AWC ぶら下がった眼球 第十二章  スティール


        
#1226/3137 空中分解2
★タイトル (RJM     )  91/10/10  20: 1  (196)
ぶら下がった眼球 第十二章  スティール
★内容

            第十二章 逃避行

        目が醒めた。頭が痛い。首に包帯が巻かれ
       ているようだ。目が開かない。私はまた眠り
       に落ちた。夢をみた。

        真実は求めようとすればするほど遠くなっ
       てゆく。これからも。すべての物理の法則、
       科学全体の法則で、謎が解けるはずだ。私は
       いままでもいまもそう思っている。

        私は死の空間をただよっているのか。いつ
       死んでもいいと、私は思っていた。いや、死
       ぬことだけがすべてだった。虚しさ。生きて
       いても少しずつ自分の中で何かが死ぬんだ。

        次に目が醒めた時、EVEがかたわらに居
       た。大佐からメールが来ていた、と言った。
       私はDOGに返事の代筆を依頼した。時はど
       のくらい流れたのか?量りかねた。EVEは
       添い寝してくれた。今度は良い夢が見れそう
       だ。

        昔、意地をはったこと、はめられたこと、
       みんな、罠だ、罠だ、罠だ。はっはははは。
       私は小さな部屋の壁に背中を押し当て、床の
       上に直接座りこんだ。くそぉ。くそぉ。おか
       しいぞ。おかしい。何かが。白日夢か?
        夢なら何してもいいはずだ。しかし、私の
       体は、思いどおり動かず、スローモーション
       に空間は転換した。喋る言葉も、スローモー
       ションだ。でも、私は何かから逃れるために
       に前に進もうとした。私の時間はゆっくりに
       なり、私を逃さんとする何か、何かが迫って
       きた。私は何かに押し潰され、負けてしまい、
       身をゆだねてしまいたくなかった。死の恐怖
       ではなく、死なない恐怖、いや生き続ける恐
       怖というか、はっきりとしない、いたたまれ
       ない何か。現実に舞い戻り、私は起きていた。
       涙は出ていなかったが、私は泣いていた。心
       では、泣いていたようだ。右と左の五本の指
       を曲げて、何かを掴もうとしていた。私は何
       かを必要とし、シーツを掴んだ。私の眼から
       本当に本物の涙がこぼれ落ちた。金縛りのよ
       うな症状で痺れて、体が動かなかった。眼球
       を動かすことはできた。私は左の眼球を動か
       し、隣に寝ていたEVEを見た。それだけで
       安心した。私は、私に充足感を与えてくれる
       EVEに感謝した。私はまた眠りについた。

       「お前ら、みんなぶっ殺してやる!」私の魂
       は高揚していた。今までの破壊したい憎しみ
       や恨みの凝縮しているものをぶち壊していた。
        私は大声で笑っていた。どういう方法を壊
       したか、それとも殺したかは覚えていない。

        翌朝、目覚めた私はコーヒーを飲みながら
       呟いた。「被害者の次は、加害者か。」
        EVEは向かいに座り、私の顔を見て微笑
       んだ。私はコーヒーを持って、席を立ち、窓
       に向かって歩いた。窓の外にはいつもの風景
       があった。地球もあった。胃が痛かった。

        その時、電話があった。大佐だった。

       「やあ、ヘンリー、ひさしぶりだな。電気メ
        ールは見たか、見たよな。」
       「ええ、もちろん」
       「いったい何をしてたんだ?」
       「いえ、ちょっと体の調子が悪くて、」
       「ああ、そうか気を付けるんだな。」

        大佐は機嫌が良いようだ。

       「大佐、それで量産の方は?」
       「ああ、順調だ!きみの提案のおかげだ。」

       「ヘンリー、君のあの提案はどこから出てき
        たんだ?脳の神経を補強をやめるという案
        は。脳の神経を補強するのは、精神病の治
        療などによく使われる方法だそうだが。」

       「いや、それはたんなる、ただの勘です。そ
        れよりも、ADAMにも処置を施したんで
        すか?」
       「うん、そうだ。ADAMは今後も監視下に
        置くつもりだ。」
       「近いうちにまた連絡します。」

        私は電話を切った。調子が悪いことには気
       付かれなかったようだ。私はEVEが持って
       きた食事を食べ、また眠りについた。

        体力が少しづつ回復しつつあった。しかし、
       元通りになるのはいつになるのだろう。

        また数日が過ぎた。毎日が退屈なのか、充
       実していたのかはちょっとわからない。

        EVEと一緒に寝ていた。そんな時に知ら
       せは届いた。電話のベルが鳴った。私は半分
       寝ぼけながら、受話器を取った。

        大佐の声がした。

       「いますぐ、逃げてください。ADAMが、
        監視している者を殺して、戦闘機で脱走し
        ました。そちらに向かっているかも知れま
        せん。」

        そうだ。まだ、ADAMの記憶を記憶を消
       していなかった。といっても、ノアでしか消
       せなかったろうが。しかし、ここまで時間が
       たってしまうと、深層心理になってしまって
       いるかもしれない。そうなったら、その部分
       を消去して、架空の記憶を埋めなければ、人
       格の崩壊がおこる可能性があった。

       「だっそう、脱走ですか」
       「だっ、そうです。」

       「何故戦闘機に?」
       「いえ、それは軍事機密ですから。」

       「なにか、機密にする法的に根拠があるんで
        すか?」
       「いえ、自分の個人的な判断ですから。知り
        たい場合は、サンディー法に基づき、軍に
        申請してください。」

        私はそういう意味で聞いたのではなかった。
       大佐は話をはぐらかしていた。嘘をつくより
       は、ましだとは思ったが。

        とにかく事情を聞いた。ADAMは監視人
       を三人殺して逃走したということだった。植
       民星に逃げ込むか?それとも私のもとに向か
       うか?きっと彼らは賭にしていることだろう。

        私は突然のことで結論を出し兼ねていた。
       大佐が提案をした。

       「会議で話し合った結果、犯罪者に狙われた
        場合のマニュケルを準用することにしまし
        た。こういう場合の法的な救済が受けるこ
        ことが可能です。あなたには、三つの選択
        肢があり、その中から好きなものを選ぶこ
        とが出来、また拒否することも出来ます。」

       明らかに大佐はマニュアルを棒読みしていた。

       「ひとつめは、あなたがノアから避難する手。
        ふたつめは、ノアに護衛をはりつける手。
        みっつめは、ノアごと宇宙旅行という形で
        逃亡する手。まっこれはどの船でも構いま
        せんが。三つとも、会議で上層部の承認を
        得ました。他に提案があれば、上と相談の
        して、検討します。」

        大佐は顔を上げた。

       「どうしますか?」

        頭がぼやけていたので、後で返事をすると
       言って、電話を切った。EVEが居るので、
       ひとつめとふたつめの案は難があった。結局
       みっつめの案しかないようだ。ADAMは今
       にも、ここに現れるかもしれない。私はEV
       Eを失うかもしれない。そう、考えたら急に
       気分が悪くなり、頭が冴えてきた。ADAM
       に対する憎しみが、私を駆り立てていた。私
       はノア6号を衛星軌道から外す準備を始めた。
       大佐には事後報告で十分だろう。私は心身と
       も衰弱していて、ゆっくり休みたかった。し
       ばらく、旅にでるのもいいかもしれないと思
       った。宇宙船の内部の点灯火が、クリスマス
       のシャンデリアのように光った。私は微笑ん
       だ。点灯火に魅かれて、EVEも隣に来た。

       私はEVEに言った。「これから、旅に出な
       ければならない。何か持っていくものは?」

       「EVE、何もいらない。EVE、いま、う
        れしい。とっても、うれしい。」

        私はEVEの顔を見つめた。

       「EVE、声を出して、しゃべれることが、
        うれしい。自分の気持ちをしゃべれること
        が、うれしい。」

        こうして、私はあてのない宇宙旅行に旅立
       った。いつ、帰ってこれるのだろうか。でも、
       このまま帰って来れなくてもいいと、私は思
       っていた。




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