命だ。病院という本来のありかたをはっきりさせなければならないのだ。)

薬師寺はある種の“賭け”をしていた。もし忠に予知能力なる力が備わっているならば
彼がここに現れるにはこれからの事のなりゆきに試されるのであろう。薬師寺は今まで
心の裏に積もっていた、自分本位によるわだかまりを一掃するために命をも賭ける憤り
で一寸先の未来を占っていた。
彼にとってこの新鮮に感じる欲望はある意味では自然現象だったのかも知れない。

「…先生、大京病院の薬師寺という方から電話が入っているのですが。…」
看護婦の電子声は15畳程の宿直室に響いた。
大貫はその部屋の隅に設置してある小部屋でゴルフ・ゲームを楽しんでいた。
小部屋と言ってもその部屋の壁は緊急時に対応できるように透明な分厚いゴム製の物で
あった。
立体ホログラムで映し出されたグリーン上で、彼は丁度バーディー・パットをするとこ
ろだった。
「…先生、いらっしゃるのですか?…」
「っあぁ、今出る。」
パターを握った手の力を抜いて、眉をしかめた大貫はホログラムスクリーンを消し、T
Vの画面に切り替えた。
横向きにアップに映った看護婦の表情には苛立っているようだった。
「なんだ、緊急オペでもはいったのか?」
看護婦はびっくりした様子で博士に向いた。
「すみません、あ、あの電話です。緊急の…T・5ですので。」
彼女はあわてたのか、そのまま回線を切ってしまった。
「ったく、誰からかぐらい言ってくれよ。」
大貫はぶつぶつ言いながら今指示されたナンバーを押した。
「大貫だが」
「もしもし、久しぶりだな大貫。」
大貫のTV画面には画像が映らなかった。
「だれだ?大貫だが、姿も送ってくれないか?」
「これは失礼、わたしだよ。」
大きく映し出された彼の姿に大貫は若干の焦りを覚えた。
「だ、誰かと思ったら君だったのか。」
「それはご挨拶だな、あ、久しぶりにTVで会えたが、今至急わたしの家に来て欲しい
んだ。」
大貫は薬師寺のこの突然の言葉に一抹の不安がよぎった。
「仕事の話は抜きだぞ」と大貫。
薬師寺は笑って答えた。「残念だがそうではない、君が驚く事があるんだ。安心して来
てくれないか」
大貫は薬師寺の心中を探るように見ていると何かが画面のうしろの方に現れてきたのが
わかった。
砂嵐の様な物体が映ったかと思うと、なんと一人の少年がサッと現れたではないか。
「な、なんだ!!」
薬師寺は少年に気がつかず、話し始めた。
「実はS・H・Pがもうすぐここに来るんだよ」
大貫はあっけにとられた顔で唾を飲んだ。「…い、今う、後ろに…」
薬師寺は相変わらず続けた。
「そう、今来るんだ。君にも紹介したくてね…」
「そ、その少年をかね…」
「そうなんだ、少年…な、何でわかるんだ?きみ…」
「はじめまして大貫博士、高倉です。」
薬師寺はハッとして振り返るとびっくりした声を上げた。
「た、忠くん」
「すみません先生、だけどこうした方があの人が信じると思って。」
「はっはは、そうか、こりゃ傑作だ。実はこういうわけなんだ、勿論来てくれるね、大貫博士。」薬師寺は両手を上げ、気を混乱させながら明るくふるまった。
大貫も薬師寺と同じ心境で言った。
「い、今行く。」


「びっくりしたよ…?!…、」
薬師寺はたった今忠の現れ方に疑問をもったのだった。
忠が医師が聞く前に答えた。
「テレポーテーションです。驚くのは当然ですよ。僕自身も初めは信じられませんでした。」「そうだったのか、そりゃ今の君なら可能だったな、ふぅー。」
薬師寺は気を落ちつかす様に深呼吸をした。
―――こういう現象はそのまま常識と思わなければならん、おちつけ―――
自分にこう言い聞かせると忠を見た。
すると彼は今の事を聞いてたかのように軽く微笑んでいた。
〜いや、すべて筒抜けなのであったのだ〜

「先生、大事な事を聞きたいのですが」
「聞きたい事って、君にもわからないことがあるのかね?」
「はい、どう考えても自分自身の未来は絶対的には予測出来ないのです。」
「‘絶対的’とはどういう事なんだい?忠君」
忠はソファに座って言った。
「簡単に言うと自分に身体があるという事です――それはあるのは当然なんですが、こ
の身体があるため――」
忠は両手を握って見せながら続けた。
「――自分という物体の調和が難しいのです――まだその理由がはっきりわからないの
ですがたぶん――」
「たぶん、何だい?」薬師寺が相席に座った。
「だぶんいままでと違うまったく別の身体になっていくのだと――でもこの事は一概に
僕だけのケースではなく誰しも有り得るわけで――突然僕の様な境遇におかれてしまう
と――――」
「どうした、大丈夫か?」と薬師寺。
忠は小声で言った。「だんだん自分だけではコントロールできなくなって――――――
―――心臓が止まると―――。」
忠は言い終えると、何かに気づいてその方へ目を向けた。
「その通りだ」
出入口に大貫が立っていた。
薬師寺も彼に気づいた。「大貫。」
「その意識をまったく気づく事ができずに死ぬのが、いわゆる(突然死)なのだ。」
「なんだって」




前のメッセージ 次のメッセージ 
「空中分解2」一覧 KYの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE