AWC ぶら下がった眼球 第二十章  スティール


        
#1266/3137 空中分解2
★タイトル (RJM     )  91/11/11  19:31  (199)
ぶら下がった眼球 第二十章  スティール
★内容

            第二十章  最後の審判

          大佐は二本目の煙草に火を点けた。

         「この計画は、人類を救うために絶対必要な
          ものだ。上層部の承認も得ている。誰にも
          邪魔はさせない。私が人類を救うんだ。私
          が人類の支配者くらいになってもいいはず
          だ。いや、なってみせる。誰よりも優れて
          いて正しいこの私が、人類を正しい道に導
          くのだ。今更、バベル博士に出てこられて、
          手柄を横取りされても困る。今更、ヒュー
          マニズムを振りかざされても迷惑だ。」

         「なぜ、俺にADAMを殺させた。」私は怒
          鳴った。私の言葉に、EVEが反応した。

         「あなたが、ADAMを殺したのね。」と言
          って、EVEは大佐に掴みかかった。

          大佐はEVEに向けて、拳銃を撃った。彼
         女のみぞおちから血が吹き出た。私はEVE
         の名を叫んだ。私は駆け寄り、EVEの体を
         抱き締めた。私は、EVEの治療をさせてく
         れるよう頼んだ。だが、大佐は言った。

         「どうせ、死ぬんです。早いか遅いかの違い
          ですよ。あなたに人は殺せない。それが、
          あなたの致命的な甘さであり、弱点なんだ。
          あなたは私に絶対に勝てない。」

          私は自分の戸惑いを後悔していた。次の瞬
         間、大佐の上半身が煙に覆われた。正確には、
         上半身が一瞬のうちに、溶けてなくなったの
         だ。大佐の下半身が倒れ、血が噴き出ていた。
         私はEVEを研究室のベットに運んで、DO
         Gに治療を命じた。私は二人も人を殺した。
         私の頭の中は混乱していた。過去の記憶が、
         次々と甦っていた。頭痛が更にひどくなった。
         EVEは、瀕死の重症だった。死ぬかもしれ
         ない。私の頭の中で声がした。博士の声だっ
         た。私の頭は崩壊しそうなほど、痛かった。
         私は行動に出た。私は博士の操り人形になっ
         てしまったのか、それとも、自分の意志なの
         かわからないが、ある衝動に駆られた。
          私はこの世に存在するすべてのDOGにメ
         ッセージを送る準備を始めた。博士がそうい
         う機能をDOGに盛り込んでおいたのだ。私
         はこの世のすべての人間を憎んだ。遺伝子に
         負けて死ぬのは、生きている価値のない弱い
         人間なのだ。いや、生きていてもしょうがな
         い人間なのだ。俺が裁いてやる。私が神にな
         りかわり、悪魔になりかわり、裁いてやる。
         私はそのために産まれたのだ。そのためにの
         み産まれてきたのだ。この世のすべての苦し
         みや寂しさ、罪をすべて背負うために産まれ
         てきたのだ。誰かが、いつかやらねばならぬ
         ことなのだ。意志があり、罪の意識を持ち、
         苦悩を背負う覚悟で、行うべきことなのだ。
          そうだ、私は、本当は神を憎んでいるのだ。
         というよりも、神の正体の遺伝子をだ。自己
         の繁栄のために人間を増やし、互いに殺しあ
         う。人間の愚かさはすべてあの遺伝子のせい
         なのだ。遺伝子は、個々の繁栄しか考えない。
         直系の遺伝子、つまり親や子をいたわっても、
         傍系の他人の遺伝子は死のうがどうなろうが
         よいのだ。ただ、生殖行為のために結びつき、
         つがいになることを例外として。

          ノア6号から、電波が飛ばされた。まず、
         私のDOGから、他のDOGへ。そこから中
         継されて、次のDOGへと、無限に進むのだ。
         これこそが、バベル博士の一生を賭けて、命
         を犠牲にした本当のバビロン計画なのだ。私
         はEVEの様子を見に戻った。彼女はいつ死
         ぬかもしれなかった。彼女が死んだら、私は
         どうやって生きればいいのか、私にはわから
         なかった。

          私はDOGを机の横に置き、電話と接続し
         た。画像付きモードのスイッチを押した。私
         は、きちんと送れているかどうか、チェック
         した。これから、史上最大のショーが始まる
         のだ。おそらく、この世のすべてのDOGを
         通じて、私の言葉は伝わるだろう。私は呼吸
         を整えてから、話を始めた。

         「 みなさん、突然のメッセージに驚かれた
          かもしれません。しかし、みなさんの将来
          に関わる重大なことなので、どうか聞いて
          ください。私がこれから話すのは、普段は
          誰も気に留めないことです。でも、とても
          重要なことです。
           我々はなぜ生きているのでしょうか。我
          々はなんのために生きているのでしょうか。
          実は、私達は自分の意志で生きているので
          はなく、遺伝子によって、生かされている
          のです。真実はとても辛く厳しいものです。
          私達は子供を産んで、子孫に遺伝子を伝え
          ると老います。いわゆる老化現象です。し
          かし、最近の研究では、新陳代謝の鈍化の
          指令が、遺伝子から出ない限り、何百年で
          も生きていられます。つまり、私達が毎日
          生きている生命活動、文化や政治や娯楽な
          どというものは生きる目的ではないのです。
          我々は遺伝子によって、生きる期間を不当
          に狭められているのです。あなたがた一人
          一人に問います。自分が生きている価値の
          ある人間だと思いますか? 本当に生きて
          いる価値があるのは、ごく一部の人間だと
          は思いませんか? あとの人々は、遺伝子
          の繁栄のためにだけ生きているミジンコの
          ような人達ではないでしょうか。私の話を
          聞いて、目的と手段を間違えているという
          人もいるかもしれません。しかし、考えて
          もみてください。極端な話、遺伝子の増殖
          はミジンコの増殖程度か、それ以下のもの
          で足りるはずです。人間は、そのような遺
          伝子の陰謀に利用されているだけに過ぎな
          いのです。
           みなさんはあと何時間かたつと発作に襲
          われます。神の正体が遺伝子と知った人間
          は、遺伝子に精神を攻撃されます。攻撃と
          いうよりも、普段の我々の感情は遺伝子に
          よって、修正・補足されているのです。そ
          れが、いきなり消えてしまう寂しさ、孤独
          感はかなりのものです。それに耐えきれな
          い者は、死ぬことになります。その試練に
          耐えて生き残った者だけが、遺伝子の指令
          を拒否し得る人間になれるのです。今のと
          ころ、寿命が延びるかどうかは確認が出来
          ていません。しかし、私は遺伝子の邪悪な
          部分を克服し、不必要に攻撃的でない、利
          己的ではない人間らしさを取り戻すことが
          できると思います。ちょうど、ハビロン計
          画で創りだされた人間のようにです。必ず
          しも善人とはかぎりません。合理的な考え
          から、悪がもたらされることもあるですか
          ら。試練に耐えて生き残った者のなかにも、
          『多数の利益は、少数の利益に優先する』
          などという意見を持つ者もいました。バベ
          ル博士の研究では95%以上の確率で、基
          本的には優れた良心を持った人間が残りま
          す。これから、みなさんに発作が起こりま
          す。勇気を持って、立ち向かってください。
          もう、後戻りはできないのです。昔から、
          多くの預言書、預言者が預言したように、
          生き残った者だけが、天国の楽園を味わう
          ことができるはずです。
           バベル博士の考えでは、生きている価値
          がない人間が死に、生きている価値がある
          人間は善悪を問わず死ぬということになっ
          ています。しかし、これは科学的な実験を
          元にした結論ではなく、博士が過去の書物
          などを元にして導いた結論です。従って、
          必ずしも正しいとは限りません。しかし、
          私そして博士は正しいと確信しています。
           いまからでも、改心して自分自身を変え
          てください。そうすれば、生き残ることが
          できるはずです。他人に対する憎しみを捨
          ててください。真実を見て、客観的な正し
          い判断をしてください。憎しみが、何を産
          むでしょうか。そのような感情は、遺伝子
          が指令し、作り出した幻想なのです。遺伝
          子は直系の親と子、そして子を生産する配
          偶者だけを守れば、それでいいのです。考
          えてもみてください。なぜ、家族単位、つ
          がい単位で私達は生活するのでしょうか。
          なぜ、他人と暮らすときも『家族のように』
          などと思い込んで暮らす習慣があるのでし
          ょう。しかし、人間の奥底には、人類すべ
          てに対して、愛を持たねばならないという
          本能があります。他の物事についてもそう
          です。人は善を知りながら、ほとんどの人
          が、なぜ、それをしないのでしょう。最初
          から善をしないのであれば、意識下の存在
          すら無くてもいいはずなのに。
           遺伝子の中に、神を名乗る、実は邪悪な
          者がいます。実はそれが、人間に利己心や
          敵対心を植えつけているです。しかし、そ
          れは絶対的なものでなく、みなさんの強固
          な意志を持ってすれば、その邪悪な部分を
          取り除くことが可能です。そうすることで、
          遺伝子が完璧になることができるのです。
          みなさんのうちのほとんどが、天使のよう
          なやさしさを持つことが、できるはずなの
          です。勇気を持って、立ち向かってくださ
          い。遺伝子の中の邪悪な部分に。誰もあな
          たに、手助けはできないのです。私は手助
          けはできませんが。みなさんの幸運を心か
          ら祈っています。」

          私の演説は終わった。これですべてが終わ
         ったのだ。私は無責任な演説をしてしまった。
         これで、人類は破滅に近い打撃を受けるだろ
         う。しかも、どういう人間が生き残るのかは、
         私の想像に過ぎないのだ。私はEVEのこと
         で急に胸騒ぎがして、彼女の枕元へと急いだ。




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