AWC インドの汽車  KEKE


        
#984/3137 空中分解2
★タイトル (UYD     )  91/ 6/ 2  16:46  ( 92)
インドの汽車  KEKE
★内容
 乗り込んでみると、汽車のなかは人で一杯だった。人だけではな
い。鶏や兎、いや、豚まで乗り込んでいる。それらの人や動物、そ
の他さまざまなものがかもしだす臭いが汽車のなかに充満していた。

 私は鼻をヒクつかせながら、自分の座る所を探した。当然ながら
座席はとうにうまっている。便所の側の通路に少し空いている部分
を見つけたので、バックパッックを肩から下ろして割り込んだ。回
りのインド人たちはぶつぶつ言いながらも、少し動いて場所を空け
てくれた。
どっかと腰をおろす。

 バックパックの中からパンを取り出した。もう昼過ぎだというの
に朝から何も食べていなかったのだ。パンをガツガツと腹の中に詰
め込む。水筒にはいったチャイ(インドの甘い紅茶)を飲む。食べ
終るとやっとひとごこちついた。

 いつの間にか汽車は動き始めていた。発車のベルの音もなしに出
発したらしい。間一髪だったなと、私は安堵した。この駅に来るま
で散々迷ってえらく時間がかかったのだ。もう少しで乗り遅れると
ころだった。
 何事であれ、インドではすんなりうまくいくということはまずな
い。たえず、何か起きて、うまくいかなくなるのである。もし、す
んなりいくようなことがあると、先によくないことが待っているの
ではないかと不安になるほどだ。

 汽車はインドの赤茶けた大地をひた走りに走っていく。
私は尿意を覚えて便所へいった。といっても目の前だったが。ドア
を開けて中を覗くと、そこにはすでに人が座っていた。慌てて閉め
ようとしたが、よく見ると、ズボンを下げているわけでもなく、別
に便所を使っているわけではないらしい。つまり、このインド人の
男は便所を個室の客室として使っているものらしい。
 私は身振り手振りで、便所を使いたいのだと伝えようとした。だ
が、男は首を振るばかりだった。
私はだんだん尿意が強くなってきて、焦りはじめた。男を便所から
引きずりだしても小便がしたくなってきた。

 そのとき、隣にいた男が、私の肩をぽんと叩くと、何かを手に握
らせた。何だろうと見てみると、何とコンドームだった。これをど
うしろというのだろう。男はコンドームを股間にもっていく動作を
さかんにしている。
ああそうか、このなかにしろというのか。鈍い私にもやっとのみこ
めた。

 とにかく尿意が強くなってきて、出る寸前になっていたのだ。普
段なら恥ずかしくてとてもそんな気にならないだろうが、その時は
夢中でやってしまった。ズボンからちんちんをひっぱり出すと、コ
ンドームをあてがい、一気に小便を放出した。コンドームは風船の
ように膨らんだ。小便を放出してさっぱりした私は、その風船の口
のところを結んで、中身がもれないようにした。それから、それを
窓の外に捨てようとした。そしたら、そのコンドームをくれた男が、
さかんに持っていろという仕草をした。こんな汚いもの持っていて
どうするんだ、と思ったが、ほかならぬその男のいうことなので、
その風船を私のバックパックの横に転がしておいた。

 汽車の中で時間だけがどんどんたっていく。ふと気がつくと、車
内のあちらこちらで小便をコンドームのなかにするシャーという音
がするようになった。インドでは、小便はコンドームのなかにする
ものなのかな。もっとも車内はかなりな混雑で、なかなか便所まで
行けないし、行ってもその中には人が座り込んでいる。コンドーム
の中にしてしまうというのも、なかなか便利な工夫ではある。

 汽車は何度か汽笛を鳴らすと、だんだんスピードをゆるめはじめ
た。駅が近づいてきたらしい。
そのときだ。車内の男たちが立ち上がると、片方の窓の方へ歩みよ
った。手には例の風船を持っている。
何だ、何だ、と私は思ったが、思わず私も風船を手に、その窓の方
へ向かった。

 汽車は徐行しはじめた。少し前方に駅のプラットホームが見えて
きた。隣の線路に別の汽車が止まっている。
汽車はさらにスピードをゆるめ、やがてプラットホームにすべりこ
んだ。
 窓際に集まった男たちは、風船を振り上げ投げる構えだ。私は窓
のところに来たものの、事情が分からずポカンとしていた。

 ふと、プラットホームの反対側に止まっている汽車を見ると、窓
際に男たちが鈴なりになっていて、同じように手に手に風船を持っ
て投げる構えをしている。
はっ、と思った瞬間、風船の最初の一発が向こう側から投げられた。
それが合図のようになって、こちら側の男たちも一斉に投げ始めた。
プラットホームを挟んで、向こうとこちらの両方の汽車の間を、お
びただしい数の風船が行き来した。

 私は手に風船を持ったまま、ただ唖然としていた。このごにおよ
んでもまだ、事情がのみこめなかったのだ。
と、風船の一発が私の顔の鼻のところにパシッと命中した。中身が
パッと飛び散った。生暖かい、妙な臭いの液体が顔をたれて、ポカ
ンと開いている私の口の中に流れ込んできた。
 その液体はしょっぱい味がした。


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