AWC お題>一枚のカード  [ Sally ☆//]


        
#957/3137 空中分解2
★タイトル (FNM     )  91/ 5/12   1:11  ( 97)
お題>一枚のカード  [ Sally ☆//]
★内容
 5月のある晴れた日の朝、私の手元に一通の葉書が舞い込んだ。宛名は吉崎
香奈子様(つまり私)。差出人の名前は・・・・え?私?
 葉書の左下に書いてある差出人の名前は、自分自身であった。
「私から私への葉書・・・・?」私は狐につままれたような気分になった。
 表書きの字は、見間違うことのない私の筆跡で、ちょっと右上がりで大小が
バラバラな、お世辞にも上手とは言えない(ハッキリ言えば下手な)字である。
 裏をかえすと、たった一行、やはり確かに私の字で「5月27日、忘れない
でね。」とある。

「5月の27日って・・・・来週かぁ。」何か予定があったかとカレンダーを見る。
特にこれといった予定は入っていないはずだった。
 それにしても、書いた覚えの無い自分からの葉書とは、一体なんなのだろう。
自分から自分に宛てて葉書なんて・・・・。
 誰かの冗談かとも思ったが、自分の筆跡と確信できる以上、その線は薄いだ
ろう。自称オカルト映画気違いの私は、ちょっと背筋が寒くなったような気が
して身震いをした。誰かが私を陥れようとして錯乱攻撃に出たのか?いやいや、
これはちょっとサスペンス映画の見すぎみたいね。
 でも・・・・だとしたら私は、これを書いたことすら忘れるほど、記憶力が無く
なくなっちゃったんだろうか。まだ16才になったばかりだというのに、もは
やアルツハイマー性痴呆症に?んな、馬鹿なぁ〜。

 色々と思いめぐらしてもどうやら埒があかないようなので(もっとも真面目
に考えたとは言い難いが)、もう一度私は注意深く葉書を調べることにした。
「消印は」と見て気づいたのだが、その葉書は消費税が導入される前のものら
しく40円で料金不足のまま届いている。
「私ったら・・・・1円切手を貼ろうなんて考えもしなかったのね。・・・・でも、こ
んな古い葉書、うちにあったかしら・・・・。」
消費税が導入されたのは2年ほど前、ちょうど私が高校に入学する前の年であ
る。中学校かぁ・・・・。
 高校に入ってから、中学生の時のことを思い出すことが少なくなっていた。
よく一緒に遊んでいた友達も、高校が離れるとみんな音信普通である。最初の
頃は何かにつけて集まっていた仲間も、高校生活にも慣れ、新しい友達ができ
るにつれて、自然と会わなくなってしまったのである。

「あぁぁぁぁぁ!」
「27日って・・・・匡子ちゃんの命日だ・・・・。」

 中学校の時、いちばん仲の良かった匡子ちゃん。学校でも、休みの日でも、
いつも一緒にいた。お互いになんでも話せて、世界中で一番大好きだった匡子
ちゃん。3年生に進級して、「また一緒のクラスだね。卒業までずっと一緒だ
ね。」と、手を叩いて喜び合った親友・・・・。
 卒業どころか夏休みも待たずに、彼女は逝ってしまった。
 一緒に映画に行こうと約束して、待ち合わせた喫茶店。何時間待っても現れ
ない彼女。私は待ち疲れて「もう匡子ちゃんったらぁ。」とふくれっ面で店を
出た。彼女が待ち合わせの場所に来る道すがら、車にはねられたなんて考えも
しないで・・・・。
「あれからもう2年かぁ。」

 懐かしさと共に訪れる深い悲しみ。
 一緒に選んでお揃いにしたピンクのTシャツ。二人とも大好きだったマイケ
ル・J・フォックスの映画。サザンオールスターズのCD・・・・。サザンとマイ
ケルは今でも好きだけど、マイケルの目がどんなに素敵か、桑田さんの書く詩
がどんなに切ないか・・・・飽きることなく語り合った人はもういない。

 お葬式の日、匡子ちゃんのお母さんから頂いたのは、彼女が大切にしていた
オルゴール人形。匡子ちゃんは14才の誕生日にパパから貰ったと大喜びだっ
たっけ。「潮騒のメロディー」にのって人形がくるくると回るその姿を二人で
ずっと眺めていたよね。
「このお人形の顔がねぇ、香奈子ちゃんに似てるって匡子が言ってたのよ。だ
から貰ってちょうだいね。」そう言って寂しそうな表情で、おばさんは人形を
白い紙に包んで渡してくれた。まだ実感が湧かなくて泣くこともできずにいた
私は、おばさんの顔を見て初めて、涙をポロポロとこぼした。
「香奈子ちゃん、時々でいいから匡子のこと思い出してやってちょうだいね。」
「忘れたりしないよ、おばさん。絶対に・・・・。私が匡子ちゃんのこと忘れたり
するわけないよぉ。」鼻をグスグスとすすりながら、ふと「でも、香奈子ちゃ
んって忘れんぼうさんだからぁ。」とクスクス笑う匡子ちゃんの声が聞こえた
ような気がした。

「そんなことないよぉ。忘れたりしないよぉ。」
「だってぇ、この前だってプラネタリウム見に行く約束したのに、何時間待っ
ても来ないから、家に電話かけたらTV見ててさ。約束忘れてたじゃない?」
「・・・・うーん、ゴメン。面目ない。」
「来週の日曜日は大丈夫?ちゃんと起きられる?」
「日曜ってなんだっけ?」
「やだぁ、一緒に映画見に行く約束したじゃない。」
「心配だなぁ。私嫌よぉ。またミルクティ一杯で何時間も待つのは。」
匡子ちゃんは、ちょっと顔をしかめて見せる。本気で怒ってはいないけど、腕
組をして「プン」と怒ったマネをしてみせる。
「だ、大丈夫。今度はそんなことないって。」
「信じられないもん!」
「そーねぇ・・・・忘れないように、なんかにメモしておこっかなぁ。」
「でも、そのメモを無くしたら?」
「うーん。」
  結局、匡子ちゃんの提案で、約束の日の前日(つまり土曜日)に届くように
自分あての葉書を書くことにした。投函は匡子ちゃんの役目。
「私は香奈子ちゃんと違って、忘れたりしないもの。」
そう言って笑う匡子ちゃんの髪が、夕日を浴びてきらきらと輝いていた。

 これは2年前に匡子ちゃんが投函した葉書。5月27日の約束を忘れないよ
うに・・・・匡子ちゃんのことを忘れないように・・・・匡子ちゃんが私に届けてくれ
たメッセージカード。
 それがなんで2年も経ってから届いたのかはわからないけれど、彼女の命日
の一週間前に届いたのは、もしかしたら匡子ちゃんが忘れっぽい私に教えてく
れたのかもしれない・・・・。
 ごめんね、忘れてて。ちゃんと命日にはお墓参りに行くからね。

 見上げた棚の上で、匡子ちゃんのお人形は微かに微笑んでいるように見えた。




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