AWC パラレル>「鷹司」         かきちゃん


        
#1246/3137 空中分解2
★タイトル (ENB     )  91/10/27  23:57  (200)
パラレル>「鷹司」         かきちゃん
★内容

 「さあ、いでよ、闇に住まいし物達よ!」
 特殊な形の魔法陣の前で膝まづき、書物を片手に呪文を唱えていた男は立ち
上がって両手を広げて叫んだ。
 瞬間、魔法陣の中央部からもやもやと煙が立ち上がった。
 「やった!この者達の力を操ればこの世界を我が手に納めるのも夢じゃない
ぞ!」
 男は満足そうに叫んだ。が、
 「ぎゃあーーーーっ!」
という絶叫と共に男の体は一瞬にして蒸発した。
 「ふっふっふっふ、馬鹿め。貴様ごとき無力な人間に私を操れると思うか。
まあ、うまそうな世界に連れて来てくれたお礼に苦しまずに蒸発させてやった
がな。」
 魔法陣のまん中にどっしりと腰を降ろしたそれはさっきまで男がいた場所を
眺めながら呟いた。そして、
 「さて、仲間と手下達でも呼んでこの世界に腰を落ち着けてみるか。」
そう言って魔法陣の中で呪文を唱えはじめた。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 封印された地上への通路の前に一人の男が立っていた。
 「あれは鷹司じゃないのか?」
遥か下の都市の住人達がささやき合っている
 「あいつ、ついに行くつもりか?」
 「そうなんだろうな。それがあいつの運命なんだから。」
 この地下都市で鷹司を知らない者はいない。
 25年前、地上に魔物を呼び寄せた男、人類をこの地下都市に追いやる原因
を作った男・鷹一の息子である。
 彼はその父の業をそのまま背負う羽目に陥った。彼の父の所業に怒った伝説
の魔導師オルティウス(既に伝説の存在で精神体として存在していると言われ
ている)はその息子である当時三歳だった鷹司の背中にその業の印として二本
のアザを刻印した。その時鷹司の頭の中にオルティウスの声が聞こえてきた。
 「おまえはおまえの父の罪を償わなければならない。おまえの父が呼び出し
てしまった異次元の魔物・ガイザックを倒す使命を与える。おまえの背中の刻
印はおまえを監視し続けるわしの目になるだろう。それはおまえがガイザック
を倒さないかぎり決して消えることはない。」
 幼い心に大きな衝撃を受け、きょろきょろ辺りを見回している鷹司にそれだ
け言って、
 「さて、そろそろ奴の使い魔どもが地上にあふれ出す頃だ。この世界の人間
達をわしの作った地下都市に移してやるとするか。」
 そういうといつの間にか鷹司を含めた全ての人間達はオルティウスの造った
地下都市にいた。それは地上と同じ都市構造だった。違うのは空がないことだ
けである。
 「鷹司よ、この地下都市には一つだけ地上に通じる通路がある。わしが封印
しておくが、おまえに封印を解く呪文(スペル)を教えておこう。ガイザック
を倒しに行く時のためにな。」

 そしてその25年後、その呪文を唱えようとしていた。
 この25年間、ガイザックを倒すために体技、剣技、精神のありとあらゆる
修行をしてきた。少しでも怠けると背中のアザが容赦なく彼の背中を焼いた。
 魔法も自分の精神をコントロールする呪文だけは使えるようになった。
父の犯した罪を償うために25年間、歯を食いしばって耐えてきた。鷹司が実
際の歳より老けて見えるのはそのためだ。
 いよいよ封印を解くその呪文を唱えようとしたその時、
 「待って!」
と彼の背後から声がした。振り向くと15,6歳くらいの少女が立っている。
 「君は……?。」
 「わたしはエル。オルティウスの末裔よ。あなたの手助けをするためにやっ
てきたの。」
  「手助けって?」
 「もちろん、あなたに付いて行って一緒にガイザックを倒すの。」
少女はこともなく言ってのけた。
 「でも、君みたいな女の子を連れて行くことは……。」
鷹司は自分の運命にこの娘を巻き込むわけには行かないと思った。が、
 「ガイザックを倒しに行くことはわたしの運命でもあるのよ、あなたと同じ
ように。結局、オルティウスも彼らの侵攻を防ぐことはできなかった。オルテ
ィウスの残留思念がわたしに命じているの。鷹司さんのお手伝いをしなさいっ
て。」
 「残留思念?」
 「そう、みんなはオルティウスを精神体って言ってるけど本当は残留思念な
の。もう肉体はもちろん、精神体だって存在しないわ。残留思念といったって
ちゃんとその意志はあるから普通の人には区別は付かないだろうけど。」
 「わたし、これでも大魔導師オルティウスの末裔よ。魔法だって使えるわ。
そんなすまなそうな顔しないで、ほら、一緒に行きましょ。」
 鷹司は仕方なくうなずき、呪文を唱えた。
 地上への扉が開く。二人が地上に出ると、扉は再び閉まった。
 鷹司は幼い頃の記憶と余りにかけ離れた風景に衝撃を受け、エルは生まれて
初めて見る地上を何の感慨もなく眺めていた。そんな二人に、
 「鷹司、それにエルよ。」
とオルティウスの残留思念が語りかけてきた。
 「いくらおまえ達でも地上の使い魔達を退けながらガイザックのもとにたど
り着くのは不可能だろう。そこでわしがガイザックの居城まで異次元の道を開
いておいた。そこを通って行くがよい。」
 「でも、ガイザックだけを倒しても使い魔達がそのままじゃ結局人間達は地
上へは戻れないんじゃ……。」
エルがその疑問を口にすると、
 「大丈夫だ、我が末裔よ。ガイザックも含めて使い魔達は異次元の生物だ。
違う物理法則の元で生きている奴らはガイザックの造った結界の中でしか生き
られない。ガイザックを倒せば結界も消える。そうすれば使い魔達はその分子
構造を保てなくなって消え去るしかない。」
 鷹司とエルはうなずいた。
 「よし、それではガイザックのもとへ連れて行ってやろう。」
 二人はオルティウスに導かれ、異次元の通路に入った。するとオルティウス
の造った球状の結界の中にいた。結界は熱帯植物のような動物が飛び回ってい
る不気味な異次元世界の中を浮遊して移動している。
 「やだあ、気味悪ーい。」
思わずエルが呟く。オルティウスの残留思念が答える。
 「少々気味悪いだろうが我慢してくれ。この次元が一番近道なのだ。それに
この次元はまだましなほうだ。他には口にするのもおぞましいような次元があ
る。」
 「どんな?」
 「聞きたいか?」
エルはぶるぶるっと首を振る。
もうしばらく浮遊を続けると、
 「さあ、着いたぞ。」
というオルティウスの声と共に結界が何もない空間に吸い込まれて行く。一瞬、
体中の分子がぞくっと痙攣する。
 次の瞬間、鷹司とエルは現在ガイザックが居城としている神殿(鷹司の父が
ガイザックを呼び出した神殿である)の前に立っていた。
 間もなく背後から使い魔達が襲いかかってきた。
 鷹司が剣を抜くよりも早くエルは使い魔の方に両方の手の平を突き出した。
その手の平から炎が吹き出して蛙のような顔をした使い魔達を一瞬のうちに焼
き尽くした。
 「へーえ、やるじゃん。」
 「まあね。」
エルはぺろっと舌を出して笑う。
 「よし、じゃあ行こうか。」
 「うん。」
 二人は神殿の中へと入って行った。途中に現れた使い魔達を切り伏せ、ある
いは焼き尽くし、二人はガイザックのいるホールの前に着いた。オルティウス
の声が聞こえてくる。
 「よし、この部屋だ。鷹司、よく聞け。わしがおまえに奴を倒す使命を与え
たのはおまえが鷹一の息子だからという理由からだけではない。おまえにそれ
だけの力が潜んでいたからだ。そしておまえはわしの期待によく応え一流の剣
士となった。よいか、鷹司。奴を倒せるのは自分しかいない、そう信じて戦う
のだ。おまえが奴を倒さなければ人間達は永遠に地下に閉じ込められたままに
なるのだ。おまえだけだ。自信を持って戦うがよい。そしてエル。鷹司をしっ
かりと助けるのだぞ。それもまたおまえにしかできないのだ。」
 二人はうなずき、最後のドアを開けた。

 「ハーッ、ハッハッハッハ、ついにここまで来たか、愚かな人間どもよ。い
くら魔法や剣技を鍛えたといってもしょせんは人間。このわたしに勝とうなど
とは片腹痛いわ。さあ、何処からでもかかって来るがよい!」
 一番奥の玉座に座っていたガイザックは3メートルもあろうかという巨体を
震わせて笑った。
 「なにをーっ!エル、火!」
  エルがガイザックに炎を浴びせかけるのと同時に鷹司は愛剣を振りかざし、
ガイザックの巨体めがけてジャンプ、愛剣はガイザックの肩のあたりにめり込
んだ。しかし、刃は通らなかった。炎のダメージもないようだ。
 「くそっ!」
鷹司は歯ぎしりをする。
 「それだけか、鷹一の息子よ、オルティウスの末裔よ。それではこちらから
いくぞ!」
 ガイザックは両手を合わせ、呪文を唱えた。雷が鷹司とエルめがけて落ちて
来る。二人は辛うじてそれをかわした。
 ガイザックは呪文を唱え続ける。二人はかわすだけで精一杯だ。
 「やっぱり駄目か?」
そう思ったとき、再びオルティウスの声が聞こえてきた。
 「落ち着け、鷹司。魔法でマインド・コントロールするんだ。わしがおまえ
の剣の中に入る。大丈夫、エルもまた力を出し切っていない。」
 そういうとオルティウスの残留思念は鷹司の愛剣の中に吸い込まれて行った。
 それを見届けて鷹司はマインド・コントロールの呪文を唱えた。気持ちが落
ち着く。エルを振り返り、
 「エル、パワー全開!」
エルはうなずき、再度呪文を唱えた。
 「ぐおーーーーーっ!」
ガイザックのまわりの空間の空気分子が激しく振動する。ガイザックが初めて
怯んだ。
 「今だ!」
剣の中からオルティウスが叫ぶ。が、それより速く鷹司の体は反応していた。
ガイザックに向かってダッシュ、全体重をのせて胸に剣を突き立てる。オルテ
ィウスの残留思念がガイザックの胸を分子ごと引き裂く。
 一瞬後、鷹司の剣はガイザックの心臓を差し貫いていた。
 「う、う、う、があああああーーーっ!」
 断末魔の悲鳴と共についにガイザックはどさり、と倒れた。

 ゴゴゴゴゴ……。
 地響きがする。
 「いかん、鷹司、奴の結界が消えようとしている。もうすぐ二つの次元が接
触して次元雪崩が起きるぞ!早くエルがいるわしの結界の中に!」
鷹司の剣の中から出たオルティウスの残留思念が言う。
 「鷹司さん、早く!」
いち早くオルティウスの結界に守られていたエルが叫び、その結界ごと鷹司の
方に駆け寄って行く。
 鷹司もエルの方に駆けだす。
 ゴォォォォォォ!
 しかし間に合わなかった。
 接触した二つの次元がはじけ、次元と次元の間の亜空間に鷹司は落ち込んだ。
 「鷹司!」
 「鷹司さーーーーん!」
オルティウスとエルの叫びは鷹司には届かなかった。
 「お願い、鷹司を助けて!」
エルはオルティウスの残留思念に哀願する。
 「すまぬ、それは無理だ。」
 「なぜ?」
 「わしは残留思念にすぎぬ。それは徐々に少なくなっていくのだ。今回の件
でエネルギーをかなり使ってしまった。もう亜空間に潜り込めるだけの力は残
っていない。」
 「じゃあ、鷹司は、鷹司はどうなるの?」
 「かわいそうだが、永遠に亜空間をさまようことになるだろう。偶然近くの
次元に穴でも開けば戻れるだろうが、その確率はほぼゼロに等しい。」
 エルは絶句し、その過酷な鷹司の運命にただただ涙を流していた……。

 右も左も上も下も、時間の流れさえもない、絶対的な「無」の空間に鷹司は
漂っていた。鷹司はほぼ永遠にここから出られないことを悟っていた。
 このままでは自我が崩壊してしまうことは明らかだ。
 鷹司は自我を精神の奥深く閉じ込め、自分を無に帰した。
 無限の「無」の空間の中で鷹司もまた「無」になった。

               − 終 −




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