#1239/3137 空中分解2
★タイトル (RJM ) 91/10/21 23: 3 (154)
ぶら下がった眼球 第十四章 スティール
★内容
第十四章 反 転
私は電話で怒鳴っていた。画像はなしにし
た。いつもの、あの顔でごまかされたくなか
ったからだ。
「大佐、いったいどういうことですか。」
「どうかしたんですか?博士。」
私は博士ではなかった。が、いまはそうい
うことはどうでもよかった。
「ごまかすんじゃない。俺は真実を知りたい
んだ。俺は・・・。俺は・・・。」
「ですから、どういうことですか、博士。」
「俺は、博士じゃない。」
「あなたなら、博士になれますよ。私が力に
なってもいい。」
「違う。違う。違う。ちがう。そんな話じゃ
ない。私が言いたいのは・・・」
私は、そこで大きく息を吸った。
「人体の頒布のことだ。」
「そうですか、そうでしょう。きっと、そう
だろうと思ってました。」
「いったい、どういうことだ。また、サンデ
ィーで申請してくださいか?私は、開発者
だ。知る権利がある。きっとあるはずだ。」
「いいですか、よく聞いてください。全体の
利益は、少数の利益より優先するのです。
より多くの・・・」
「何が、全体の利益だ!売春や性的奴隷、お
まえは、自分のやってることがわかってる
のか。人身売買だろ。奴隷のな。」
「しかし・・・、バビロン計画は合法的な計
画です。上層部から認可された。私は計画
を進めるだけの・・・」
「何言ってるんだ。あいつらの人権はどうな
る。」
「彼らに人権はありません。彼らは人間では
ないのです。」
「そんなことは、新聞を読んでわかってる。
かわいそうだと、思わないのか。おまえの
せいで、何百何千万という人間が苦しんで
いる。かよわい女性が虐待されているひど
い目にあっている・・・
私は何を言っているのかわからなくなって
ていた。(真実が・・・、真実が・・・)と、
心の中で、繰り返し言っていたような気がす
る。悲しい思いで、胸が一杯になった。私は
過去に、こぼれ落ちた何かを拾おうとしてい
るような気になっていたのかもしれない。こ
れを阻止することに成功すれば、むかし失っ
た何かを取り戻せるような気がしていた。
「おい!ヘンリー!聞け、聞くんだ!」
どうやら、同時にしゃべっていたようだ。
「確かにいまは人権はないかもしれない。し
かし、二三年中に、必ず人権を持つはずだ
ろ。」
「それは、そうかもしれません。しかし、政
府と軍が反対すれば、遅れるでしょう。」
「ばかな!そんなことが許されるもんか!世
論がそんなこと許すもんか。」
「それは表面上はみんな反対するでしょう。
だが、現実の行動は違う。」
「いま、ADAM型の頒布数は、一億を超え
ています。軍隊にはあと十数億、民間用は
同じくらいバックオーダーを抱えています。
通販でね。これからもまだまだ増える予定
です。これは、民衆の指示があるとみてい
いんじゃないですか。」
私は心臓が痛くなって、胸を押さえた。私
の目には、EVEがひどい目にあっている光
景が浮かんだ。私はまた何かが、指からこぼ
れ落ちそうになるのを感じた。
「いったい、なんのために、なんのための計
画だ。」
「ですから、全体の利益のためです。」
「なにが、全体の利益だ。うすぎたない、狂
った、変質者の欲望を満たすためだろう。」
大佐は沈黙した。どうやら、煙草を吸って
いるようだ。その大佐の光景が目に浮かぶよ
うだった。そして、大佐は言った。
「ほう、それでは、君は、EVEのときは例
外だったというわけか?」
大佐に意外なことを言われ、私は絶句した。
私の沈黙は続いた。
「こういう場合には、どうなりますかな?あ
なたは契約の報酬として、金銭の他にノア
6号以外の物は要求していない。契約の解
釈のしようによっては、EVEは軍の所有
物になります。こういうときは、軍の特性
を生かして、強制収容ということも・・・」
大佐は、追い打ちをかけるように続けた。
「いえ、事情によっては、EVEをどうこう
しようと、いうつもりはありません。我々
が認めるか、見てみぬふりをすれば、あな
たの行為も合法的な、まったく正当な行為
になります。もちろん、これからも、あな
たが、我々の計画に協力してくれればの話
ですが。」
大佐は、私が了承するものと思って、話を
進めていた。それは正しい的確な判断だった。
大佐は確かに紳士であった。約束は守るだろ
う。脅迫という、悪い約束も。
私はEVEを失いたくなかった。どんなこ
とをしても。私はEVEの顔を思い浮かべて
いた。
「とりあえず、我々の計画に協力する証しを
見せてください。」
「博士。聞いていますか?」と大佐は聞いた。
私は、力のない声で応えた。それしか言え
なかった。大佐は要求を言った。
「ADAMの処刑は、ほぼ間違いなく執行さ
れます。あなたには、開発者として、死刑
の執行の決定、そして執行のボタンを押し
ていただきたい。」
私は気が遠くなったいくのを感じた。それ
から、何を話したのかは、よく覚えていない。
大佐の申し出を了承した以外のことはなかっ
たような気がする。
疲れた。EVEを呼び、膝枕で寝させても
らった。そして、DOGに盗聴器等の捜査を
命令した。私はその直後眠りに落ちたようだ。
(ADAMの処刑か。)眠りに落ちながら、
私は心の中でそう呟いた。