AWC ぶら下がった眼球 第十六章  スティール


        
#1254/3137 空中分解2
★タイトル (RJM     )  91/11/ 3  18:45  (151)
ぶら下がった眼球 第十六章  スティール
★内容

             第十六章  誘 惑

         EVEからメールが届いていた。「真実が
        遠くなる!ADAMを助けてあげて!」

         私はシャワーを浴びながら考えた。真実が
        遠くなる。真実が遠くなる。いったい、何が
        真実なのだろうか。死刑の執行のボタンを直
        接押さないこと、死刑を阻止することが真実
        だろうか。事実こそが真実ではないのだろう
        か。それとも正義の真実か。未来の選択の中
        の正しい選択を指すのだろうか。私はまた誤
        った道を歩むのだろうか。歳を取り、経験を
        積むと、真実が遠くなるのだろうか。私はま
        たひとつ、大切な何かを失うのだろうか。い
        や、しかし、進まなかった道は正しくなくて
        も、結局事実でも真実でもないのだ。

         結論はもう出ていた。私はADAMの処刑
        の決定をした上に、処刑のボタンまで押して、
        後世に悪名を残したくなかった。ADAMに
        死んでもほしいという気持ちが、私にはある
        はずだった。しかし、自分でボタンを押すと
        いうのは、やはり、できれば、回避しなかっ
        た。私はそう考えながら、ADAMのいる独
        房に向かっていた。公式な折衝の前に、AD
        AMとは二人きりで話をする手筈だった。私
        なら、彼を説得できるかもしれない。大佐も
        それを期待しているのだろうか。しかし、や
        はり、私はADAMを開発した当事者だから、
        大佐の言うような責任があるのかもしれない。
        やはり、私がADAMの処刑を行うべき責任
        を負うべきであろうか。

         ADAMの居る独房に着いた。係官は私に
        「ADAMには拘束衣を着せておきました。
        二人だけで話すんでしたらどうぞ。」と、笑
        いかけながら、言った。(また、大佐か)と
        私は思った。大佐は普段は馬鹿なふりをして
        いるようだ。私は係官の言葉に同意し、独房
        の中に独りで入っていった。

         独房だと思っていたが、中は部屋だった。
        ADAMは椅子に座り、机に向かっていた。
        部屋は牢獄というよりも、ただの部屋だった。
        ただ物がなかった。ベットと机と椅子くらい
        しか、目につかなかった。ADAMは拘束衣
        を着ていたが、きちんと座っていた。私は雰
        囲気に負けて、口火を切った。何か言わねば
        ならないと思ったのだった。

        「久し振りだな。」

         ADAMは、私の顔を見た。そして、爽や
        かなはればれとした顔で言った。

        「ほんとうにそうですね。ヘンリー」

         私は何かを恐れて、本題に入った。そのと
        きは、その恐れに気付かなかったが、後にな
        ってから、気付いた。

        「今日、公開の場で、君を説得する。それで
         君が神のことを否定しなければ、君は処刑
         される。」
        「そのことは、知っています。なぜ、私がこ
         のような目に遭うのか、わかりません。我
         々、ADAM型の中にも、神を信じるもの
         がたくさんいるのです。」

        「君の立場は、少し違う。君は、一番最初の
         ADAM型だ。ハビロン計画から外れるこ
         とをしてもらっては困る。それに君はAD
         AM型の教祖的な存在だ。君が望まなくて
         も、そうなってしまっているのだ。」

         ADAMは黙って、私の言うことを聞いて
        いた。

        「君は、人を三人も殺した。」
        「私は、植民星でADAM型の男女がもっと
         ひどい目にあっているのを見ました。」

         私はADAMの冷静沈着さが怖さを覚えた。

        「お前は、殺すよりもひどい仕打ちがあると、
         言うのか!」
        「そうです。」
        「何言ってるんだ、お前は。お前は何をした。
         なぜ、殺したんだ。」

        「夢を見ました。」

         ADAMは、生気のない目になっていた。
        過去に浸り、恍惚という言葉の状態に陥った
        ようだ。

        「EVEが、ひどい目にあっていました。」

        「夢を見たから殺したというのか?」
        「EVEが、あなたにひどいめにあわされて
         いる夢でした。」

        「もう、いい、やめろ!」

         私は大声でそう言ってから、部屋を飛び出
        した。ドアの外で立っていた係官が、何か、
        言っていた。

         私は廊下を歩いた。さまよった、行き先も
        知らずに。行き交う人を、全員傷つけたいと
        思った。すべてを従えるか、破壊したいと思
        った。


         私は自分の部屋にいた。たいした運動もし
        ていないのに、息が荒く、胸が苦しかった。
        いつも心の中で声がした。落ち込むとその声
        に苦しめられた。声ではなく、意識のような
        ものかもしれなかった。こんなことでは、A
        DAMは救えない。奴は人を殺しているのだ
        から。こんなことでは。

         時刻が来て、私は処刑場に向かった。最初
        から、公開処刑のようなものだった。処刑場
        には、陪審員、裁判官などが立ち合いで来て
        いた。ADAMに人権は無かった、が、後に
        禍根を残したくなかったのだろう。傍聴人と
        して、軍のお偉いお歴々も来ていた。彼らも
        その他の傍聴者も、私にとっては自分を奮い
        立たせる存在でしかなかった。他人の視線が
        あったほうがよかった。そのほうが、私はし
        っかりしていられた。私は他人の目があって、
        本当によかったと実感していた。私は自分の
        職務、責任を思い出した。ADAMを説得せ
        ねばならない。私は、死刑執行のパーツのひ
        とつにすぎないのだ。

         ADAMは、被告席のようなものに立たさ
        れていた。昨夜はなかった。あれから準備し
        たのだろう。

         私はADAMより、少し立派な席に案内さ
        れた。私はそこには座らず、立ったまま、審
        議を始めた。

        「ADAM、最初にはっきり聞こう。君の神
         に対する意見を聞きたい。」

         ADAMは、うつむかせていた顔を上げた。




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