#1194/3137 空中分解2
★タイトル (QJM ) 91/ 9/21 0:33 (200)
CORE〜中心の行方〜2 KY
★内容
「今から15分後に駅前{新宿}のT・Tで会おう」―――――――――――――――
忠も亜紀も、徒歩で駅へと向かった。歩道を渡る若者の多くはまだ徒歩だったが、中に
はソーラー・電動式自転車や車道を低磁力スケーターで10センチ程浮いて行く者もいたT・Tとは駅前に建つ異様な程細長いビルで、幅は僅か8メートル程で、高さは80メーも及んだ。誰にでも目につくこのビルの下にはベンチのかたまりがあって多くの人達の
待ち合わせ場所に使われていた。なんせ、その会社の意図的なものなのか、100坪の
所有地の中、ベンチ広場の中央にそれはそびえ立っているのだ。
二人は同時にそこで出会った。忠は白の短パンに青のカーディガン、亜紀はライト・ブルースで、いつもの様にユーブイ・ハットにバッチを付けていた。それは去年の亜紀の誕生日に藍色でトンボの形をしていた。
渋谷までのキップは、大半クレジット・カードで交換されていた。各駅停車車両を除いてはてリニヤ式車両になっていて、駅構内では至る処に企業広告が貼られてあり、変わり種だと宣伝文句を喋ってる大きなロボットが行き帰る人々の注目を浴びていた。
渋谷まではまず、リニヤ車で1駅目の新宿で降り、自車発電式電車の各駅電車で向かわ
れていた。亜紀は向かう途中、両親の若い時分の時と比べて余りにも所要時間が短くなった
たのだと考えた後、…今は未来にすぐ行けるのね…と忠にぽつりと話した。―――――
渋谷の町にもID検問所が随所に見られた。新宿に比べ、そこの気品は若干劣ってはい
たが、それは‘ヤング・タウン渋谷’と思わせる不均一な形のビル群が建ち続いているから。占い店のピラミッド型や玩具店のロボット型、タレント・ショップは個々の姿似ロボット乗せていた…まるで遊園地に来たかの様である。
二人は時間の許す限り色々な店を廻り歩いた。亜紀は絶えずはしゃぎまわっていたが、
時折見せる忠の盲人の様な表情を窺っては気を逸らそうと何かに指を差しては話題を作
っていた。
午後一時に二人はレストランにいた。テーブル端にあるオーダー・ホーンに食べ物を注文し、忠が言った。
「亜紀、」
「どうしたの、タダシ。」
「…いや、いいんだ。渋谷は一年でだいぶ変わってたな、道路も増えたし、ビルも…」
亜紀はそらぞらしい忠の会話に言葉を挟み言った。
「タダシ、私には何でも言ってね、かくされると寂しくなるから」
忠は亜紀の目を見て言った。「隠し事なんて何もしていないよ、ただ少し不安なだけな
んだ。」
亜紀は少し忠の方に体を寄せると言った。「‘何か’って言ってたわよね、まだはっき
りしていないの?」
忠は視線を下へ向けるとため息をついて言った。
「…変なんだ。時々、自分が誰なのか解らなくなるって言うか」
「{自分が}って、どんな風に?」亜紀の言葉に僅かな鋭さが感じられた。
「簡単に言うと、例えば…犬に対しての自分の気持ちとか…別に犬じゃなくてもいいん
だけど、周りの動物や植物を見た時に、自分の心が引き締められる様な感じがするんだ」亜紀は半ば落ちついたのか、口元を揺るませ忠の話しを聞き続けた。
「その感じっていうのが妙で、時間を置いた後でもいちいち頭に残って離れない時もあ
るんだ。初めは自分がSHPになったからだと考えていたけど、その場合は単なる記憶
に留まるはずだし…この間の隣の猫との時なんて、何か強迫的に考えさせられたんだ」
「それで、何を考えさせられていたの?」亜紀が聞いた。
「…ほんと下らない話と亜紀は思うだろうけど、あの猫をまるで人間の様に感じて…何
か親近感をも感じたんだ…」忠は返事に迷っている彼女を見ると笑って言った。「とん
だ笑いネタだろぅ、考えすぎなんだと思うけどきっと…」しばし二人に沈黙の時間が流
れたが、少し濁った表情の亜紀がそれを破った。
「タダシの言っている事が本当なら、一つ聞いて言い?」
「どうしたの、改まって」と忠。
「私に対してはどうなのタダシ?‥SHPになる前と後とでタダシの気持ちは伊東さん
家の猫と同じように何か違った感じがしてるの?」
忠はすぐさま答えた。「何言ってるんだ、少しも変わってなんかいないよ」
亜紀は忠が言い終わるとすぐ言った。
「よく考えて!タダシ、少しでもいいの‥」亜紀がそう言っている所にウエイターがスパィーを持ってきた。「お待たせ致しました。あっ、いらっしゃいませ!」
忠と亜紀のすぐ隣のテーブルに四人連れの新しい客が座った。
忠は亜紀に小声で言った。「人間に対しては例外みたいだ」
亜紀は一瞬だったが、忠の目の濁りを見逃さなかった。
二人は3時に新宿駅で別れた。忠の手には薬師寺医師宅の住所が書かれた紙が握られて
いる。亜紀は忠に背を向け歩き出すと、再び振り返り、ソーラー・タクシーへと向かう忠を見つめていた。忠が振り向きそれに気がつくと亜紀に微笑み、手を振った。そして次
の瞬間その手はタクシーへと向かわれた。
亜紀は忠の車が見えなくなるまで立ち尽くしていた。そして女友達の待つプールへと向
かった。
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「やぁ、君が忠君か。」
「はじめまして、高倉忠です。」
大京病院の精神神経科医師の薬師寺は小太りで口髭を蓄えており、優しさと男らしさが
にじみでているその顔からは、幅の広い人格を持った人柄が窺えた。
彼は、忠を自分の書斎へと招き入れると大きな肘掛け椅子に腰を置き、忠にも向かい合
わせに用意してあった同じ椅子へと導いた。
薬師寺の書斎は、80坪程と思える家のわりには狭く、本棚やそこら中に散っているフ
ァイルなども手伝って、いっそう窮屈に感じられた。そして彼の机の上には、SHPと
書いたシールが貼られたファイル・ブックが何冊か目に届いた。
薬師寺は椅子に掛けてある紺色の背広の内ポケットから老眼鏡を取り出し、ゆっくりとると忠の顔を穏やかに見つめた。
「SHPになった気分はどうだい?」
忠は照れくさそうにうつむいて、「動揺してます」と答えた。
薬師寺が言った。「楽な感じで話してくれよな、この診察は特別に無料だからな。」
忠はこの温厚な医師ならなんでも打ち明けられると思い、すぐにリラックスできた。
――これでもう悩むことはないだろう――
「君の目を見ただけですぐにSHPだとわかったよ、忠君は確か亜紀ちゃんと同い歳だ
ったよな?」
「いいえ、僕は15歳になりました…SHPにはその誕生日に突然…」
「あぁ、そうだったのか!こりゃ大変だったな、気絶はしなかったのか?」
「いえ、しませんでした。ただ、めまいがして…」
「うむ、わかった。しかしまだその若さでSHPになれたとは私にもいい勉強になる、
ちょっとその時のことを聞きたいのだが、めまいがした時、頭のどこに重圧を感じたの
かい?」薬師寺は興味深げに忠に聞いた。
「…はじめに頭全体が軽く締め付けられて、体が動けなくなったんです。それから…て
っぺん、頭の天辺に重圧が集中していって、何かその塊が外に出て行った感じがしまし
た。今でもはっり覚えています。」
薬師寺は途中まであいづちをうっていたが、頭の天辺の話の所で眉をしかめ、返事をす
るのに困惑した。(なんという事だ!このまだ幼い少年に、あの噂に聞いた“悪魔”へ
の変貌過程を聞かされるなんて!)薬師寺が返事に迷っていると、忠は彼の目を窺った
丁度そのとき薬師寺の妻が忠へのお茶の計らいの為、内線ホーンが鳴ってきたので、忠
に病院での急用事との理由でこの相談話を打ち切らせた。
薬師寺は困惑した表情を隠せなかったが、忠には不信を与えないですむ。丁度嘘の建て
前に合う表情としても理屈が通るからだ。早く薬師寺は自分の動揺をおさえたかった。
このまま忠と落ちついて話を続ける事は不可能であろう。ここは慎重に対応しなければ
「忠君、せっかくだったんだが、急病の患者の為なんでほんとにすまんな。もっとその
話を聞きたいんでまた明日きてくれるね」その時、薬師寺の額から大粒の汗が流れた。
「はい、それではまた明日来ます」薬師寺は白衣の袖で汗を拭いながら忠を玄関まで送
った。そして忠が家を出るのを見届けるととっさにさっきの会話の一部始終を確認した
忠は聞き残した事を思い出して閉めた玄関扉を開けた、すると医師は廊下にしゃがみこ
んでいた。汗が数滴床に落ちている。
忠は医師の不可解な状態に不安に思ったが薬師寺と目が合うと、か細い声で聞いた。
「あっあの…明日の事ですが、何時にくればいいのですか?」
薬師寺は身体を起こし、笑顔を造りながら言った。
「あっあぁ、家の者に電話をさせるから待っていてくれればいいよ、ちっちょっと命の
危ない患者でね、いろいろ考えていたんだよ。それじゃぁ、気をつけて帰るんだよ。」
医師の声にも気力は薄らいでいた。
「すみませんでした、それでは失礼します。」
忠は医師の家を後にすると、気を取り戻し家路に向かった。
「あなた、どうかしたのですか、あの子に何か?」薬師寺の妻が言い寄った。
「いや、血圧が急に上がったらしい。昨日、降下剤を飲み忘れたらしいようだ。」
薬師寺は妻から手渡された手ぬぐいを取り、汗を拭いながら書斎へ向かった。
「降下剤なら、しっかり昨日お飲みになったじゃありませんか…」
薬師寺の妻は書斎へ足早に行く医師に言った。
薬師寺はぐったり椅子に掛けると、軽く深呼吸をして机に向かった。
(もしあの噂が本当なら、間違っていたのだろうか?あの場合、三日もしない間に気が
狂ってショック死しているはずだ、数々の恐ろしい行動を犯した後に‥‥‥‥)
“悪魔”の噂の真相を知る者はいないに等しかった。この患者を目の当たりに見た多く
の医師達は、ほとんどポックリ病なる突然死として扱っていた。
しかし、SHP患者の場合、旧人の症状とでは明かに事を異していた。
SHPになり、突然死となる人間のケースは一種の超常現象が必ず伴っていた。
ある者は一声悲鳴をわめくたびにその周りの物という物が動いたり、破損をし、またあ
る者はその延長であらゆる全ての物を自分の意のままに操り、人をも惜しまず殺してし
まう者もいた。また紙幣を自分で造り、遊び惚ける者までいたと騒がれた事もあった。
恐ろしく非現実的なその行為はとても人間業と思えぬものだった!
そして、それらのSHPからは必ず死亡報告が送られてきた。少なくとも3,4日以に。全ての死因はショック死か自殺であった。
…私の見間違いなのか?いや、確かにこれらの患者からは、頭の上部の重圧が感じられ
たと症状を訴えていた。他のSHPにはそれは絶対なく、軽い頭全体の重圧感だけだ。
私は直接会った事はないが、この特別記録ファイルにミスは絶対ないはずだ。彼がSHPなってからまだ5日目…例外も考えられる!私は何をしているんだ!一刻も早く彼を…
薬師寺は急いで救急ホバー車を呼びだした。
「至急青シャツの少年を探してくれ、病名はともかく大変なんだ、あの子を拾ったら大頼む」ホバーの操縦士は着陸し医師を乗せると急旋回をして忠の向かっているはずの駅の所へCPカーソルを合わせ、薬師寺に言った。「その少年のIDナンバーはわかります
か?」
「GC10753だ。」(まだS・HPで登録をしていなかったのか、これは良かった
、もしあの事がばれていたら何をされたかわからなかったところだった。)
1年程前からこの噂は薬師寺の耳に伝わっていた。S・HPではすでに“悪魔”を見分
けられるCPスキャナがあって、異常が確認されるとロボトミーにされるということだ
った。この事がもし真実であったら薬師寺にとって絶対許せる行為ではない事だ。
(あの噂は事実なのだろう、国の奴隷の奴らならやりかねない事だ!)
忠は駅まであと数分の所までの歩道を歩いていた。そして、こちらに向かって歩いて来
る一人の女性が見えた。それは亜紀の姿であった。
「タダシ、早かったのね。」亜紀は明るい調子で言った。
「どうしたの、プールへは行かなかったの?」忠が言った。
「そんなに行って欲しかったの」亜紀は忠から視線を外してふくれて言った。
「何で怒ってるの、俺が何かした?」
亜紀はふくれたまま言った。「べつに。」忠が黙っていると続けて言った。
「今日、タダシの家に行っていい?」
忠は亜紀の表情を窺いながら言った。「まだ薬師寺さんと話が途中なんだ…」
亜紀が忠の言葉を割って言った。「今日、泊まるから、タダシ。」
亜紀の声は二人の先を行く者の耳まで届いた。
忠は自分達を見ている数人の事などに気など止めなかった。亜紀が忠の家には一度も泊
まった事はなかった蹄オ、サディストじみた亜紀を見たのもはじめての事だった。
忠がガード・レールに後ろ向きになった亜紀の顔をのぞき込むと亜紀の頬に涙の粒が伝う見た。忠に対して涙を流す亜紀の姿もまたはじめてであった。
何か二人を突き放す様な意識がお互いによぎった。
そして目と目が合うと次の瞬間、二人は強く抱き合った。何もかも初めてである。
忠と亜紀にこの時、時間がなくなった。
「いたぞ、もうこの辺りなんだが。」操縦士がCP画面を見て言った。
薬師寺はホバー車の窓から忠の姿を探した。そして青シャツの少年がなにやら女性らし
い体裁の者と肩を組んで歩いている姿を見つけた。そして操縦士に指差して言った。
「あの少年だ。」
操縦士はあっけにとられて言った。「失礼ですが薬師寺さん、あの少年がほんとに重病
で…」
薬師寺はもう一度少年を確認して言った。
「間違いはない、あの少女も知っている子だ。構わず二人の前方で降りたまえ」
医師はにがみばしった表情で言った。
救急ホバー車が忠達の近くまで進み、着陸体制をとった時、亜紀がそれに気づいた。
「タダシ何、あれ?」
忠は亜紀が見ている方向へ振り返ると真上にさしかかったホバー車が映った。
そのとき、忠の脳裏に急激な信号がよぎった。――あ、危ない――
「何、タダシ、どうしたの?」二人は立ち止まった。
忠は亜紀に無意識に出た怪奇じみた笑顔を浮かべると、ホバー車を見た。
すると医師達を乗せた半径3メートルもあるホバーがたちまち規定の上限空気衛星を打ちり、どんどん上空へと押し上げられて行った。
「キャー」亜紀は悲鳴を上げるとその場にしゃがみこんだ。そして忠の腕に触れようと
した時、亜紀の全身に強いしびれが走った。亜紀の延ばした右手が忠の片足に滑り落ち
ると、忠は正気を取り戻した。
忠が亜紀を探すと自分の下に倒れているのを見つけた。
「亜紀、どうしたんだ!」
な、なにがおこったんだ!お、おれは今なにをしていたんだ!
忠はあわてて亜紀の体を起こし、頬を軽く叩いた。そして、震えながら彼女の脈を確認
した。「気を失っている。どうしてなんだ?」
忠が亜紀を介護していると、二人の周りに大勢の人だかりが出来ていた。なにやら上空
を指さしてざわめいている。
「あんなの見るのはじめてだ、これはきっとニュースに流れるぞ」誰かが言った。
忠が上を見ると車体のへこんだ救急ホバー車がゆっくりと下降していた。
「はぁ、助かった。先生、怪我はありませんか」操縦士が言った。
「あ、あぁ大丈夫だ、それより無事に着陸出来るのかね」