#1211/3137 空中分解2
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ぶらさがった眼球 第九章 スティール
★内容
第九章 何かがおもいで
地表に着いたショックで、目が覚めた。汗
びっしょりだった。頭が痛かった。やはり、
過労気味で疲れているようだ。
無機質的な色彩は軍港そのものであった。
私は管制塔に向かって、滑走路の上を歩き始
めた。民間のように、迎えに来てくれるとは
思えなかった。
寒かった。まさか地空を歩くとは思わなか
ったので、季節のことを忘れていた。秋のよ
うだ。寂しく冷たい風の中、私は少し足を早
めた。見渡す限り、人の姿はなかった。私は
ちょっと不安になった。管制塔までまだまだ
距離があった。本当に人がいるのだろうか?
昔、誰かが「時間の流れは相対的で、楽し
い時は早く時間が流れ、不快な時は遅く時間
が流れる」と言ったらしいが、本当だなと実
感した。秋の日差しだった。私はその感覚を
ほとんど、いや全く体験していなかったが、
それを感じた。寒い太陽だ。前の太陽はもっ
と暑かったはずだ。待てよ、前に一度来たこ
とが・・・
かなり管制塔が近くなってから、私の姿に
気付いたのか、誰か出てきた。大佐だった。
私は手を挙げて、彼に近づいた。そして、二
人は握手した。
「やあ、ヘンリー!よく来てくれた。なかな
な、ADAMの検査がうまく行かなくて困
っていたところだ。歓迎するよ!」
「で、ADAMの検査はどのように?」
「ADAMの脳の損傷・腫瘍などの調査をし
たが、カビ一つ生えていなかった。」
大佐はバビロン計画の責任者としては無能
だと私は思った。大佐はそのことにはまった
く気付かないようだが。
大佐はさらに続けた。
「そこで、精神病の権威を呼んで、診察して
もらったが、まったく異常はないというこ
とだった。」
私はADAMの脳の神経の結びつきの度合
いや新旧について調査したかどうか聞いた。
大佐はけげんそうな顔をして、何の事かと言
った。私はこの研究所ではADAMの分析は
できないと直観した。大佐も私の気持ちを少
しは察したようだ。私は、大佐がADAMの
あの発言に触れないので、自分から聞くこと
にした。
「それで、ADAMがあの発言をした点につ
いては何かわかりましたか?」
「いやっ、そこのところがどうもわからない
んだ。」
「ADAMはなんと言っているんですか?」
「ADAMは・・・、言葉通りだと・・・」
「ADAMが自分の考えで、そんなことを
言うわけはない。断じてない。ありえな
い事だ。」
大佐はじっと私の顔を見据えて言い返した。
「それは、あなたが一番よく知っているんじ
ゃないですか?」
「馬鹿な!私のせいだと言うのか?」
私は声を張り上げ、ヒステリックに絶叫し
た。
「何を言ってるんだ!ADAMがダメになれ
ば、私のミスになりかねないんだぞ!なん
で、私が!」
「まあ、そんなに怒らないで、これからはあ
なたの指示に従いますから。」
ADAMに異常の調査に関してに、私に選
択の余地はないようだ。バベル博士のように
はなりたくなかった。しかし、大佐の態度に
対する怒りは収まらなかった。
「こっちにだって言いたいことはある!軍で
は、アダム型の量産を計画しているそうじ
ゃないか!私はそんな話は聞いてないぞ!
いったいどういうことだ!私を騙したのか、
どうなんだ!大佐!」
大佐は私をなだめながらこの質問に即答し
た。私に聞かれるのを予想していたようだ。
「本当は第23号に該当する極秘事項ですが、
あなたは関係者ですから、特別に教えまし
ょう。すでに何十体か作られています。軍
のハードウェアに関する技術は進んでいま
すから、半日で製造工程を終えることが可
能です。もう、そろそろテストに入ってる
ころでしょう。」
「量産の目的は?」
大佐は煙草を吸いながら、軍人の顔で答え
た。
「それは第15号に該当する極秘事項ですか
ら、私の権限ではお答えすることはできま
せん。」
私は大佐の横っ面を張り倒してやろうかと
思ったがやめた。しかしその時、私の頭に何
かが閃いた。(第15号?)私の口が勝手に
動いた。
「人口の減少のためか?」
ちょうどバベル博士が死んだころから、出
生率は下がり始め、最近では、死亡率の十分
の一か、二十分の一まで落ちていた。人類全
体の人口は、人が死ぬ分だけ減っていると言
っても過言ではなかった。そのことで政府が
プロジェクトチームを作っていることは誰で
も知っていた。
大佐はその問に対して何も言わなかった。
だが、たぶんそうに違いないと、私は感じた。
彼は私に自分の部屋までついてくるように言
った。私は黙って彼に従った。管制塔の入口
から、入ると広くてきれいなロビーがあった。
大佐はエレベーターに向かって歩いた。私
も後を歩いた。大佐はエレベーターには乗ら
ずに、その横の階段を登った。大佐がこっち
の方が近いと言ったのだ。
私はその時思い出した。この場所に来たこ
とがある。そうだ、バベル博士と一緒に・・
・。でも、いつ来たんだろうか?
大佐の部屋は汚かった。山のように資料や
部品が散乱していた。その様子からみて、大
佐は科学者というよりも、生物エンジニアに
近いようだ。大佐は机の上を片づけながら、
言った。
「いつもはもっときれいなんですが、ADA
Mが来てから、こんなになってしまって。」
私は沈黙したままだった。大佐は不機嫌な
顔をして煙草に火を点け、深く吸った。その
吸ったものを吐き出してから、おもむろに話
を切り出した。
「確かに、出生率の低下が関係している。だ
が、すこし事情が違う。君にはその事を納
得して、協力してもらいたい。」
そのとき、私はなぜか悪夢のようなものを
感じた。大佐の態度は紳士的だが、脅迫めい
ているようにもみえた。